連載コラム 自然エネルギー・アップデート

固定価格買取制度:市場の力と制度の適切な運用 英語版

2014年7月3日 木村啓二 自然エネルギー財団 上級研究員

日本で固定価格買取制度がはじまって2014年6月末で2年になる。わずか2年間であるが、そのすさまじい勢いが実感される。制度が2012年7月から運用開始されて、わずか21か月時点(2014年3月末まで)で6869万kWが設備認定され、895万kWの自然エネルギー電源が稼働を始めたのである。2011年度までに建設されてきた水力発電を除く自然エネルギーの総設備容量が約1070万kWであったのだから、そのスピードの速さと規模の大きさがわかる。

この自然エネルギー導入の影響はさっそく電力供給量にも表れはじめている。固定価格買取制度が導入されるまで、水力発電を除く自然エネルギーの割合はながらく1%前後でとどまっていた。普及が停滞していたのだ。しかし、固定価格買取制度がはじまり、2013年度には、その割合が2.3%に急上昇した。その勢いは2014年度も続いている。2014年4月には、3.6%に到達している。前年同月の割合が2.3%であったのと比べても急激な伸びを示していることがわかる。この成長率を維持すれば、2020年度までに水力発電を除く自然エネルギーの割合は10%程度になる可能性がある。

固定価格買取制度は、自然エネルギーを普及するのに強大な効果を発揮する制度であることが実証されたといえる。しかし、制度の効果が大きいがゆえに、適切に市場を育成していくには、緻密な制度設計と迅速かつ柔軟な制度運用が求められる。特に、太陽光発電は導入が容易かつスピードが速い。太陽光発電市場をいかに制御しながら、持続的に成長させていけるかが制度の成功のポイントの1つである。

とくに太陽光発電について問題になったのは、経済産業省(以下、経産省)の設備認定をとったにも関わらず、事業開始が遅れている事業者がいるのではないか、という懸念である。もちろん、部材調達の遅れや電力会社の系統接続手続きや工事の遅れによって遅延している案件もたくさんある。しかし、太陽光発電の導入コストは急速に低下しているので、設備認定のみをして高い買取価格を確保しておいて、十分にコストが下がった段階で施工・運転開始すれば、特段の努力をしなくても高い利潤を得られる。高い買取価格を保証されたにもかかわらず、速やかな事業実施に至らない案件がいつまでも存在していることは、市場全体のコスト競争にも悪影響を与える。結果として、日本の太陽光発電のコスト低下が起きにくい状況になりかねない。

こうした指摘を受けて、経産省では2012年度に認定された400kW以上の設備のうち運転開始に至っていないものについて、調査を行った。その結果、調査対象案件(1332万kW)のうち、特段の理由もなく土地も設備も確保されていない案件が22%(288万kW)もあった。そこで、経産省は買取制度運用ワーキンググループで議論を行い、2014年度からの設備認定の運用を厳しくした。すなわち、設備認定を取得した案件については、認定取得から半年以内に土地と設備の確保を証明する書類を提出することを義務付けた。これがない場合、設備認定は失効する。

この新規定によって、一定程度、事業者の土地と設備確保が加速するであろう。しかし注意しなければならないのは、いまだ設備の稼働期限に関する要件は課されていない点である。この点が更なる問題になる可能性もある。

コスト効率的に自然エネルギーを普及させていくためには、長期的な自然エネルギーの市場の育成と産業の発展が必要である。市場の力は極めて強力だが、それを上手に制御していかなければならない。

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