連載コラム 自然エネルギー・アップデート

日本における42基の石炭火力新増設計画のビジネスリスク
―2026年度の設備利用率は50%を割り込む可能性― 英語版

2017年7月31日 大久保ゆり 自然エネルギー財団 上級研究員
大野輝之 自然エネルギー財団 常務理事

 パリ協定の成立・発効以降、世界的には、脱炭素経済への転換をめざし、石炭ビジネスから撤退する動きが進んでいる。ところが日本では福島原発事故後、すぐには再稼働できない原子力の代替として、また今後の電力需要増加見込みの対応として、更には、電力自由化の中で新規参入や他地域への参入に必要な安価な電源確保を目的として、石炭火力の新増設計画数は42基(1860万kW)に膨れ上がった。こうした石炭火力発電所の新増設計画に対しては、これまで二酸化炭素排出量を大量に増加させることや、地域の環境悪化を招くことなど、主に環境面から厳しい批判がなされてきた。

 こうした環境面の問題に加えて、大量の新増設計画は、実は投資をして収益をあげるという純粋なビジネス判断からしても、誤った選択なのではないか。自然エネルギー財団が、7月20日に発表した報告書「日本における石炭火力新増設のビジネスリスク―設備利用率低下による事業性への影響―」は、まさしくこの点を検証したものだ。報告書では、最新の電力需給データ、各電源の稼働状況や導入計画をもとに、新増設計画が実現した場合、10年後の2026年度の設備利用率がどうなるかを試算し、石炭火力新増設の事業計画立案時に見込まれた利益は実現できない可能性が高いことを明らかにした。

 結論から述べれば、石炭火力発電所の設備利用率は、現在の80%程度から大きく低下し、2026年度には56%程度まで下がること、また、省エネにより5%程度電力需要が減少すれば、50%を切る可能性もあることもわかった。通常、石炭火力発電の新増設を計画するときには、70%の設備利用率で40年稼働することを収益確保の前提条件としているとみられるから、50%台まで低下し、場合によっては50%も割り込むという試算結果は、これらの新増設計画を進めることの経済的な妥当性を大いに疑わせるものだと言える。


図 火力新増設計画が実現した場合の火力の設備利用率の推計
出典:自然エネルギー財団作成

 設備利用率56%という結果になった今回の試算に用いた想定は以下のとおりである。  

  • 2026年度までの稼働が計画されている石炭火力新増設計画がすべて運転開始する。
  • 電力需要については、2016年度と同じ水準になるケースを想定する。
  • 原子力発電については、一定の再稼働が進むものの、政府が「長期エネルギー需給見通し」で見込む2030年度の電源構成20~22%の半分程度の10%にとどまるケースを想定する。
  • 太陽光発電は、代表的な太陽光発電コンサルティング会社である資源総合システムが「現状成長ケース」として見込む8,192万kWが導入されていると想定する。

 今回の試算に用いたこれらの想定は、決して極端なものではない。日本の電力需要は、東日本大震災後にエネルギー効率化が進み、2010年度の9,311億kWhから2015年度の8,415億kWhへとわずか5年で約10%減少している。これに比べれば、今後、省エネが進まず2026年度にも、2016年度と同じだけの電力需要があるという想定は、きわめて保守的なものだ。仮に今後10年間に5%だけ需要が減る、という想定(震災後5年間におきたことの4分の1のペース)をしただけで、設備利用率は50%を割り込むという結果になった。

 石炭火力の「ライバル」になる太陽光発電の8,192万kWという導入量の想定も控えめなもので、実際、資源総合システムが見込んだ「導入進展ケース」では、9,762万kWという導入量が予測されている。

 原発の再稼働は政府の2030年見通しの半分という今回の想定をさらに下回る可能性もあり、その場合には、石炭火力の設備利用率はいくぶん高くなる。それでも省エネが進めば50%台に落ち込んでしまうだろう。

 今回の報告書では、もっぱら電力需給データや各種電源の見通しから設備利用率の変化を試算した。しかし、ビジネスの現場では、石炭火力ビジネスを危うくする別の動きも進んでいる。日本でも有数のグローバル企業が、自然エネルギー100%への取組を開始するなど、企業活動の脱炭素化をめざす動きが強まっている。化石燃料の中でも飛びぬけて温室効果ガス排出量の大きい石炭火力発電は、こうした企業から敬遠されることが予想される。

 東日本大震災以降、石炭火力の新増設計画は増加の一途を辿ってきたが、2017年に入って、電力需要減、CO2排出削減に向けた対策の強化などを理由に、4基の中止が発表された。この報告書が明らかにした設備利用率低下の可能性は、残り42基の石炭火力新増設に関わる事業者および金融機関に、何が的確なビジネス判断なのか、もう一度考え直すための、重要な材料となるはずだ。


関連報告書
「日本における石炭火力新増設のビジネスリスク―設備利用率低下による事業性への影響―」

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