シリーズ「電力システム改革の真の貫徹」を考える
第2回 廃炉会計制度の維持と「広く負担を求める措置」
―財務会計ワーキンググループ(WG)の議論と問題点
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電力に関する会計は特別で複雑である。まず、電気事業は一般企業と違い、「電気事業会計規則」に従う。その中でも原発は一般の発電施設から区別され、1969年以降、特別な会計制度が数度にわたり作られてきた ⅰ 。具体的には、原発への初期投資に関する原子力発電工事償却準備引当金や、原発を廃止する際の費用に関する使用済燃料再処理引当金、原子力発電施設解体引当金、特定放射性廃棄物処分費の制度がある。この特殊な会計制度が改正を重ね複雑になり、原発の事業が一体どうなっているのか、会計上非常にわかりにくく、見えにくくなっている。
現在議論されている「廃炉会計制度」は、これまでの廃炉会計制度を大きく変更するものとして2013年に導入された。原発を廃炉にすると、会計上原発資産が一気に損失となり、会計上のインパクトが大きい。そこで、廃炉後も資産とし、減価償却の継続を認めた。
ここでポイントとなるのは、「資産は収益を生むことが前提」、という会計上守られなければならない大原則である。廃止された炉は電気を作らないから、本来はそこから収益は生まれない。が、廃炉中もお金が入る制度を作って収益を生んでいることにした。この「収益」は、規制料金の算定根拠である費用額に組み込むことで「着実」なものとし、会計上の大原則を守った。
そして今、「廃炉会計制度」について、「自由化」を理由に新たな制度が提案されている。自由化のために費用の「着実な回収」ができなくなるという。まず、今の仕組みの前提である規制料金制度がなくなる。また、小売全面自由化により、原発電力を選ばない需要家から回収できなくなる。そこで、廃炉会計制度を維持するため、規制料金制度が残る託送料金(送電線使用料)にこの費用を計上し、広く負担を求めるシステムを作る必要があるという。
この議論には多くの問題があるが、大きく3つ指摘したい。
まず第1に、発電のコストを発電とは無関係の託送料金に入れる、という考え方のわかりにくさである。事業のコストはその事業者が負担しその売上から回収するのが通常だからだ。
財務諸表上もわかりにくくなる。託送料金は送電会社の収益として送電会社の財務諸表に計上されるが、ここに発電のコストが入ってくるので、送電会社の財務諸表も発電会社の財務諸表も、透明性を失う。
第2に、先に述べたように、今後競争へ移行するに従って、会計上着実に収益として見込める規制料金(現在は大手電力会社の電気料金)がなくなることから、WGでは、「過去に安い原発の電気を享受した国民」が負担すべきというロジックを展開し、規制料金として残る託送料金で「着実に」回収を行うことを提案している。しかし、これは後付けの本末転倒の理屈である。
何より、ここで一番の問題は、託送料金の改定には、国会承認などもいらないため、今後は、「広く国民に負担を求める仕組み」が、経済産業省によってのみ進められることである。
これまで原発会計を巡っては、次々と新しい費用が議論の俎上に乗り、新しい制度が追加されてきた。そして、使用済燃料再処理引当金、原子力発電施設解体引当金、特定放射性廃棄物処分費の制度が作られた際には、それらに対応する費用が規制料金に計上されていった。こういった制度は、経済産業省が作る規定の改正で実施されている。今議論されている「廃炉が収益を生んでいる」という一般的には理解できない制度も、その一つだ。このままでは、歪めた制度を土台に無理を重ねることになる。
着実に廃炉が進んで行くことが重要なのは言うまでもないが、誰が何を、どういった方法で負担すべきかは、国全体(国会)で議論されるべきであろう。広く負担すべき理由として挙げられている「受益者負担」という考え方も、誰が受益者なのかも含め十分に議論し、広く国民が負担すべきなら法律できちんと定めるべきだ。
第3に、WGでは、制度の枠組だけ議論しようとしており、この制度が始まったらどれだけ負担が膨らむのか全く見えない点も大きな問題だ。事実、複数の委員から具体的な情報を求める声が相次いでいる。
原発を巡る費用は巨額であり、廃炉会計の対象資産の問題以外にも、原発施設解体費用、使用済核燃料処理費用、放射性廃棄物の管理費用、事故が起きれば事故処理費用や損害賠償費用など、多くの費目がある。 それらの費用の一部も、このWGでの議論対象になっているが、金額を含め、全体像は見えない。
わかりにくい会計制度を抱える企業であるからこそ、よりいっそう企業の説明責任が果たされ、事業の状況が明らかにされるべきではないだろうか。
ⅰ その経過および問題点は、金森絵里「原子力発電と会計制度」(中央経済社、2016)に詳しい。