100%自然エネルギーの未来は実現できる。2050年脱炭素に向けて熟議を尽くせ。

大林 ミカ 自然エネルギー財団 事業局長

2020年12月23日

in English


 2020年12月21日の基本政策分科会において、経済産業省は、日本のカーボンニュートラルを達成するための議論の叩き台として、2050年の発電数値を提起した。自然エネルギーで50-60%、原子力とCCS付火力で30-40%、水素+アンモニアで10%というものだ。

 今後の議論によって変わる可能性はあるとされているが、自然エネルギー電力50-60%は、かねてより自然エネルギー財団が『2030年の国際水準』と言ってきたレベルにとどまる。一部のメディアでは「欧州など先進国に遜色ない水準」と報じたため、2050年ではなく、2030年の目標と勘違いした人たちもいるようだ。

 政府内にさまざまな議論があることは想像に難くないが、今回の数値は、議論の出発点としても、野心に欠けるものであると言わざるを得ない。

 分科会では、基本となる発電電力量について、現在の1.3倍から1.5倍に増加し大体1,300TWhから1,500TWhを目安とした。これを前提に想定される自然エネルギーの発電量は、最小ケースで650TWh、最大ケースで900TWhである。原子力+CCS火力は、最小ケースで390TWh、最大ケースで600TWhとなる。

 この発電量から、どれだけの原子力+CCS火力発電が必要になるのか試算すると、1基1GWで70%の設備利用率として、2050年に64基から98基の発電所が必要となる。

 このうちどの程度をCCS火力で賄うのか不明だが、現在、世界を見渡しても、運転されているCCS付火力発電はカナダの120MWのみだ1。そして、原子力については、直近でも6%、大体60TWh程度の発電量にとどまっている。経済産業省の資料によっても、原則どおり40年運転とすれば、2050年には3基しか残らず、全てを60年運転するという極端な仮定をおいても、2060年には8基しか残らない。

 原子力+CCS火力発電で30-40%を供給するためには、2050年に64基から98基の原子力+CCS火力発電を確保しておくということが必要になり、大きな無理がある。新規の原子力建設や、CCSを付けた火力では、コストが急速に膨らむだけではなく、立地や社会的受容性の観点からも、かなり厳しい制約があり、到底現実的な数値ではない。

 一方で、自然エネルギーは、直近で20%をまかなっていることから、需要が増えたとしても、充分に実現が見込める程度の数値が選択されている。

 水素発電については、現在政府が進める化石燃料起源なのか(グレー水素、あるいはCCSを付けたブルー水素)、自然エネルギーで作るグリーン水素なのか明確ではないが、グリーン水素を想定した場合、自然エネルギーの割合は、さらに15-20%の上方修正が見込まれる。この点についても、しっかりと明らかにしていくべきだ。

 2050年の目標は、充分な時間をかけて議論されるべきであり、少なくとも、数度の議論で自然エネルギー50−60%、原子力+CCS火力30-40%をいきなり設定するのはあまりに乱暴だ。
 
2050年における各電源の整理(案)から予想される発電量と容量
2020年12月21日総合エネルギー調査会基本政策分科会・資料より自然エネルギー財団が数値化


 今回の議論に先立って、自然エネルギー財団は、基本政策分科会に招かれ、2050年のカーボンニュートラルを自然エネルギーで達成する研究成果を発表した。これは、1年にわたり、自然エネルギー研究で世界的に著名なフィンランドのラッペンランター大学とドイツのアゴラエナギーヴェンデと行った共同研究である。コスト最適化手法により、140以上の多種多様な技術を考慮し、コストの安いものから国・地域に合わせて選択していく、電力だけではないエネルギー全体を見渡した長期シナリオである。

 より詳しい概要については、ウェビナーでも紹介しており、追って来年早々本レポートも発表するので、中身についてはそちらをみていただきたいが、この研究は、2050年温室効果ガスネットゼロと1.5度目標を達成しながら、日本が、100%自然エネルギーのシステムへ移行していくことが充分に可能である事を指し示したものとなっている。

 分科会委員の方々からは、「自然エネルギー100%」と言っただけで実現不可能、という反応も見られたが、実は、自然エネルギーでカーボンニュートラルを実現するという研究は、すでに世界で数多くの実績がある。そして、研究だけではなく、自然エネルギー100%を目標として掲げる国や地域も存在している。

 こうした目標を、いつどのように達成するのか、スタディの設定や、国や地域によって多少の違いはあるが、大きな道筋は大体同じである。需要削減はもちろんだが、電力供給の主軸に自然エネルギーを置き、電力の脱炭素化を進める。同時に、熱や運輸分野を電化、セクター・インタグレーションを実施する。自然エネルギー電力の主軸は、太陽光や風力といった変動型自然エネルギーであり、これらを最大限利用していくために、送電網だけではなく、中期的には、蓄電池、そして長期的には自然エネルギーから作るグリーン水素やグリーン・サスティナブル合成燃料(グリーン水素と二酸化炭素で作る合成メタンなど)を活用していく。グリーン水素は、電化できない産業分野で大きな役割を果たす。さらに、DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)などの新しい技術も追及していく。

 これまで日本は、遅々として2030年の目標議論をやってきた。しかし10月26日の総理の「カーボンニュートラル宣言」以来、急速に2050年への道筋を固める必要性に迫られている。2030年は、2050年カーボンニュートラルを実現するための重要なマイルストーンである。わたしたちのスタディや諸外国の議論でも明らかとなってきたのは、この時までには、石炭火力からの排出を止め、自然エネルギー電力で少なくとも45%以上を供給しておく必要があるということだ。そして、福島の原発事故から10年を迎える日本の場合は、遅くとも2030年には脱原発を完了しておかなくてはならない。

 自然エネルギー100%のエネルギー転換の道筋は、石炭を早期にフェーズアウトさせ、自然エネルギーの導入を加速させることで、CO2排出を1.5℃シナリオに沿った形で促進するものだ。また石炭火力による大気汚染がなくなり、大気環境が大きく改善される。自然エネルギーを拡大していくことで、エネルギー自給率を飛躍的に高めることができ、化石燃料供給の不安から解放される。そして、エネルギー効率化と自然エネルギーの二本立てにより、日本全体のエネルギー総コストは現在よりも減少し、より地域に根差したエネルギー産業が生み出されていく。さらには、原子力を利用しないという大きな安全・安心が得られるものである。

 新しい未来に向けて、わたしたちの世代で方向性を明らかにしていくべきだ。
  • 12016年に運転開始されたテキサスの240MWのペトラ・ノヴァは、2020年5 月以降閉鎖中である


 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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