連載コラム 自然エネルギー・アップデート

期待以上の成功で改革が必要になったドイツのエネルギー大転換 英語オリジナル


2014年7月11日 ステファン・シュリグ 世界未来協議会 気候エネルギー部門 ディレクター

ドイツの「エネルギーヴェンデ」(Energiewende、エネルギー転換政策)にとって、ここ一ヶ月は大きな節目だ。6月27日(金)、ドイツの下院に当たる連邦議会は、ジグマー・ガブリエル経済エネルギー大臣が提出したドイツ「自然エネルギー法(EEG)」の改定案を受け入れた。7月11日(金)には連邦参議院で採決が行われる。いわゆる「新生EEG」法案には、長い議論の過程でさまざまな改定条項が加えられたが、すべてが1つの方向性を目指している。すなわち、自然エネルギーを通じたエネルギー市場の転換スピードを遅くすること、である。送電系統の技術的な問題や、克服しがたい難問があるからではない。ガブリエル大臣が、国民の利益よりも、石炭や原子力エネルギー企業の利益を重視したためである。

過去15年の間に、自然エネルギーの価格は飛躍的に下がり、効率の向上や、可用性、実用性も驚くべき進化を遂げた。これはすべてEEGの効果だ。自然エネルギーがドイツの電力に占める割合は、2000年の3%から現在の約27%まで上昇した。先日の日曜日、5月11日には、その日の総電力需要の約75%を、ドイツの自然エネルギー発電事業者が発電している。過去最高の記録だ。EEGの肝である、ドイツ型固定価格買取制度(FiT)は、37万人の雇用を作り、町や村、地域に、非常に大きな利益をもたらした。こうした地域では、高コストのエネルギー輸入を節約し、雇用が生まれ、税収が増したことで、ローカルな価値の創造が行われている。

ドイツの掲げる「2050年までに自然エネルギー電力比率80%」という政策目標を達成するために必要な、送電系統の整備や市場の統合、金融商品について、市民の議論や政策論争が活発になったのは、ここ最近の自然エネルギーの急成長が、目標を現実可能なものとして感じさせているからだ。まさしくこうした動きこそが、これだけの規模の変革を実現するうえで必要なイノベーションだといえる。

しかし、残念なことに、改定EEGは、こうした問題のいずれにも対応していない。むしろ、過去10年の間に自然エネルギーを事業モデルに組み込んでこなかった企業やエネルギー会社を強化するものになっている。逆に、地域やコミュニティーには損失を与えるものになる可能性がある。実際、今回の改定案は、エネルギー消費者や市民の共同組合、自然エネルギー業界の犠牲のもとに、化石燃料の専制と大手エネルギー企業を保護する妥協の寄せ集めになっている。

改定案には、緊急に見直しが必要なさまざまな論点(この原稿で書くには多すぎる)がある。主な問題点は以下の3つである。

エネルギー集約産業に対する免除措置の継続

今回の改定でも、現在消費者の電気料金に1kW時当たり6.3ユーロセント上乗せされている自然エネルギー促進賦課金を、大口電力需要産業は、引き続き免除されるようだ。ドイツでは、エネルギー集約産業に対する免除が家庭用の電気料金上昇の主な原因になっている。これを改めることが法改定作業の主な目的であり、与党CDUとSPDの重要な選挙公約の1つでもあった。ところが、両党の公約に反して、欧州委員会から欧州の競争規制を理由に免除の廃止を求められていたのにもかかわらず、経済エネルギー大臣は、企業ユーザー1,600社が引き続き免除を確実に受けられ、年間約51億ユーロの負担を免れるようにした。

太陽税:自家消費用太陽光発電への課税

改定案では、直接消費に対してもFiT賦課金が適用されることになった。これまで太陽光発電システムの所有者は、太陽光発電で発電した電力を自家消費し、売電しない場合、FiT賦課金を支払う必要がなく、それがエネルギー共同組合や地域エネルギー供給者の新たなビジネスモデルを生み出してきた。今後は10kW以上の規模の発電事業者全てが少額でも課金の対象となる。家主や市民協同組合からの直接売電といった現在増えつつある画期的なビジネスモデルにとって、1kW時あたり約2ユーロセントの追加課金は障害になるだろう。ドイツのNGOはこの不合理な措置を「太陽税」と呼んでいる。

直接販売

旧「自然エネルギー法」では、20年間の固定買取価格を保証することで投資の安全性を確保していたが、政府は現在、直接販売(訳注:市場取引)の義務化を実施しようとしている。改定案では、義務的直接販売をまず発電容量500 kW以上の自然エネルギー発電所から予定している(2014年8月以降)。2016年以降は250 kW以上、2017年以降は100 kW以上の施設にも適用される。そのためシステム所有者は、きわめて官僚的でリスクの大きい販売制度に強制的に組み込まれる。この結果、これまでエネルギー転換の屋台骨となってきたエネルギー協同組合と個人投資家は不利な立場に置かれることになる。

筆者自身としては、この改定EEGには多くの問題点があり、先述のように、ドイツのエネルギー転換策にブレーキをかけるものだと考えている。少なくとも、新政権によってこのブレーキが取り外され、再度FiT制度が強化されるまではそうだろう。

それでも、自然エネルギー普及の未来については楽観視していることに変わりはない。なぜなら、もう歯車は回り始めているからだ。ドイツ国内の動きに関わらず、様々な規模で自然エネルギーへの投資がなされ、数多くの改革が続くだろう。改定EEGはドイツのエネルギー転換策の速度を緩めるものかもしれないが、世界的な自然エネルギーの普及にブレーキがかかることはない。エネルギー転換に乗り出した他の国々の歩みを遅らせることもできない。理由は簡単だ。自然エネルギーはすでに、世界の多くの地域で、最もコストの安い発電方法になっており、燃料費ナシの、信頼性の高い国産資源でエネルギーを供給しているからだ。さらに、すでに多くの人々が分かり始めているが、エネルギー転換で一番高くつくのは、自然エネルギー技術が利用可能であるにもかかわらず、今それを利用しないことだ。なぜなら、今日の太陽や風力は、明日はもう利用できないからである。

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