世界各国の企業が自然エネルギーの電力を利用してCO2(二酸化炭素)の排出削減に取り組むなか、新しい発電設備による「追加性(additionality)」を重視する傾向が加速している。日本でも先進的な企業が追加性のある電力の購入量を積極的に増やし始めた。新設の発電設備から電力を長期に購入する「コーポレートPPA(電力購入契約)」も活発になっている。
国際イニシアティブの「RE100」は加盟企業に求める自然エネルギーの電力の基準「Technical Criteria(技術要件)」を2023年3月に改定する予定で、新たに追加性を要件に入れることを検討中だ。現時点の改定案では、加盟企業が購入する電力と証書は運転開始から15年以内の発電設備に限定する。日本では古くから稼働している水力発電所の電力を含むメニューが販売されているほか、非化石証書をはじめ国内で購入できる電力証書には発行時点で運転開始日の情報が付随していない。いずれもRE100の追加性の要件を満たさない可能性がある。電力や証書を販売する事業者も対応を迫られることになる。
追加性の定義が明確に、CO2排出削減の影響度で判断
企業が自然エネルギーの電力を調達する時に、コストのほかに考慮すべき判断基準が4つある。環境負荷、持続性、追加性、地域貢献である(表1)。特に気候変動を抑制する観点で、追加性の重要度が高まっている。
表1.自然エネルギーの電力を選択する判断基準
自然エネルギーの発電設備を新設(追加)すると、火力発電や原子力発電の電力を代替できて、CO2排出量や放射性廃棄物量を削減する効果がある。企業が既設の発電設備の電力や証書を購入しても、実際のCO2排出量は減らない。CO2排出量の算定において排出量をゼロで計算できるだけである。現実にCO2排出量を削減して気候変動を抑制するためには、追加性のある電力や証書を購入することが望ましい。
ただし追加性を判断する基準は一律ではない。いくつかの考え方があり、追加性の判断をむずかしくしている。世界の主要企業300社以上が加盟するRE100が追加性を具体的に規定することによって、判断基準の統一が進むと考えられる。RE100は次回の技術要件の改定に向けて、3月から5月にかけて意見を公募した(参考資料1、意見は非公表)。改定案には3つの項目が挙げられているが、日本の加盟企業に直接の影響が及ぶ項目は発電設備の運転開始日に関する規定だ。
RE100の改定案では、加盟企業が購入する自然エネルギーの電力や証書を運転開始から15年以内に限定する。ただし自家発電やコーポレートPPAは対象外で、運転開始から15年以上を経過しても要件に適合するとみなす。このような基準は、CO2排出削減のインパクト(影響度)をもとに考えられた。主に2つの観点がある。
第1に、自然エネルギーの発電設備の投資回収年数が一般的に15年程度であること。運転開始から15年以上を経過した発電設備は投資回収が完了している。企業が購入する電力や証書の収益によって、発電プロジェクトの初期投資の回収が進めば、新たな自然エネルギーの開発につながる、という観点だ。古くから稼働している自然エネルギーの発電設備でも、CO2を排出しない電力を供給していることに違いはないが、電力や証書の収益が自然エネルギーの拡大に直接つながらず、排出削減のインパクトは小さい。
第2に、企業が主体的に自家発電やコーポレートPPAを増やすことによって、CO2を排出しない電力を新たに生み出し、長期に利用し続けることが可能になる。事業者から電力や証書を購入する行為は一過性であるのに対して、自家発電やコーポレートPPAによるCO2排出削減には継続性がある。運転開始から15年以上を経過しても、自主的に排出削減を継続できるため、インパクトは相対的に大きいと考えられる。
米国では以前から、気候変動を抑制する効果の大きい自然エネルギーの電力や証書の要件として、運転開始から15年以内という基準を標準的に採用している。環境保護庁(EPA)が企業や自治体などを対象に自然エネルギーの電力を促進するプログラム「Green Power Partnership」や、NGO(非政府組織)のCenter for Resource Solutionsが自然エネルギーの電力や証書を評価して認証するラベル「Green-e」では、運転開始から15年以内であることを要件に盛り込んでいる。Green-eではコーポレートPPAのような長期契約の場合には、運転開始から最長30年まで認める。同様の基準がRE100でも採用されることになれば、欧州やアジアを含めて国際的な追加性の基準として定着する可能性が大きい。
水力発電メニューや非化石証書も基準から外れるおそれ
運転開始から15年以内という追加性の基準が求められるようになると、日本で販売している電力メニューや証書にも影響が及ぶ。大手電力会社が販売する水力発電を主体にした電力メニューでは、古くから稼働している水力発電所の電力を多く含んでいる。電力とともに「非FIT非化石証書(再エネ指定)」を付随して需要家に供給しているが、証書に運転開始日の情報を含まない状態で提供している可能性がある。RE100の新たな要件では、運転開始から15年以内の証書を付随した電力だけが適合する。同様に卒FIT(FIT=固定価格買取制度=の買取期間を終了)の発電設備の電力や証書も、追加性の基準に適合しないものが今後は増えてくる。
すでに数多くの企業が特定の発電設備の情報を付随した「トラッキング付FIT非化石証書」を組み合わせた電力を購入している。RE100ではトラッキング付でなければFIT非化石証書の使用を認めていない。トラッキング付の証書には発電設備の運転開始日が記載されるため、追加性を確認できる。ただし小売電気事業者や需要家が市場でFIT非化石証書を購入する時点では、トラッキングの情報は付随していない。購入後に事務局に申請して情報を付与してもらう必要がある。FITの認定を受けている発電設備の中には、2012年7月のFIT開始以前から運転している移行認定分が含まれている(2021年12月時点のFITによる導入量の約12%)。運転開始から15年以内の基準を満たすトラッキング付FIT非化石証書を確実に取得するためには、事前に運転開始日を確認できた発電設備を指定して申請する必要がある。
海外の多くの国では、自然エネルギーの電力の証書には発行時点からトラッキング情報が付随していて、その情報をもとに証書を購入できる(参考資料2)。運転開始日の情報も含まれている。非化石証書も発行時点からトラッキング情報を付随して取引できるように制度やシステムを変更すべきである。国内で使用できる電力証書には「グリーン電力証書」と「J-クレジット(再エネ発電)」もあるが、いずれも運転開始日を記載していない。運転開始日を含む発電設備の詳細な情報の開示が求められる。
日本ではRE100に加盟していない企業でも、RE100の要件に適合する電力メニューを購入する傾向が見られる。RE100の技術要件の改定に合わせて、新設あるいは運転開始から15年以内の電力や証書を求める企業が増えていく可能性は大きい。それに伴って新しい自然エネルギーの発電設備を拡大する効果が期待できる。追加性のある自然エネルギーの電力や証書を購入することが国全体のCO2排出削減に貢献する。
<参考資料>
1) Open consultation around proposed changes to the RE100 technical criteria, March 2022, RE100
2) 電力証書が自然エネルギーを増やす:日本と海外で隔たる制度、2022年4月、自然エネルギー財団