「エネルギー転換」対「日食」 — 1対0
ドイツの連邦議会が15年前に再生可能エネルギー優先法(略称:再生可能エネルギ法、EEG)を議会決定した際に、日食になると太陽が月に覆われてしまい、そのため太陽光発電が途絶えることを考えた議員はいただろうか。そして日食の特に開始時と終了時に、太陽光発電が全国で一斉に減ったり増えたりして、送電網の周波数や電圧を乱す恐れがあり、停電のリスクが高まることを想像した議員はいただろうか。多分皆無だっただろう。しかし、そんな事態がこの3月20日ドイツで起きた。欧州広範囲で日食があったからだ。
今年の日食は皆既日食だったが、太陽が月に完全に 覆われたのはアイスランドやデンマークのフェローズ諸島、ノルウエーのスピッツベルゲン島など北極圏に近い範囲だけで、欧州を南下するに従って月が太陽を覆う割合は減った。それでもドイツは南部で65%強、北部では80%強 の部分日食となった。日食の始まりは、ドイツ南北で数分のずれがあったが、早いところで9時30分、終わりは遅いところで12時だった。
他の国に比べてこの国で日食が特に大きな問題とされたのは、ドイツには欧州全体のほぼ半数に当たる容量約40GWもの太陽光発電装置が設置されているからだ。また、再生可能エネルギーである太陽光電力は、EEGによって優先的に送電網に取り込まれることになっている。イタリアなどでは当日、日食の始まる前に全ての太陽光発電を送電網から切り離したという。
その日のために、ドイツの送電網運営会社4社は、周波数管理・指令センターの技術者を通常の2倍から3倍配置した。また 送電網安定のために、約350万ユーロ(約4億5000万円)相当の電力を事前に購入した。必要に応じて電力を迅速に送電網に送り込むためだ。更に電力消費量の多いアルミ製造工場などと、必要に応じ作業の増減を調節してもらう契約も結んだ。
当日、ドイツの天候は一部を除いてあまり良くなかった。日食が始まると、それまで送電網に送り込まれていた太陽光電力が45分以内に13GWから6GWに低下し、それが12時の日食終了後には一気に21GWに上昇したという。その対応に当たったのは従来型の火力発電所などで、そこでは日食開始直後から発電量を増やし、ピークを通り過ぎた段階からは逆に発電量を減らした。特に12時の日食終了時は迅速に調整する必要があった。12時は太陽光が一番強い時間帯だからだ。
「送電網の安定が心配される事態には一時たりともならなかった」と送電網運営会社アンプリオンのスポークスマンは語った。全国で快晴だったら対応はもっと厳しかったかもしれない。事前に購入してあった電力もあまり沢山は消費しなかったという 。ブラックアウトを心配していたガブリエル連邦経済・エネルギー相は「エネルギー転換 対 日食 — 1:0」とツイッターに書き込んだ。
ドイツでの次の日食は、2048年の部分日食と、2081の皆既日食だ。