連載コラム ドイツエネルギー便り

ドイツの「再生可能エネルギー法」見直しは成功の証

2014年7月11日 梶村良太郎 ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー

去る6月27日、ドイツの『再生可能エネルギー法』(Erneuerbare-Energien-Gesetz 略称EEG)の改正法案がベルリンの連邦議会を通過した。EEGといえば、ドイツの自然エネルギー導入の原動力といえる法律である。同法が定める「固定価格買取制度(FiT)」のおかげで、自然エネルギーの電力シェアは大きく伸び、経済、気候保全などの各局面で今や欠かせない電源へと成長を遂げた。かつては異端の技術とも言われた自然エネルギーの導入促進という、当初の目標は十二分に達成されたといえる。そんな中、今回のEEG改正をどう位置づけるべきか、解説したい。

EEG改正の系譜

EEGの改正は、今回が初めてではない。2000年の発効以降、2004年、2009年、2012年には二回と、これまで計四度にわたって小刻みな調整が行われてきた。EEGが促した技術革新と産業基盤の発達のおかげで、太陽光と陸上風力の発電コストは今や新設の化石火力と張りあえるほどに下がった。それに応じて、FiT制度の電力買取価格も下げられてきた。つまり、FiTは成功すればするほど、縮小される運命にある。

ここまでの道のりにムダがなかった訳ではない。が、試行錯誤の中でムダを最小限に抑えつつ、最大限の自然エネルギーを導入し、そしてコスト低減を実現してきたドイツの実績は、パイオニアとして誇れるものである。今回のEEG改正は、このようなFiT制度の成功の上に成り立っていることを忘れてはならない。

15年目のFiT見直し

今回のEEG改正法案でひとつの争点となっているのが、FiT制度の見直しである。これまでの固定価格買取の対象となる発電設備を段階的に減らし、「フィードイン・タリフ(FiT)」から「フィードイン・プレミアム(FiP)」と呼ばれる助成方式に近づけていく。簡単にいえば、発電事業者は電力を自ら市場で販売し、その売上に一定の助成金が上乗せされるシステムだ。

成功しているはずのFiT制度を見直すとは、一見矛盾ともとれるが、基本的には理にかなっている。前述の通り、FiTは成功すればするほど、縮小される運命にある。助成制度とは、技術のスタートダッシュを助けるためのものであり、恒久的に存在し得るものではない。今回のFiT見直しは賛否両論あれど、自然エネルギーを徐々に電力市場で独り立ちさせてゆく試みには違いない。EEGが始まって15年目、発達を続けてきたドイツの自然エネルギーは、少しずつそのような時期に差し掛かっている。

手段をめぐるせめぎ合い

今ドイツ国内で争点となっているのは過去の政策の是正云々ではない。これまでの成功をいかに継続していくか、その一点に尽きる。エネルギーヴェンデは、主に市民、中小企業、地方自治体が主体となって推進してきた。手続きが簡単で安全な投資を保証するFiTは各地、特に地方で無数の分散型エネルギー供給事業を促進し、地域を経済的に潤してきた。事実、再エネ設備の大半を個人や中小企業が所有している。一方、数年前まで電力市場を支配していた大手電力四社は設備容量のわずか5%と、ほとんど貢献していない。

一方で課題も残る。今回のEEG改正の内容は、自然エネルギー拡大の担い手である小規模事業に対するハードルを高め、逆に資本が潤沢でハイリスクビジネスを展開できる大手事業者を優遇するもので、これまでの成功を育んできた中小規模の分散型事業にフタをしてしまうのではないか、そう危惧されている。それだけに、FiTの見直しも時期尚早ではないかと疑問視されている。また、自然エネルギー拡大のため化石燃料や原子力からの利益が激減している大手電力四社に配慮しすぎてはいないか― そう指摘する声も少なくない。

2000年のEEG発効以来、加速的に進んできたドイツのエネルギーヴェンデは、その成功ゆえに新たな課題に直面していることは確かである。中長期的な自然エネルギー導入をどのように確保するか。これまで育んできた分散型の組織をいかに維持・発展させてゆくか。エネルギーシステムの転換による負担、そしてそこから生み出される利益をどう分担するのか。自然エネルギーが存在感を増すほどに多くの勢力を巻き込みつつ、正しい手段の見極め・選択を巡るせめぎ合いが続く。


執筆者プロフィール
梶村良太郎
(かじむら・
 りょうたろう)
1982年、ドイツ・ ベルリン生まれ。ビーレフェルト大学大学院メディア学科卒。現在、再生可能エネルギーの情報発信を専門とするNPO、Agentur für Erneuerbare Energien(ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー)に勤務。

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