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連載コラム 自然エネルギー・アップデート

2017年6月12日

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連載コラム 自然エネルギー・アップデート

何も得るものがないトランプ大統領

トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団 理事長
(初出:ETC Göteborg、2017年6月7日付;原文スウェーデン語)

トランプ大統領は、気候変動リスクの軽減を目指すパリ協定からの離脱方針を表明した。自分は「パリ市民ではなくピッツバーグ市民のために選ばれたから」だという。もっともらしい理由に聞こえるが、賢明な選択ではない。国際的気候政策は、パリの市民を保護するためのものではなく、人類の苦しみや多数の難民につながる、非常に急速な気候変動から世界を守るためものである。

しかし、二酸化炭素排出を増やし、自然エネルギーの開発を止めようとするトランプ大統領の政策は、あまりうまく行っていないようだ。2017年の第1四半期の米国の発電量をみると、化石燃料は前年同期比で36TWhの減少、原子力は2TWh減少している。一方で、自然エネルギーは16TWhの増加である。そして、LEDその他の先進技術によって、経済成長にもかかわらず電力消費量は減少している。

急速な気候変動のリスクは、自動車を運転し、電気を生産し、熱を発生させるために化石燃料を燃やすことによってもたらされる。20世紀には化石燃料がもっとも安いエネルギー源だった。しかし状況は変わり、太陽光と風力を筆頭に、水力、バイオエネルギー、地熱が、より安くエネルギーを供給できるようになった。これは過去1年半の動向をみても明らかで、予想をはるかに上回る速さでこの事態が進展している。

太陽光による電力は、30米ドル/MWh(約3米セント/kWh)で購入でき、原油よりも、単位エネルギーあたりで50米ドル/バレル安い。テスラの電気自動車は、ガソリン車やディーゼル車よりも優れた性能を発揮している。陸上風力は太陽光よりさらに安いし、ドイツではエネルギー会社が、助成金なしで洋上風力発電の開発を行う契約を結んでいる。

つまり、自然エネルギーは、他の電源を上回るペースで急速に成長しているし、電気自動車も世界の自動車市場でシェア拡大が続いている。

トランプ大統領の決定は、米国一国主義的な視点からさえ合理的ではなく、米国や米国企業にとっても利益にはならない。懸命な決定であるとは言いがたい。

世界で最も成功している米国の企業たちは、すでに自然エネルギーからの電力を買っている。こうした企業は、地球を破壊しない安価な自然エネルギーを調達することが、世界的な経済発展にも貢献するというメリットを見いだしている。Google、Microsoft、Apple、Amazon、Walmart、3M、Facebookなどなどは、化石燃料や原子力ではなく自然エネルギーに投資している企業のほんの一部にすぎない。

太陽光や蓄電池、電気自動車の分野での米国の技術開発は、近年の産業発展の基礎となってきた。自然エネルギー分野に従事している人の数は世界で約1,000万人に上り、その多くが米国で雇用されている。

テスラの開発など大胆な技術プロジェクトを米国で推進してきたイーロン・マスク氏は、以前から、トランプ大統領がパリ協定から離脱した場合、大統領のビジネス諮問委員を辞任すると表明している。南アフリカで生まれたマスク氏は、米国で成功を収めた多くの移民の一人でもある。

フランスの新大統領エマニュエル・マクロンは、米国の研究者や起業家、技術者に対して、トランプ大統領が予算を削減して野心的な取り組みを縮小するなら、フランスに来て研究や事業を続けるよう呼びかけている。マクロン大統領は、急速な気候変動を防止する取り組みに向けた技術開発への投資を拡大するとも述べている。(https://www.youtube.com/watch?v=hkZRoOrgaPg*

こういう姿勢とは反対に、トランプ大統領は、中南米からの移民がメキシコ経由で米国に入国し続けることを恐れている。そして周知のとおり、大統領の対策は移民と難民を排除するための壁を建設することである。

トランプ大統領は、制御不能なほど急速な気候変動を防止しようとする国際協力からの離脱の決定が、米国を「再び偉大に」すると望んでいる。だが、このやり方が成功するとは到底思えない。熟練した技術を持ち、教育水準の高い米国市民からは、むしろ国を離れる者が続出するかもしれない。

今年2月、チャイナ・デーリー紙は、ノーベル物理学賞受賞者のチェン・ニン・ヤン(楊振寧)博士と、チューリング賞受賞者のアンドリュー・チーチー・ヤオ(姚期智)スタンフォード大学教授が、米国市民権を放棄して中国国籍を取得したことを伝えた。

わたしは今、これをベルリンで書いている。ここでは、かつて同じように、移住を希望する人々を妨ぐために建てられた壁の残骸を見ることができる。1961年8月13日午前1時、有刺鉄線と何千人もの石工たちが、東ドイツと西ベルリンの間を人々が移動することを閉じ始めた。約300万人の市民(その多くは教育水準の高い市民)が、ベルリン経由で東ドイツから西ドイツへ移住してしまったからである。

ドナルド・トランプ大統領の気候変動の国際協力を拒否する決定は、自然エネルギーの発展を止めることはできない。世界は米国抜きで発展を継続する。大統領の政策は、かえって米国の産業発展を阻害することになる。

そして、大統領の移民施策は、近いうちに、移民の流入阻止に向けた壁の建設ではなく、専門知識を持つ市民が欧州や中国へ流出することを阻止するためのものにならざるをえないだろう。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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