シリーズ「電力システム改革の真の貫徹」を考える
第1回 電力システム改革をめぐる議論を検証するコラムを開始します
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東京電力福島原発事故以降、日本では、2015年の「電力広域的運営推進機関」(OCCTO)や「電力・ガス取引監視等委員会」の設立、2016年4月から小売りの全面自由化の実施、2020年4月に予定される発電と送配電の分離(東電は2016年4月に先行実施)など、電力システム改革のための一連の施策が実施・予定されている。2012年に導入された自然エネルギーの普及を促す固定価格買取制度も、電力市場のあり方を変えていく方策の一つである。
しかし、現状は、卸電力市場取引は、電力需要全体の2.6%程度と低い水準のまま(2016年6月)、小売り自由化による大手電力会社からのスィッチングも全体の3.3%に留まっている(2016年11月)。一方で、太陽光を始めとした自然エネルギーは急速に増加し、特定の電力管内では需要の8割に達する日も登場している(うち、太陽光および風力が約7割。財団コラム参照)。より柔軟な送電網の運営や市場設計が吃緊に求められていることは明らかだ。
こんな中、2016年9月、経済産業省は、「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」(以降、貫徹小委)の設置を告知し、議論を開始した。電力システム改革を貫徹する委員会だから、改革を前進させるための議論のはずが、現在進行中の中身をみると、大手電力会社、特に原子力事業の救済が主眼で、むしろ改革に逆行しているようにみえる。
もっとも重要な論点は、東電福島事故処理と除染・賠償にかかる費用、また他の原発の廃炉にかかる費用を自由化市場の中でどう捻出していくのかということである。そして、特に、前者の費用が桁違いに巨額になりそうなこと、前者に比較すれば少ないが、後者も1兆円を超えること、また、これらを託送料金(送電線使用料)に上乗せして、消費者に負担させようとしていること、などが次第に明らかになってきた。
同時に、電力市場の整備と称して、「容量メカニズム」や「ベースロード電源市場」、「非化石価値取引市場」など、システム改革の根幹にかかわる新しい制度の導入も並行して議論されている。
明確な論点や数値が経産省から提示されず、報道も二転三転したため、一般消費者は、何が議論されているのかわからず、置き去りにされたままになっている。あたかも、政府は、さまざまな制度を一気に短期間に議論することで、焦点ぼかしをやろうとしているようにもみえてしまう。特に、電力システム改革については、専門的な内容が多く、日本の消費者にとって馴染みのない用語も多い。
そこで、自然エネルギー財団では、「貫徹小委」その他での論点について、シリーズでコラム連載を行い、進行中の議論を整理・解説し、どのような問題点が考えられるかを提示することとした。今回は連載開始のための第一回である。今後は、「原発廃炉会計の考え方」、「東電福島事故処理・除染・賠償金」、「容量メカニズム」、「非化石価値取引市場」、「ベースロード電源市場」などの論点の他、「欧州の視点」、「日本の消費者の視点」等を適宜取り上げていく。
下の表は、報道など、現在11月半ば時点でわかっている情報にもとづいて整理した、今年9月以降の議論の場や、取り上げられている論点である。(※その後、新しい情報が出されているので、表を更新・2016年12月14日)
この連載が、日本の電力システム改革貫徹のための議論の素材を提供できればと思う。
議論の場 | 論点 | 議論の方向性 | |
経済産業省 東京電力改革・1F問題委員会 (東電問題委員会) |
福島事故炉の事故処理費用 2兆→8兆円 | 東電の託送料金に内包 | |
福島事故炉の賠償・除染費用 7.9兆→11.9兆円(→15兆円?さらなる 上振れの予測もあり) |
東電+大手電力会社+新電力の 託送料金に上乗せ 株式売却益(1.5兆円程度?) |
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経済産業省 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」 |
財務会計 WG |
東電委員会で議論される事故処理コスト、除染・賠償コストの負担のあり方 | 上記整理のとおり |
60年以下の計画外廃炉原発の廃炉コストの会計処理 1.3兆円 | 東電+大手電力会社+新電力の 託送料金に上乗せ? |
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市場整備 WG |
容量市場:化石燃料発電に対し、発電していない時もkWベースで補助 | 既存の石炭などの火力発電所にも金銭的補助? | |
ベースロード電源市場:対象は原子力、 石炭、水力など |
原子力や石炭を優先的に取引? | ||
非化石価値取引市場:原子力、 自然エネルギー、水力など |
原子力の放射性廃棄物や事故などの問題点を考慮せず取引? | ||
内閣府 原子力委員会 原子力損害賠償制度専門部会 |
原子力事業者の賠償責任について | 無限責任でいったん合意 (2016年11月16日) |