連載コラム 自然エネルギー・アップデート

ドイツの日食で分かったこと 英語オリジナル

2015年4月10日 クレイグ・モリス Renewables International 編集者 および
EnergyTransition.de筆頭執筆者(@PPchef)

ほとんど雲のない好天だった3月20日金曜日、ドイツ一帯で部分日食が起こった。国内のほぼ全域で太陽の70%以上が月に隠れたため、ドイツの太陽光による電力はかつてない規模で急激に減少し、再び増加した。これで、ドイツが太陽光発電の大幅な変動にも耐えられることが証明できたとして、人々は歓喜に沸いている。しかし、手放しで喜んではいられない理由もある。

まず、朗報だったのは、ドイツの送電網に停電や大きな混乱が起こらなかったことだ。とはいえ、太陽光による発電量は上限に近いところまで変動した。送電網の専門家による試算では、雲一つない快晴という最悪のシナリオにおいて、(午前10時30分から正午までの)90分間に9 GW(900万kW)から17 GW(1,700万kW)増加し26 GW(2,600万kW)になると予想されていた。実際は、5.44 GW(544万kW)から19.6 GW(1,960万kW)への上昇が記録され、変動幅は最悪のケースにあと3 GW(300万kW)まで迫る14 GW(1,400万kW)となった。その時間の電力消費(約70 GW(7,000万kW))のほぼ5分の1に相当する、史上最大幅の太陽光発電の急増を経験しても、送電網はダウンしなかったということだ。ここまでは、喜ばしい出来事である。

しかし、この変動の埋め合わせはどのように行われたのだろうか?公式な数値はまだ発表されておらず、リアルタイムのデータは信頼性に問題がある。しかし、現時点で得られる情報からは、太陽光発電の急増を除けば、このときの状況には目立った変化が見られなかったことが分かる。実際のところ、太陽光以外の主な変化は、需要管理の実施によるものだと思われるが、これを示すデータは今のところほとんど得られていない。まず、フラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所による日食があった週の概観を確認してみよう。尚、このグラフは、私が最初にレポートした時点から更新されている。

2015年第12週のドイツの発電
出典:フラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所

まず、グラフの一番下を見ると、電力の純輸出に著しい減少が生じたことが分かる。日食が始まった午前9:30頃、ドイツの電力の純輸出量は8.9 GW(890万kW)だったが、日食が最大に達した午前10:30にはこの数字が3.2 GW(320万kW)まで下がり、5.7 GW(570万kW)の減少となった。これは、同時間帯の太陽光発電の減少幅である7.5 GW(750万kW)よりかなり少ないものの、従来型発電所への影響を抑えるには十分だった。

実際、フラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所のウェブサイトのグラフにマウスカーソルを乗せてデータを確認すると、午前9:30~10:30の間、従来型の発電量には目立った変化が見られず、52.9 GW(5,290万kW)から52.3 GW(5,230万kW)になっただけだった。言い換えれば、このとき従来型発電所は、日食の進行に反応する必要がなかったということになる。その代わりに主に調整が行われたのが電力の輸出であり、また国内電力需要の抑制も行われた。太陽光発電の変動に応じた電力需要の調整がどのように行われたかについては、まだデータがないが、ドイツの送電会社テネットによる実況ブログ
ドイツ語ページ)では、送電会社が産業界に電力需要の抑制を要請していたことが明らかになっている。

午前10:30を過ぎると、日食が終わりに近づくにつれて太陽光発電量は14 GW(1,400万kW)の急増を記録した。一方、電力輸出は、正午までの90分間で7.0 GW(700万kW)増えて、太陽光発電の増加の半分を相殺した。従来型の発電量も小幅ながら減少し、正午の時点で47.6 GW(4,760万kW)となった。90分間の減少幅はわずか10%にあたる4.7 GW(470万kW)で、この程度の変動は決して珍しいことではない。

以前に説明したとおり、ドイツの送電網では、従来型の発電量がこの程度高レベルの場合でも、こうして容易に調整することができる。(実際、このような調整はよく行われている。)ドイツの従来型発電所の最低出力量は20~25 GW(2,000万~2,500万kW)程度であるため、このときも柔軟性の高いミドルロードの範囲で運用できていたことは確実である。

当然ながら、下に示す内訳からも従来型発電所がほとんど無反応だったことが分かる。午前11時から正午までの間において、ガス(天然ガスタービン)による発電の調整量は10%未満だった。ベースロード電源と位置付けられて、急激なランピング(出力を急に上げること)を好まない褐炭と原子力(ウラン)に至っては、ほとんど変化がなかった。従来型の電力の中で最も大きな影響を受けた無煙炭は、同時間帯に2.3 GW(230万kW)近く減少した。これは、無煙炭の総発電量の約6分の1に相当する。


出典:フラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所

こうしたデータは何を示しているのだろうか?ドイツのシンクタンク、アゴラエナギーヴェンデのプレスリリース(ドイツ語)は、日食によって「2030年のシミュレーションができた」と主張しているが、おそらくこれは見当違いだろう。風力発電の出力が0.5 GW(50万kW)という最低レベル(導入量は38 GW(3,800万kW))でなかったら、従来型発電所の稼働がその最低出力量近くまで抑えられていて、柔軟な対応ができなかったかもしれない。

先に述べた「最悪のシナリオ」は、天候のみに基づいて雲一つない快晴を最悪の条件としている。しかし今にして思えば、風力の発電量が20 GW(2,000万kW)程度、かつ従来型発電が最低出力量まで抑えられた状態で、あの日のように太陽光の発電量が急変するケースが、最悪のシナリオだったようだ。こうした条件の組み合わせは、2030年までに実際に頻繁に起こるかもしれない。しかし、3月20日の日食による「シミュレーション」では、その条件は再現できなかった。


クレイグ・モリス(@PPchef)は、German Energy Transitionの筆頭執筆者である。また、Petite Planèteを主宰し、平日は毎日Renewables Internationalに寄稿している。

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