洋上風力の電力がプレミアムなしの市場価格に
―ドイツの第1回入札で、2024年に供給開始―
自然エネルギーの拡大と原子力の撤廃に取り組むドイツで、洋上風力を対象に実施した第1回の入札結果が明らかになった。2021年から2025年までに運転を開始する上限1550MW(メガワット)の洋上風力発電所を募集したところ、最も安い入札価格の4件が決まり、そのうち2件は買取制度に伴うプレミアム(上乗せ分)がゼロだった。運転開始後は卸電力取引の市場価格で洋上風力の電力を供給することになる。
4件の平均でもプレミアムは0.5円/kWh
洋上風力の入札制度はドイツで2017年1月に改正した「再生可能エネルギー法(EEG 2017)」と洋上風力を拡大するために新設した「洋上風力エネルギー法(WindSeeG)」に基づく。第1回の入札で決定した4件のうち3件はデンマークに本社があるDONG Energyのプロジェクトで、残る1件はドイツの大手エネルギー会社EnBWによるものだ。いずれもドイツの北側に広がる北海(North Sea)に建設する(図1)。4件の発電能力を合計すると1490MWに達する。
図1 DONG Energy社の洋上風力プロジェクト(ドイツ周辺だけを抜粋)
(出典)DONG Energy
プレミアム(制度上はsubsidy=補助金)をゼロで入札した2件はDONG Energyの洋上風力プロジェクトである。発電能力が240MWの「OWP West」と同じく240MWの「Borkum Riffgrund West 2」で、いずれも2024年に運転を開始する予定になっている。3件目の「Gode Wind 3」(110MW)だけは、1kWh(キロワット時)あたり0.6ユーロセントのプレミアムで落札した。4件の平均プレミアムは0.44ユーロセント/kWhで、日本円に換算して0.5円/kWhという低さだ。
こうしたプレミアムによる買取価格の決定方式を「Feed-In-Premium(FIP)」と呼んでいる。日本を含めて世界各国で実施している固定価格による「Feed-In-Tariff(FIT)」と違って、卸電力取引の市場価格に連動して買取価格が決まる(図2)。FIPには主に3通りの価格適用方法があり、ドイツの洋上風力ではプレミアムを変動させない「プレミアム固定型」を採用した。買取期間は運転開始から20年間である。
図2 「Feed-In-Premium(FIP)」の適用イメージ
(出典)資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの効率的な導入について」(2015年10月20日)
1基で13~15MWの超大型風車を想定
プレミアムがゼロでも洋上風力発電所を建設・運転できる最大の理由は、発電コストの低下が見込めることにある。調査会社のBloomberg New Energy Financeによると、全世界の洋上風力の発電コストは2016年の下半期に平均で12.6セント/kWhまで下がった(陸上風力は6.8セント/kWh)。日本円に換算すると約14円/kWhである。前年同期から28%の低下で、さらに安くなることは確実だ。日本国内では火力や原子力を含めた全電源の平均発電コストが10円/kWh程度で、その水準に世界の洋上風力の発電コストが近づいてきた。
DONG Energyは落札した3件のプロジェクトに対して最終的な事業化の判断を2021年に下す。今後も洋上風力の発電コストが低下して、卸電力の市場価格を十分に下回ることが可能とみている。運転開始を予定している2024年の時点では、風力発電機の能力が1基あたり13~15MWに拡大する想定だ。これにより風車の数を少なくして、建設・運転コストを大幅に削減できる。
対象の海域が風況に恵まれていることも発電コストを引き下げる。年間の平均風速は10メートル/秒を超える見込みだ。すでにDONG Energyは同じ海域で4つの洋上風力発電所の建設を進めている(図3)。新たに建設する予定の3件のうちプレミアムがゼロの2件も同じ海域に建設するため、O&M(運転保守)を一体に実施してコストを削減することが可能になる。
図3 建設中の「Borkum Riffgrund 1」の完成イメージ
(出典)DONG Energy
2025年に電力の40%以上を自然エネルギーへ
ドイツでは洋上風力の第2回の入札を2018年に実施する。上限は第1回の不足分(60MW)を加えて1610MWを予定している。第2回の入札でもプレミアムがゼロの案件が出る可能性があり、平均でも第1回の価格と同程度の低さになることが予想される。
すでにドイツでは国全体の電力消費に占める自然エネルギーの比率が30%を超えた。2013年の時点では25%だったが、2016年には32%まで上昇している。中長期の目標として2025年までに40~45%に、2050年には80%以上へ引き上げる方針で、洋上を含めて風力発電が最大の電力源になる見込みである(図4)。
図4 ドイツの電力消費に占める自然エネルギーの比率
(出典)BMWi(ドイツ連邦経済エネルギー省)