年頭コラム脱炭素の日本へ自然エネルギー100%の道を

大野 輝之 自然エネルギー財団 常務理事

2021年1月1日

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 2021年は、エネルギー政策の選択が問われる大切な年です。3月には、東日本全体が壊滅する可能性すらあった東京電力福島第一原子力発電所事故から10年の節目を迎えます。11月には気候危機の回避に向け2030年、そして2050年への戦略が問われるCOP26が開催されます。

 自然エネルギー財団は、脱炭素社会への日本の道を明らかにするため、一連の政策提案を行ってきました。昨年8月には、45%以上の自然エネルギー電力目標を含む2030年の「持続可能なエネルギーミックス」を提唱し、年末には、この水準の自然エネルギーを電力系統に統合し、安定的な電力供給を実現できることを、需給シミュレーションの結果を踏まえて示しました。

 また、12月には、「日本における2050自然エネルギー100%への経路(中間報告)」を公表しました。日本の豊富な自然エネルギーポテンシャルを活かし、広域送電網を強化するとともに電力貯蔵技術、需要管理を活用すれば、原子力発電と火力発電に頼ることなく、自然エネルギー100%の電力供給を実現することは十分に可能です。

 政府は、昨年10月末に2050年カーボンニュートラルを宣言し、年末には「グリーン成長戦略」を公表しています。政府の方針の中には、電力系統への自然エネルギー電源のノンファーム型接続の全国展開、2040年洋上風力を最大45GWにする目標の発表など、積極的な内容も含まれています。その反面、長らく続いた石炭火力と原子力発電への固執が、政策転換の方向を歪めた多くの弱点を含んでいます。

 2050年の自然エネルギー電力目標を50~60%にとどめ、30~40% を原子力発電とCCS(CO2の回収・貯留)付きの火力発電で供給するとしたのは、その代表的な事例です。原子力発電は既存の原子炉の全てを60年稼働させるという極端な仮定をおいても、2060年には必要な電力の5%程度しか供給できません。CCS付き火力発電は、過去20年余、世界各地で導入が試みられましたが、いま世界で稼働しているのは、カナダにある12万kWの小規模な火力発電所ただ1か所だけです。日本では回収する大量のCO2を貯留できる場所があるかどうかすら分かっていません。

 脱炭素化の時代に日本企業が世界でビジネスをリードするためには、自動車産業や鉄鋼業も含め、安価で大量の脱炭素電力とこれによって作られる水素燃料が必要です。その供給を実績のないCCS付き火力とこれから技術開発を開始するという小型原子力発電に依存しようとするのは、控えめに言ってもリスクの高い戦略と評価せざるを得ません。

 一方、多くの自治体が国に先行して2050年脱炭素化を目標に掲げ、意欲的な企業はRE100やSBT(科学に基づく目標)などに取り組んできました。注目すべきは、昨年、自然エネルギー協議会を構成する多くの道府県と政令指定都市、RE100やRE-Usersに参加する多様な企業が、2030年の自然エネルギー電力目標の40%以上への引き上げを提案し、全国知事会や経済同友会も同様の提案を発表していることです2030年目標を現在の22から24%の2倍程度に引き上げることは、今や多くの企業、自治体の共通の提案になっています。

 こうした動きは必ずや政府を動かし、日本の脱炭素戦略をより確かなものへと発展させていくでしょう。自然エネルギー財団は、今年も気候危機の回避に貢献し、二度と原子力発電事故による惨禍を経験することのない安全なエネルギーシステムへの転換をめざし、必要な政策提言を行い、企業、自治体との共同を進めていきます。引き続きご支援、ご協力をいただけることをお願いいたします。

<関連リンク>
[Webinar] 2030年エネルギーミックスはどうあるべきか 2050年実質排出ゼロを展望して(2020年12月18日)
 2030年エネルギーミックスへの提案-需給モデル・市場分析
 日本における2050自然エネルギー100%への経路(中間報告)
[連載コラム] 100%自然エネルギーの未来は実現できる。2050年脱炭素に向けて熟議を尽くせ(2020年12月23日)
[提言] 2030年エネルギーミックスへの提案(第1版):自然エネルギーを基盤とする日本へ(2020年8月6日)
[提言] 脱炭素社会へのエネルギー戦略の提案:2050年CO2排出ゼロの日本へ(2019年4月4日)

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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