6月15日、ドイツは陸上風力発電設備の迅速な拡大のため、新たに「陸上風力法」を閣議決定した1。本法で、国土面積の2%を陸上風力発電に利用するという連立協定の目標達成にむけ、将来的にどの州がどれくらいの面積を提供するか定める。同時に、「連邦自然保護法」を改正し、風力発電設備の承認手続きの簡素化・短縮に取り組む。
ドイツは、2030年に総電力消費に占める自然エネルギーの割合を80%まで高めることを目標としている2。「陸上風力法」案によると、この目標達成に向けて2030年に約115GWの陸上風力発電の設備容量に到達するには、毎年10GWの水準で容量を拡大する必要がある。そして、陸上風力の設備容量を2035年157GW、2040年160GWに到達を目指す。昨今のエネルギー危機を鑑みて、ドイツにとって風力エネルギーの拡大は、国家の安全保障のためにも、化石燃料の輸入脱却を進めるためにも重要である。
それでは、陸上風力の国土2%目標をどのように達成していくのか。現状では、陸上風力発電設備のための用地として、ドイツで実際に利用可能なのは、国土の約0.5%に過ぎない。そのため、今回の「陸上風力法」では、各州の様々な条件や地域間の公平性を考慮した上で、拘束力のある「区域目標」を規定する。具体的には、
・2032年までに都市州(3州)は土地面積の0.5%を、それ以外の連邦州(13州)は土地面積の1.8〜2.2%を、陸上風力区域に指定する必要がある3。
・目標値を上回った州は、限られた範囲内で、風力区域の一部を他の州に“譲渡”することができる。これを行うためには、2024年6月1日までに該当州の協約の提出が必要となる。
ここで、重要になってくるのが、どのくらい密に風力発電設備を設置していくかという問題である。連邦経済・気候保護省によると、ドイツの各州は、指定風力区域と、風力発電設備から最低限空ける距離を指定することができる。ただし、その州が区域目標を達成できない場合には、指定風力区域での州独自の最低距離規定は適用されないことになる。つまり、各州が独自に定める最低距離規定のせいで、その州での区域目標達成ができなくなることを防ぐ。
このように、土地利用規定を定める「陸上風力法」に対して、今回改正となる「連邦自然保護法」は、種の保存と陸上風力発電設備拡大の両立に配慮する。本法では、景観保全地域も風力エネルギー拡大のための区域選定時に含むこととする。同時に、絶滅危惧種の保護区を定める。また、陸上風力発電設備の承認手続きの簡素化・迅速化のため、生物種の保護審査に関するドイツ国内の統一基準が設けられる予定である。そして、陸上風力発電に対する例外的な措置を認めやすくするため、風力発電設備の運転が最優先の公益であり、公共の安全に資することを明確化する。
今回紹介した法案は、これから連邦議会・連邦参議院での手続きに入り、夏休み前には成立する見込みである。そして、2023年初めに施行予定と報じられている。陸上風力エネルギー拡大と種の保存を両立しながら、目標通り2032年までにドイツ国土の2%を陸上風力発電設備利用に充てることができるのか。ドイツの手腕が問われる。