連載コラム 自然エネルギー・アップデート

自然エネルギー競争で日本はなぜ中国に勝とうとしないのか? 英語オリジナル

2015年3月20日 ジョン・A・マシューズ
オーストラリア・マッコーリー大学経営大学院教授

日本のエネルギー改革をめぐる議論はこれまで、核燃料および化石燃料の将来性や、発電市場の構造改革に関する問題を中心としてきた。天然ガス(LNG)調達を目的とした、東京電力(TEPCO)と中部電力による最近の合併事業はその典型的な例である。これはつまり、エネルギー安全保障とは、燃料の供給元を多様化し、日本の燃料調達力を強化することだと考えられていることを意味している。ちなみに、ここで言う燃料とは核燃料および化石燃料を指している。自然エネルギーは、補助的かつ取るに足らないエネルギー源であり、気候変動を緩和する上でのメリットはあるものの、エネルギー安全保障全体に大きな影響を与えるようなものではないと考えられてきた。

中国では違う見方をしている。中国がここ数年間で建設した自然エネルギー発電システム容量は、世界最大である。2014年には、水力、風力および太陽光による発電量がおよそ200 TWh(2,000億 kWh)も増加し、化石燃料による発電量は実のところ1.1%減少している。近年、初めて見られた減少であり、極めて重要な節目となったと言えるだろう。設備容量で見ると、中国で新たに導入された水力、風力および太陽光発電の累積容量は52 GW(5,200万kW)だ。これは1GW(100万kW)出力の発電所が平均して毎週1基建設されていたのと同じことである。自然エネルギーへの投資額は、火力発電の燃料への投資額を毎年上回っている。これらの数字はすべて、日本のそれを大きく上回っているのだ。

中国のこれらの取り組みは、世界のために行われている訳ではない。中国が自然エネルギー源に非常に力を入れているのは、それらが中国の大気汚染および水質汚染問題に対する即座の解決策になるからであると説明するのが妥当であろう。環境汚染の原因となっている中国のエネルギーシステムを改善することは、政府にとって明らかな最優先事項だ。しかし中期的な目標は、化石燃料時代にしばしば見られた国際関係のもつれを伴わないエネルギー安全保障の形を、自然エネルギーが確立することにある。これは日本のエネルギー安全保障戦略においても明白である。

自然エネルギーが真のエネルギー安全保障をもたらすことができるのは、自然エネルギーが発電機の「製造業」によって生み出され、「製造業」は国内活動として、利益を増やしコストを削減しながらコントロールできるためである。自然エネルギーには、製造規模の拡大によってコストを削減できるという利点がある。この点は太陽電池および風力タービンの生産を拡大する中国で顕著に見られ、蓄電池製造および集光型太陽熱発電用のミラーやレンズにも、現在コスト削減効果が現れている。これは自然エネルギー政策の1つの側面であり、自然エネルギーが将来の輸出プラットフォームおよび製造業の柱の1つになるとの見方もできる。今まで気候変動の緩和という観点だけで自然エネルギーを捉えている国々は、この側面を見過ごしてきた。確かに、自然エネルギーによってゼロ(もしくはゼロに近い)カーボンでのエネルギー利用が可能になり、それこそが自然エネルギーの最大のメリットではある。しかしながら中国の政策立案者たちは、このメリットを自然エネルギーの一番の特徴とはおそらく考えていないだろう。

日本の政策立案者たちの考え方も、今のところ中国とは異なっている。エネルギー政策およびエネルギー安全保障についての「真剣な」議論の中心は、化石燃料の供給ラインの多様化であるという見方が日本ではいまだに蔓延しているように思われる。そして、エネルギー安全保障および輸出の拡大をもたらすための製造システムとしての自然エネルギーの可能性は、無視ないしは軽視されている。「製造業」によって生み出される自然エネルギーは、世界の製造業大国としての日本の強みとなるかもしれない。しかし、21世紀の最も重要な産業において、日本はいまだに中国のリードを許しており、化石燃料と原子力に依存する20世紀型の考えに囚われたままなのである。エネルギー安全保障を向上させる強固な製造システムを構築する競争に日本は負けつつあるのだ。日本の政策決定を担うエリートたちにいつまでこの状況の継続を許すのか、と疑問を呈すべきである。


Please also see ‘The Greening of China’s Black Electric Power System? Insights from 2014 Data’ issued onThe Asia-Pacific Journal, Vol. 13, Issue 10, No. 2, March 16, 2015, written by John A. Mathews and Hao Tan
http://www.japanfocus.org/-John_A_-Mathews/4297

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