連載コラム 自然エネルギー・アップデート

2014年最新データで見る米国自然エネルギー事情
初出:『環境ビジネスオンライン』 2014年9月15日掲載

2014年10月30日 大野輝之 自然エネルギー財団 常務理事
ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団 研究員

アメリカでの自然エネルギーの導入は、これまでドイツやデンマークなど欧州の先進国と比べると遅れをとっていた。しかし、このほどまとまった2014年前半のデータを見ると、風力発電を一番手、太陽光発電を二番手として、急速に拡大が始まっている状況が見て取れる。

初めて「新自然エネルギー」が水力発電を上回る

アメリカでは、連邦政府のエネルギー情報局(The United States Energy Information Administration: EIA)から、毎月の自然エネルギー発電量が州ごとに公表される。このデータで2014年の1-6月、前半の半年分の動向を分析してみた。図1は季節別の変化の影響を除外するために、2010年から2014年まで各年の前半分の自然エネルギー発電量の推移を見たものだ。

まず指摘すべきなのは、自然エネルギーの中でも、風力やバイオマス、太陽光などのいわゆる「新自然エネルギー」の発電量が、伝統的な自然エネルギーである水力発電の発電量を全米レベルで初めて上回ったことである。その差は大きくないし、水力発電の発電量が2011年をピークに減少しているということもある。しかし、新自然エネルギーの増加が傾向的に続いていること、他方、水力発電は開発に適した場所が余り残っていないことを考えれば、これは一時的な現象ではなく、自然エネルギーの中の主役交代を意味する画期であると言っていい。

一番手の風力と二番手の太陽光

こうした新たな自然エネルギーの拡大を牽引してきたのは風力発電である。日本では固定価格買取制度が始まっても、いっこうに風力発電の導入が進まない。しかし、これは日本独自の状況で、世界的には風力が何といっても一番手であり、アメリカはその代表例だ。2010年から2014年(いずれも前半六カ月)にかけて、風力発電の発電量は、47,653GWhから99,739GWhへと4年間で倍増している。

米国風力発電協会(AWEA)によれば、現時点で建設段階にあるアメリカの風力発電は、1400万kWを超えるという。現在の総導入量が6195万kWだから、その2割強にあたる規模であり、これらの稼働にともなって発電量も確実に増加していくことが見込まれる(ちなみに日本の風力発電の導入は約260万kWにとどまっている)。米国の風力発電コストは、過去4年間で43%減少したと指摘されており、こうしたコスト削減が導入に拍車をかけている。

もうひとつご注目いただきたいのは、太陽光発電の動向である。グラフで見るとあまりよくわからないが、なかなか全米の統計数字に表れるほど導入が進んでいなかった太陽光発電が、昨年あたりから、ついにその存在感を示し始めている。4年間の増加率を見ると、619GWhから8,535GWhへとこちらほぼ14倍の急成長である。

更に、ここで注意が必要なのは、EIAの統計で把握されている太陽光発電は、1MW以上の大規模施設であり、急速に普及が進んでいる住宅用太陽光などは含まれていない、ということである。このためEIA自身が統計の注記の中で、「この除外分は、太陽光発電のような技術については、既存あるいは計画中容量の大きな部分(significant portion)に該当するかもしれない」と記載しており、小規模な太陽光発電を加えれば、その成長は更に顕著なものになっていると考えられる。

図2は、2010年と2014年における全発電量に占める自然エネルギーの割合を種類別に見たものだ(ともに前半6か月分)。この4年間で11.1%から14.3%へと3.2ポイント増加している。風力と太陽光が増加を牽引していることが、この図からも見てとれる。

16州が20%以上の自然エネルギーを導入

日本の自然エネルギーの導入目標に関しては、本年4月に国が定めた「エネルギー基本計画」の中で、過去に定めた「2030年に約2割」という水準を「更に上回る」というあいまいな目安が決められた。ここでは、この日本の2030年目標レベルを達成している州がどのくらいあるかを、2014年前半データを用いて調べてみた。図3がその結果である。全部で16州が20%を超える自然エネルギーを導入している。アイダホ、オレゴン、ワシントンの3州は80%超という高い率だが、内訳にあるとおり、これらの州では従来から大規模な水力発電が大きかった。

風力や太陽光などの「新自然エネルギー」に着目すると、サウスダコタとアイオワ州が約3割の電力を風力で発電していることが注目される。ノースダコタ、カンサス、ミネソタ、オクラホマといった州が20%前後のレベルにあり、サウスダコタ、アイオワも含め、中西部が米国の風力発電の中心になっている状況がうかがえる。太陽光発電については、以前、本連載でも取り上げたカリフォルニア州、ネバダ州などで存在感を示してきている。

とりわけカリフォルニアは、風力、地熱も含めた多様な自然エネルギーがそれぞれ一定の割合を発電し、3700万人という全米最大の巨大州で3分の1程度の電力を自然エネルギーで供給していることがわかる。

東京電力の全電力量に匹敵する米国の「新自然エネルギー」

以上、本稿では2014年の最新データで、アメリカの状況を概観してきた。風力発電と太陽光発電を双発の推進力として、テイクオフしたアメリカの自然エネルギーは大きく成長していくだろう。

最後に、やや蛇足であるが、アメリカの自然エネルギー発電量の大きさを実感として把握しやすくするために、日本の電力会社の全電力量と比べておこう。ここでは、年間で比較したほうがいいので、米国は暦年の2013年、日本は2013年度のデータを用いる。

2013年の水力発電以外の米国の「新自然エネルギー発電量」は253,328GWhであるが、これは、東京電力の2013年度の販売電力量266,692GWhにほぼ匹敵するほどの大きさである。風力発電だけでも167,665GWhで、これは関西電力と四国電力をあわせた量に匹敵する。火力発電なども含めたアメリカの全電力量は、日本の4倍程度もある巨大なものなので、それに占める割合だけを見ていると、その大きさを過少評価してしまうこともあるが、導入の絶対量としては、既に相当な規模まで進んできているのである。

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