連載コラム 自然エネルギー・アップデート

原子力発電なしの夏

2014年10月2日 大林ミカ 自然エネルギー財団 事業局長

東日本大震災から4回目の夏が過ぎた。2011年は11基、2012年はいったん5月に「原発ゼロ」となってから、7月に大飯原発2基が動き出した。2013年夏もそのまま動いていたので、原子力発電なしで夏を乗り切ったのは、1966年に日本初の原子力発電、東海発電所が動き出してから初めての事だ。

2年前、大飯が再稼働したときには、政治も世論も巻き込んで、原発なしで夏が乗り越えられるのかどうか、侃々諤々の議論が行われた。再稼働を進める政府や電力会社の言い分として、震災前の2010年を引き合いに、その年並の猛暑がくれば、需給が逼迫し大停電が起こる、というものだった。

実感としては、皆の中に、原発2基でようやく「大停電を回避できた」という感覚はなかったのではないか。なぜなら、2011年は11基の原発が動いていたのに、政府から電力使用制限を伴う強い節電要請があったが、2012年は、数値目標を伴う節電要請だけで、電力使用制限は発令されなかったからだ。

2013年、2014年は、節電要請は出ているが、数値目標は伴っていない。その裏には、すでに電力需要が大幅に削減されているということがある。

省エネルギーは、数値をみないと意識することができない。7月から35度台が頻発した2013年の暑い夏でも、震災の前年の2010年夏の電力消費量にくらべ8%の消費を削減している。特に顕著なのが東京電力管内で、電力消費の削減が10%におよび、特に最大電力は2010年の5,999万kWから5,093万kWと約900万kW程度に16%減らした。

「節電」は続いている。気象は大きな地域差があるが、関東圏は今年も冷夏だったわけではなく、35度以上の猛暑日の発生は平年通りで2013年に迫る勢いだった。一方で、2014年8月5日火曜日に記録した今年の東電管内の最大電力は4,980万kWで5,000万kWを超えず、1,000万kW以上を削減した。電力需要全体では既存の電力会社から新電力へと電力の購入先を替えた企業や自治体もいるが、高圧ではシェアの伸びがあるものの、電源不足により伸び悩んでおり、状況はあまり変わらない。もはや「節電している」というより、電力消費や最大電力が大幅に削減される状態が根付いたのである。

しかし、だからこれから節電しなくていいというのではない。むしろ、意識的な「節電」をし、省エネルギーメニューをこうじていけば、さらに削減できる可能性が見えているということだ。日本は、海外から高い輸入燃料を購入しており、さらにここ2年は、加速する円安が購入費増加に拍車をかけているのは事実である。震災前も今も、本来の意味でのエネルギー・セキュリティーに無防備な日本は、毎年、目標数値を伴う節電要請があってもいいくらいだろう。

この燃料費については、先述の省エネルギー効果もあり、原子力が動かないことで増えている燃料費は、当財団の試算では大体1.6兆円程度で ⅰ 、政府の試算である3.6兆円よりも6割少ない。1.6兆円なら負担していいというものではないが、そのうち、省エネルギーで削減できた額は1兆円程度にもなり、大変大きな効果があったことがわかる。

そして、純国産エネルギーへ転換していくということでは、2012年7月から導入された固定価格制度の効果により、太陽光発電のみと限定的ではあるが、すでに22ヶ月で1000万kW近くの自然エネルギーが導入され、それまでの自然エネルギー容量が1.5倍となっている(2014年4月末値)。環境影響評価の導入などで出足の遅れた風力などが今後市場に参入していけば、容量も発電量も、一気に拡大していくことが期待される。既存の水力発電と併せて、日本の自然エネルギーが2020年に20%となることも次第にみえてきたといってよい。

2011年からすでに4回目の夏が過ぎ、「節電」実績や自然エネルギー拡大の道筋が見えてきた。この流れを途絶えさせることなく、政策化して加速することが必要だ。


 ⅰ 『「原発停止による3.6兆円の国富流出」試算の妥当性』、公益財団法人 自然エネルギー財団、2014年3月

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