連載コラム 自然エネルギー・アップデート

検証:2016年版「原発停止による国富流出」試算
原発停止でも燃料費は減少 英語版

2016年11月29日 分山達也 自然エネルギー財団上級研究員

 日本では、2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、原子力発電所のほとんどが稼働停止されている。2016年11月半ば現時点で運転中のものは、九州電力川内2号基、四国電力伊方3号基の2基である。2010年には、日本の総発電量の約3割を原発が占めていたが、現在は1−2%になる。

 そのため、この数年間、経済産業省は、電力需給検証小委員会等で、「原発停止で輸入燃料依存が増え『3兆円から7兆円の国富が流出』している」と主張してきた。

それに応える形で、自然エネルギー財団では、2013年9月「エネルギー基本計画 3つの論点」、2014年3月「『原発停止による3.6兆円の国富流出』試算の検証」、2015年10月連載コラム「『原発停止による3.6兆円の国富流出』試算の検証2015年版」で、この数値に対する反証を行ってきた。今回は、化石燃料の輸入価格が大きく下がった2016年版の検証を行った。

政府試算の概要と問題点

 経済産業省・資源エネルギー庁の電力・ガス基本政策小委員会(以下、小委員会)は、「電力需給検証報告書」(2016年10月25日)で、2016年度の原発停止にともなう火力発電の焚き増しに必要な燃料費を1.3兆円と試算している。そして、この焚き増しに必要な燃料費が、国民一人あたり約1.0万円の負担増になるとしている。
 しかし、この小委員会による試算は、現実から大きく乖離し、火力発電の焚き増し量を過大に見積もる恣意的なものである。

図1 電力・ガス基本政策小委員会による原発停止による燃料費増加分試算

出典:電力需給検証報告書(平成28年10月電力・ガス基本政策小委員会)より引用

 小委員会試算は、原子力発電がすべて稼働しているとしたら、そしてその発電量と同量を、「火力発電の焚き増し」でまかなっていれば、という前提にたっている。具体的には、東日本大震災以前の原子力の発電量2,748億kWh(2008~2010年度の平均原子力発電量)から、再稼働した原発の昨年度の発電量約94億kWhを差し引いた残りが、原子力発電所の停止に伴う火力発電の「焚き増し量」とされている。

 しかし、原子力の発電量が2010年以前のままと仮定する政府の前提では、自然エネルギーの増加分や省エネルギーで電力需要が減った分はまったく考慮されておらず、原子力発電の再稼働が進まない限り、試算される火力発電の「焚き増し量」は減少しない。だが実際には、2011年以降、省エネルギーも自然エネルギー増加も大きく進み、原子力の発電分を補い始めている。

 例えば、小委員会の試算では、原発の停止にともなう「火力発電量の焚き増し量」は、2010年度と2015年度を比較すると2,661億kWh(2,748億kWhから原子力再稼働分を控除)と仮定されている。しかし、実際の2010年度と2015年度の10電力発受電量を比較すると、火力の発電増加量は1,268億kWhであり、小委員会試算の半分以下である ⅰ 。これは、震災後の省エネルギーと自然エネルギーが原発停止分をまかなっているためだ ⅱ 

 そして、小委員会の燃料費の試算は、実際を大きく上回る「火力発電の焚き増し量」が想定されているため、現実と乖離した燃料費増加になっている。

自然エネルギー財団による実際の燃料費の試算

 政府試算が、原子力が2010年以前の稼働状況であったらという、「たられば」を前提にしているのに対して、自然エネルギー財団では、実際の火力の発電量にもとづいて燃料費を試算してきた。火力発電の燃料費は、各年度で公表されている燃料別の火力発電量と、電力需給検証委員会で報告されている各年の燃料単価を用いることでほぼ再現可能であることがわかっている。

 図2は、電気事業連合会公表の10電力の燃料費実績(折れ線グラフ)と財団試算による燃料費(積上げ棒グラフ)を示している。このグラフをみると、財団試算は、2013から2015年度の燃料費がおおむね再現できていることがわかる。そして、この試算では、2010年度の3.6兆円に比べて、2015年度の燃料費は4.5兆円で増分は約0.9兆円であり、政府が試算した1.8兆円(図1参照)を下回っている。

図2 電気事業連合会の10電力の燃料費実績(折れ線)と財団の燃料費試算(積上げ棒)


2016年の燃料費の見通し

 さらに財団では、「電力需給検証報告書」に記載された、2016年度のLNG、石油、石炭の燃料価格を用いて、2016年度の各火力・原子力発電量が2015年度と同じであった場合での燃料費を推計したところ、2016年度の燃料費は3.3兆円となった。これは、2010年度の燃料費3.6兆円を下回る金額であり、むしろ、3,000億円が節約できるという結果である。

図3 政府と財団の「火力焚き増し」燃料費試算の比較

※2010年度から、2015年度・2016年度にかけての「焚き増し燃料費」を試算

 結論として、政府の燃料費試算は、『火力の焚き増し量』を、実際に増えた発電量ではなく原発停止分と定義することで、原発停止の影響を実際より大きく見積もり、さらに、原発再稼働が燃料費削減の唯一の手段であるとミスリードするものである。

 財団の試算が明らかにしているように、実際の火力の発電量は、省エネルギーの進展や自然エネルギーの増加によって減少しており、近年高い水準で推移していた輸入燃料価格が、震災前の水準に戻ったことで、火力発電に必要な燃料費用も低下している。
 そして、さらなる燃料費の低減に向けては、原子力再稼働という不確定要素に依拠するのではなく、省エネルギーや自然エネルギー拡大を実際に進めて、火力の発電量に置き換えていくことこそが、最も確実な手段である。


 ⅰ 電気事業連合会の公表データから、10電力の他社受電を含む火力の発電端実績を比較。
 ⅱ 電力需要が他電力へ移行している影響も含まれると考えられる。