連載コラム 自然エネルギー・アップデート

風力発電は実は最も安定した電源である

2014年10月23日 安田陽 関西大学システム理工学部准教授

「風力発電は最も安定した信頼できる電源である」と言うと、おそらくほとんどの方が驚き、「それはウソだ!」「デタラメだ!」という人も出てくるかも知れない。このような言説は今まで日本語ではほとんど語られていなかったため、感覚的に理解できない方も多いことは容易に想像できる。しかし世界では、風力発電は安定した信頼できる電源であるという認識は常識になりつつある。少なくとも世界の投資家や政策決定者はそのように見ている。

ある電源が安定かどうかを考えた場合、どのタイムスケールで変動成分を管理できるかを切り分けて考えるのが合理的である。例えば風力発電の安定性は以下のように分類できる。

 (i) 数十秒〜数分の変動:広域で複数の風車を「集合化」すれば事実上問題ない
 (ii) 数十分の  〃  :発電電力量ベースで15〜20%の導入率までは問題ない
 (iii) 数時間の  〃  :風力発電の出力予測と市場設計により従来技術で対応可能
 (iv) 数日間の  〃  :系統運用上特に問題ない
 (v) 数ヶ月の  〃  :季節間の変動は大きいが予測しやすい
 (vi) 数年の   〃  :非常に安定で最も予測しやすい

(i)〜(iii)は電力系統の運用に直接関係するタイムスケールであり、これも日本で根強い誤解が多いが、本コラムの主題ではないため参考文献[1]、[2][3]、[4]を提示するに留めたい。

風力発電の注目すべき特徴は(vi)であり、実はさまざま電源の中で「最も安定で信頼できる」と言われる点はこのタイムスケールにある。例えば表1はポルトガルの事例であるが(ポルトガルは電力情報が透明性高く開示されており入手しやすい)、他の再生可能エネルギーに比べ風力発電は最も変動係数が小さく、年間発電電力量も予想がしやすい電源となっている。水力発電はどの国でも渇水年と豊水年が存在し、それを事前に予測することは非常に難しい。太陽光発電も日照条件は雲や雨量に多寡に依存し、年ごとにばらつきは多い。また火力発電は燃料こそある程度備蓄が可能なものの、化石燃料の価格の急上昇・乱降下により常に価格変動のリスクを抱えている。このような中で、風力発電は一度建設すれば安定して無料の燃料(風)の供給が見込め、地政学的リスクや市場リスク・政策リスクにも左右されず投資が回収できるという信頼性の高い電源であることがわかる。年間でほぼ決まったkWhを安定的に稼げるということは、投資家にとっても系統運用者(電力会社)にとってもリスクが少なく、あるいは国産エネルギーを増やして国富流出を極力抑えたい国にとっても、非常に魅力的な電源であることは言うまでもない。

ちなみに「風力発電は事故ばかり起こすので役に立たない!」という反論も容易に予想できるが、これも印象論に過ぎず、世界の風力発電の稼働率は97%以上あるという実績データがある(参考文献[5])。「稼働率97%」と言うと、これも「そんな数字はありえない!」「誇大広告だ!」という反論をしばしば頂くが(おそらく「設備利用率」と混同している方が多い)、稼働率とは「故障やメンテナンスで停止していない時間の割合」であり信頼性を示す指標である。風車はどこからでも見えやすいため、ひとたび事故があると人々の脳裏に焼き付きやすいが、100本1000本単位で見ると故障確率は低く、極めて信頼性の高い実績を誇っていることがデータから実証されている。

我が国では風力発電に関して誤解や神話が多く流布しており、それが再生可能エネルギーの健全な発展を妨げている一要因ともなっているが、日本が「再エネ後進国」から脱却するためには、このようなデータに基づいた論理的・科学的な議論を国民全体で真摯に行うことが必要である。

参考文献
[1] 安田: 日本の知らない風力発電の実力、 オーム社 (2013).
[2] 欧州風力エネルギー協会著、 日本風力エネルギー学会訳: 風力発電の系統連系 ~欧州の最前線~、 日本風力エネルギー学会 (2012).
[3] H. ホルティネン他著、 近藤・安田訳: 風力発電が大量に導入された電力系統の設計と運用、 国際エネルギー機関 風力実施協定第25分科会 (IEA Wind Task25) 第1期最終報告書、 日本電機工業会 (2012).
[4] T. アッカーマン編著、 日本風力エネルギー学会訳: 風力発電導入のための電力系統工学、 オーム社 (2013).
[5] 内田:ウィンドファーム稼働率の傾向について、 風力エネルギー、 Vol.32、 No.4、 pp.126-130 (2008).

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