政策決定者にもっと正しい情報を 英語オリジナル
2015年6月18日 トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団 理事長
日本では、電力会社が送電網を管理し、電力システムの状況も管理している。そのため、情報管理を通じて、国や消費者の利益に反し電力会社の利益になる方向へ、政策決定者を導くことができてしまう。
発電所の所有者と、送電網の所有・管理者とを独立分離させれば、発電事業者間の競争が促され、近代的で低価格な国内産の自然エネルギー電源に市場を開くことができる。
ここで重要なのは、独立した電力系統運用機関があれば、電力系統の実際の利用状況を情報公開できるということだ。そうすれば、電力会社が、誤った論理で世論や政治家に誤解を広めることができなくなる。
日本の政治家は最近、電気システムで自然エネルギー電源がどういう役割を果たしているのか、誤解を招く情報を提供された。一日の発電量が図1のようなグラフに示され、太陽光や風力は原子力より劣ると結論づけられたのだ。
図1 出典:経済産業省 2015年4月28日
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/
basic_policy_subcommittee/mitoshi/008/pdf/008_08.pdf P.9
しかし、提供されたイメージは、正確で適切だったのだろうか。政治家には確認する手段がなかった。独立系統運用機関がなく、電源別の電力供給の実態がわかるデータを提供する機関がなかったからだ。
欧州では、誰でも自由にアクセスできるデータが公開されている。ドイツは風力や太陽光の発電量が多い。面積は日本とほぼ同じである。そんなドイツの、全国のリアルタイムデータがhttps://www.energy-charts.de/price.htmで入手できる。(図2)
5月13日の実際のデータを見てみると、太陽光・風力の発電量よりも、電力需要量の方が変動が速い。また、太陽光発電が発電する日中は、ドイツでは需要が最大となり発電コストが伝統的に一番高くなる時間帯なので、太陽光には有利になる。その意味でも、太陽光は、石炭や原子力のような柔軟性に欠ける電源よりも価値が高いのだ。
この日の風力発電量は約10GWで、変動はほとんど見られなかった。
日本の太陽光および風力の発電量はドイツより少ないが、それでも、日本の実際の発電データは、経済産業省や電力産業が提供した先のグラフよりも、ドイツの実際の発電データに近いはずである。
北欧の国々のデータは、http://elstatistik.se/でオンライン閲覧ができる。上述の5月13日、世界一、一人あたりの原子力消費が高いスウェーデンにおける発電量は、図3の通りであった。
ここでも、風力による発電量は、24時間を通してほぼ安定していたことがわかる。日本の政策決定者向けに作られたグラフのような極端な変動はない。
水力、バイオエネルギーや化石燃料火力などの柔軟な発電所は、電力需要の変動に応えられることを第一に要求される。系統運用者にとって最悪の事態は、原子炉や大型石炭火力発電所が、技術的問題など不測の事態で突然停止することである。それと比較すれば、太陽光・風力など自然エネルギーの変動は、より予測可能で、対処も容易である。
この例からも、発電会社が送電線を独占的に管理する状態をなくしていくことが、非常に重要だとわかる。電力会社にとっては、電気料金を高止まりさせ、競争を妨げ、日本が原子力や化石燃料などの輸入燃料に依存し続けることが自社の利益につながるからである。
日本の政策決定者が、誤解を招く情報ではなく、正しい情報にアクセスできていたら、将来のエネルギー・ミックス・ビジョンも、違うものになっていたのではないか。