ドイツ連邦環境省と連邦経済・気候保護省は、3月8日、ドイツの原発運転期間延長の妥当性に関する審査結果を公表した1。メリットとリスクを比較検討した結果、経済的コストや安全技術上のリスクの高さなどを理由に、2022年末までに停止予定の残る3基の原発運転延長は推奨できないとの結論を出した。むしろ、ロシアからのエネルギー輸入依存度を下げるためにも、再生可能エネルギーの拡大を推進することが重要であるとの立場を表明した。
そして、ドイツ連邦経済・気候保護省は、3月4日時点の「再生可能エネルギー法」の改正案を公開し(略称:EEG2023)2、2035年にはドイツ国内の電力供給をほぼ完全に再生可能エネルギーによって賄うことを目指す方針を示した。本法案は、2023年1月1日の施行を見込んでいる。正式に採択・施行されるまで、今後内容に変更が生じる可能性があるが、今回は、現時点の改正案と現行法(EEG2021)を比較して、ドイツの新たな再生可能エネルギー拡大目標を読み解きたい。
2035年以降、ほぼ「完全に再生可能エネルギーに基づく」温室効果ガス中立な電力供給へ
まず、改正案が掲げる本法の目標には、現行法にはない「完全に再生可能エネルギーに基づく」という表現がある(1条1項)。温室効果ガス中立な電力供給への転換は、完全に再生可能エネルギーに基づくという文脈だ。そのために、2030年に総電力消費量に占める再生可能エネルギー電力の割合を80%に、2035年以降は国内の発電をほぼ温室効果ガス中立とすることを目指す(1条2項)。現行法では、2030年目標は65%、遅くとも2050年に温室効果ガス中立な電力供給達成と定められていた。両法を比較すると、2030年再生可能エネルギー電力目標は15%引き上げられ、温室効果ガス中立な電力供給達成時期は、最大15年間前倒しとなり、温室効果ガス中立のための方法は「完全に再生可能エネルギーに基づく」と明確化された。
以下、「再生可能エネルギー法(EEG2023)」草案本文から一部抜粋(筆者暫定和訳)
第1条:本法の目的・趣旨
(1) 本法の目的は、特に気候および環境保護の観点から、完全に再生可能エネルギーに基づく持続可能で温室効果ガス中立な電力供給への転換をすることである。 (2) 第1項の目的を達成するために、以下の事項を実現すること。
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安全保障のための再生可能エネルギー拡大という位置づけ
また、改正案では新しく「再生可能エネルギーの特別な重要性」に関する条文が新設される見込みで、再生可能エネルギー設備の建設と運営は、「最優先の公益であり、公共の安全に資する」としている(2条)。
第2条:再生可能エネルギーの特別な重要性
設備とそれに関連する補助設備の建設と運営は、最優先の公益であり、公共の安全に資するものである。 |
ハベック連邦経済・気候保護大臣は、昨今の世界情勢の緊迫を鑑みて、「エネルギー政策は安全保障政策である」という姿勢を明確にしている。「エネルギー自立を強化することは、安全保障を強化すること」であるとして、「欧州レベルでエネルギー転換を推進する必要があり、再生可能エネルギーの拡大は、国内とヨーロッパの安全保障の問題である」という発言をしている3。ここへきて、改めて、ドイツの再生可能エネルギー拡大は安全保障のためという位置づけがなされたのだ。
陸上風力の設備容量の増加目標引き上げ:2040年160GW
つづいて、改正法案における再生可能エネルギーの電源別の拡大目標を陸上風力から確認したい。2020年時点のドイツ国内の陸上風力発電の設備容量は54.4GWである4。今後の設備容量の増加に関しては、2024〜2030年までは2年刻みの目標で、2024年に67GW、2026年に79GW、2028年に94GW、2030年に110GW、2035年に152GW、2040年に160GWを目指す(4条1項)。現行法の目標は2030年までの目標で終わっているが、EEG2023では、新しく2035年152GW、2040年160GWという目標値が設定される。現行法目標との比較を図式化してみると、年を追うごとに目標が引き上がっていることが分かる(図1参照)。
図1 陸上風力の設備容量の増加目標(EEG2021 & 2023: 4条1項)
太陽光発電の設備容量の増加目標引き上げ:2045年400GW
2020年時点のドイツ国内の太陽光発電の設備容量は53.7GWである6。改正案における太陽光発電の設備容量増加の目標も、陸上風力と同様、2024年〜2030年までは2年刻みだ。2024年に88GW、2026年に122GW、2028年に161GW、2030年に200GWである。2035年以降の目標値が新しく定められ、2035年に284GW、2040年に363GWである(図2参照)。加えて、陸上風力の条文には存在しない2045年の目標値が規定され、400GWである。設備容量増加の目標値は、陸上風力発電より太陽光発電の方が大きい。例えば、2040年目標は陸上風力160GWであるのに対して、太陽光363GWと倍以上の差がある。
図2 太陽光発電の設備容量の増加目標(EEG 2021 & 2023:4条3項)
洋上風力とバイオマスの設備容量目標
バイオマスに関しては、他の電源と異なり年次別の設備容量目標の記載はないが、EEG2021の規定と同じく2030年に8400MWで、目標値が据え置かれる(4条4項)。また、洋上風力発電の設備容量に関しては、EEG2021と同様に、通称「洋上風力エネルギー法」の規定に準ずる(4条2項)。ドイツでは、基本的に洋上風力拡大に関する規定に関しては、EEGの範囲外で別途設けられている。2020年時点の洋上風力発電の設備容量は、7.8GWである8。現時点では、現政権の連立協定や連邦経済・気候保護省の発表で、2030年の目標が20GWから30GWへ引き上げられ、その後、2035年までに40GW、2045年までに少なくとも70GWという設備容量目標が掲げられている9。
再生可能エネルギー発電量の中間目標:2030年578TWh
ドイツは、2030年再生可能エネルギー発電電力80%の目標(1条2項1)達成に必要な速度で再生可能エネルギーが拡大されているか検証するため、再生可能エネルギー発電量の指標として中間目標を設定する。これは、通称「電気量経路」と呼ばれ、毎年上昇する(4条a)。2023年の287TWhからはじまり、2030年には578TWhまで達する。図3の通り、EEG2021よりも総じて高い目標値である。
図3 再生可能エネルギー発電量の中間目標「電気量経路」(EEG2021 & 2023: 4条a)
陸上風力・太陽光発電の入札容量も大幅引き上げ
改正案の解説文によれば、2021年、総電力消費量にしめる再生可能エネルギーの割合はおよそ42%だったので、10年以内にほぼ倍増させる必要がある。改正法が掲げる目標を達成するためには大規模な取り組みが必要である。そのため、再生可能エネルギーに対する入札容量も大幅に引き上げられる。たとえば、EEG2023の陸上風力の入札容量をEEG2021の規定(以下、格好内に表記)と比較したところ、多くの年で2〜3倍増となっていることが分かった。2023年8840MW(3000MW)、2024年9000MW(3100MW)、2025年10000MW(3200MW)、2026年10000MW(4000MW)、2027年10000MW(4800MW)、2028年10000MW(5800MW)である(28条)。
太陽光発電の入札容量もEEG2021の規定(以下、括弧内に表記)と比較してみると、年を追うごとに増加率が増え、3.5〜6倍近い増加である。2023年5850MW(1650MW)、2024年7200MW(1650MW)、2025年8100MW(1650MW)、2026年8550MW(1550MW)、2027年9000MW(1550MW)、2028年9000MW(1550MW)である(28条a)。これらは、太陽光発電の第一区分の入札回の数値である。それに加えて、第二区分の入札回があるが、条文番号等に若干の変更を伴いながら入札容量が増加している(EEG2023の28条b、EEG2021の28条a)。たとえば、2023年650MW(350MW)、2024年800MW(350MW)、2025年900MW(2025年以降400MW)、2026年950MW、2027年1000MW、2028年1000MWといった具合だ。なお、バイオマスの入札容量は、現行法では年間600MWだが(28条b)、改正案では2023〜2028年の区分は設けられているものの、数値はまだ空欄のままである。
結論
以上をまとめると、EEG2021とEEG2023草案における再生可能エネルギー拡大目標を比較した結果、特に陸上風力と太陽光発電で設備容量・入札容量ともに大きな増加が見込まれることが分かった。改正法案を見る限り、中でも太陽光発電の容量増加が顕著だ。これから、2023年1月の法律施行にむけた議論が進んでいくとみられる。そして、現状を考えると、これまで以上に安全保障のための自然エネルギー拡大という意味合いが強くなる。本当に本改正法案のような高い目標が実現されていくのか、そしてどのように実現されていくのか、2035年以降は自然エネルギーに根ざした電力供給となるのか、是非見届けたい。