米国の自然エネルギー拡大を先導するカリフォルニア③
初出:『環境ビジネスオンライン』 2014年6月2日掲載記事に一部加筆訂正
2020年までに大規模水力発電を含めれば、全電力の45%程度を温室効果ガスを排出しない自然エネルギーで供給するカリフォルニア。日本の現状からみれば、この2020年目標は遥かに先を行っているが、すでに2020年目標の達成のめどはついていると言われ、カリフォルニアでの議論の焦点は、2030年に大規模水力以外の、太陽光や風力などで50%以上を供給するには何が必要かに移っている。見逃してならないのは、こうした自然エネルギー拡大の最大の推進力が、気候変動対策だということだ。
「エネルギーアクションプラン」
我が国では、未だに電力制度改革に反対する議論の根拠として、カリフォルニア州で2000年に発生した電力危機の事例が持ち出されることがある。しかし、今日のカリフォルニアの電力政策は、その危機から学び回復しただけでなく、エネルギー政策の中核に気候変動対策を据えた、全米でも最も先進的なものへと変貌をとげている。
危機の中から生まれたのが、2003年の「エネルギーアクションプラン」である。州の公益事業委員会(CPUC)、エネルギー委員会(CEC)などが共同で策定したこのプランは、エネルギー需要の増大に対応するための順序を決める原則として、「ローディング・オーダー(loading order)」を定めた。
この原則によれば、エネルギー需要の増大には、第一に「エネルギー効率化」という需要側での対応を行うべきものとされる。日本で通常使う用語でいえば「省エネ」ということになるが、効率化で新たに必要となる発電量を減らすことがまず追求される。そして二番目に来るのが、自然エネルギーの拡大である。
このように省エネと自然エネルギーでエネルギー需要の増大に対応した後に、なお必要があれば、従来からの発電方式で電力を供給する、というのが既に2003年の時点で打ち出されたカリフォルニア州のエネルギー政策の原則なのだ。
「地球温暖化対策法」
2003年のアクションプランも、その問題意識の中に地球温暖化への対応を含んでいたが、カリフォルニア州のエネルギー政策の中核に気候変動対策への対応を据えたのは、2006年の「地球温暖化対策法(The Global Warming Solutions Act of 2006)」である。この法律は、2020年までに州の温室効果ガス排出量を1990年レベルまで戻すことを目標として定めたものである。これは対策を打たない場合にくらべ30%の削減を行うことに匹敵すると推定されている(この法律の内容や背景についてご関心のある方は、昨年5月刊の拙著『自治体のエネルギー戦略』(岩波新書)をご覧いただきたい)。
カリフォルニア州の作成した「2008 UPDATE ENERGY ACTION PLAN」ページ2の円グラフ「産業部門別の温室効果ガス排出量割合(カリフォルニア州、2005年)」が示すように、カリフォルニア州の温室効果ガス排出量の25%は電力供給に起因するものである。これは交通(多くは自動車交通)の38%に次ぐ第2の要因となっており、電力部門での対策強化の推進力となっているのである。
この地球温暖化対策法は、前のシュワルツネガー知事の時に作られたものだが、現在のジェリー・ブラウン知事も気候変動対策を重点課題として取り組んでいる。最近では、5月19日に記者会見を開いて、カリフォルニアで続いている干ばつや頻発する山火事を気候変動がもたらしたものと指摘し、対策強化の必要性を訴えた。
カリフォルニアの電力制度
電力部門の対策としては、自然エネルギーの拡大とともに、省エネも強力に進められているが、本コラムでは省略する。自然エネルギー施策としても多様な取組みがあるが、最大のものは電力販売事業者に一定以上の割合を自然エネルギーによる電力とすることを義務づけるRPS(Renewables Portfolio Standard)制度である。RPS制度は、2002年に初めて法制化され、順次、強化されてきているのだ。しかし、RPS制度の展開について書く前に、簡単にカリフォルニアの電力制度の説明をしておいたほうがいいだろう。
カリフォルニア州では基本的に、発電、送電、小売りを担う主体が異なっている。
州内の小売電力の7割弱は、四つの民間所有電力会社(IOU= investor-owned utility)が担っている。残りの殆どは、前回紹介したSMUDのような公共電力会社(POU=publicly-owned utility)が担当している。カリフォルニアには約40のPOUがあるが、最大のものはロサンゼルス市に電力を供給するLADWP(=Los Angeles Department of Water and Power)である。IOUとPOU以外にも、電気サービス供給事業者(ESPs)や、市や町がIOUの供給区域から分離して、自分たちで供給者になる興味深い仕組み(CCAs)などがあるが説明は省略する。
発電については、IOUやPOUが自分たちで発電設備を持つ場合もあるが、より重要な役割を果たしているのは独立発電事業者(IPP=Independent Power Producer)である。カリフォルニア州は、1978年に独立発電事業者による発電を促進する連邦法(PURPA=The Public Utility Regulatory Policy Act) ができてから、最も熱心に分散型発電の拡大を促進してきた州として知られている(この法律が、米国の電力制度改革に果たした意義については、『環境ビジネスオンライン』2014年4月7日掲載記事「原子力発電と電力市場改革-米国の経験から」で紹介した)。電力小売り会社は、IPPと契約を結んで電力を確保することが多い。
そして送電網の管理を担うのがカリフォルニア独立系統運用機関、CAISO(= California Independent System Operator)である。正確に言うと、SMUDのように地域内の電力需給調整を自分たちで行うケースもあるが、州内の大半の地域はCAISOが系統の運用を担当している。自然エネルギーの大量の導入を可能にするためには、系統運用機関の果たす役割が大きい。CAISOは極めて意欲的な取組みを進めているが、それについては別の機会に紹介する。
電力制度の概要を紹介したところで、いよいよRPS制度の展開プロセスについて語るところだが、長くなったので、次回に譲ることにしよう。