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電気事業法の改正:広域運用とは何か? 英語版

2014年5月1日 高橋洋 富士通総研主任研究員

安倍内閣の下で、電力システム改革が三段階にわたって進められている。その第一段階が、昨年11月の電気事業法の改正であり、来年には「広域的運営推進機関」が設置されることになっている。この機関は極めて重要であると筆者は考えるが、日本では、「広域的運営」あるいはより一般的に「広域運用」という言葉になじみが薄く、そもそも何をするのか理解が進んでいないように思われる。

送電網の広域運用とは、電力システムをより広い地域で捉え、電力の需要と供給をバランスさせることを指す。「同時同量の原則」が働く電力システムでは、系統運用者(電力会社)が需給調整の義務を負っているが、これを限られた地域内で行えば非効率を招く。多様な需要と多様な供給を足し合わせる系統運用においては、出来る限り広い範囲を対象にした方が、柔軟性が増すからである。これは、青森県内でりんごの需給をバランスさせるのは不可能だが、東日本一体、あるいは全国では容易になるのと同じである。

例えばデンマークでは、発電電力量の30%以上を風力発電で賄っている。これだけ多くの変動電源が北海道並みの狭い地域に集中すれば、需給のバランスはほぼ不可能になる。そのためデンマークは、年間発電量の概ね30%を輸出し、ほぼ同じ量を輸入している。一見無駄なことをしているようだが、これこそ国際的な広域運用の好例である。風が吹けば、安い電気を国外に売り、風が止めば、国外の安い電気を買う。市場メカニズムに則った電力の取引が、広域運用の裏の姿であり、そのためには送電網で繋がった広い市場が必要になる。それが結果的に、変動電源の電力システムへの統合を容易にしている。

換言すれば、変動電源の割合とは無関係に、広域運用は安定供給に寄与するということでもある。広域であれば多様な調整電源が存在するし、需要家の中には「ネガワット」を提供しようという者もいるだろう。そのため広域運用の重要性は、現行の(改正前の)電気事業法28条にも明記されている。しかし実際には、地域独占の下、電力会社は広域運用するインセンティブに乏しかった。あくまで自社が所有する地域内の電源によって、需要変動に対応してきた。このような「狭域運用」が、東日本大震災後の東日本での計画停電の遠因にもなった。

「狭域運用」という日本の現状は、再生可能エネルギーの導入にとって、大きなマイナスとなる。例えば風況が良い北海道では、風力発電の導入は緒に着いたばかりだが、安定供給の観点から、既に受け付けられないという。同じく変動電源である太陽光についても、昨年系統接続の上限が設定された。ここで、需給調整の範囲を北海道ではなく東日本全体と考えれば、市場規模は10倍以上に拡大する。関東では変動電源の割合が極めて小さいから、北海道で現状の10倍程度導入されても、変動性は十分に緩和される。デンマークが周辺諸国と協力して実行していることを、日本では国内で実行可能なのだ。

そのようなことは、電力会社も十分に承知している。資源エネルギー庁の指導の下、東日本3社で広域運用の実証を始めている。一方で、北本連系線が細いから今すぐには無理だとの意見もある。しかし現実には、既存の60万kWの送電容量は、震災直後の東日本への応援融通を除いて、ほとんど使われていない ⅰ 。現在の系統運用ルールでは、再生可能エネルギーの当日の出力変動に対応できないことに、問題がある。

従って、新たに設置される広域的運営推進機関の役割は、極めて重要である。今後地域独占が撤廃されようが、発送電が分離されようが、送電網の地域割拠状態は変わらない。それらを繋ぐ架け橋が必要なのだ。再生可能エネルギーの「導入を最大限加速」(新「エネルギー基本計画」2014年4月)するためにも、広域的運営推進機関に、系統運用ルールや供給計画の策定、広域運用の実施において、十分な権限とそれを担う人材、そして中立性が与えられることを期待したい。


 ⅰ 北本連系線をフル稼働させた2011年度の北海道から本州への年間送電電力量に対して、2008年度は0.7%、2009年度は3.4%、2010年度は8.2%(この内、2011年3月単月分が8割近くを占める)、2012年度は1%の送電電力量に過ぎなかった。資源エネルギー庁、電力調査統計。

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