自然エネルギーの出力抑制大きな改善の余地がある

ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団 上級研究員 / 大林ミカ 自然エネルギー財団 事業局長

2019年4月26日

in English

日本ではさまざまな理由で自然エネルギーが過度に出力抑制されている。しかし、抑制を減らして、経済や環境面の損失を抑えるための解決策は存在する。

 安価でクリーンな自然エネルギー(実質的に太陽光)の発電の出力抑制が、現在九州で頻繁に行われている。

 九州電力がまとめた2019年2月28日までのデータによればi、太陽光発電の最初の出力抑制は2018年10月13日に行われている。その後、およそ4カ月半の期間の16%にあたる22日間、実施されている。2018年11月4日正午には最大925メガワットの太陽光発電容量が抑制されている。これは、九州電力管内で再稼働している川内原発1号基や2号基の設備容量を超える数値である(図1)。
 

図1:九州における2018年11月4日の電力システム稼働状況
 
出典:自然エネルギー財団、九州電力のエリア需給実績(2019年4月8日にアクセス、日本語)に基づく。
 

 この日の九州の発電設備稼働状況をみると、火力(石炭、石油、ガス)と揚水発電所はある程度柔軟性を発揮しており、午前中は、太陽光の発電が増えるのに応じて火力発電所が出力を減らし、揚水発電所が貯水している。夕方は、太陽光の発電が減るのに応じて、火力発電所が出力を増やし、揚水発電所が放水している。こうした対応を行った上で、出力抑制は実施されている。

 太陽光の出力抑制は、経済や環境の観点から非効率なやり方である。理論的に限界費用がゼロに近く、二酸化炭素を排出しない太陽光発電を自発的に減らしつつ、限界費用の観点からより高価で汚染を伴う技術を優先してしまっているからだii

 火力や揚水が柔軟な運転を行っている一方で、原子力は一定の運転が行われている。九州では、原子力を優遇する「優先給電ルール」のために、自然エネルギーの出力抑制が誘発されている可能性が高い。日本の優先給電ルールでは、限界費用からみた経済的競争力は劣っているのに、原子力は優先的に給電され、太陽光と風力が抑制されたあとで出力抑制されることになっている(図2)。原子炉の出力調整が難しいと考えられていることが一つの原因のようだが、すでに海外では、こういった主張は技術的に疑問視される考え方になっている。フランスでは、フランス電力(EDF)が自然エネルギーの開発を促進するために弾力的に原子力発電を行っているiii
 

図2:日本の優先給電ルール
 

出典:自然エネルギー財団、資源エネルギー庁の再エネの発電量を抑える「出力制御」、より多くの再エネを導入するために―2018年9月7日(2019年4月8日にアクセス、日本語)に基づく。元となる考えは電力広域的運営推進機関の送配電等業務指針(2019年4月1日に改訂、日本語)。
 

 そして、2019年2月24日に、九州では、午前11時から午後3時までの4時間に一日前スポット市場価格が0.01円/kWhを割り込み(日本卸電力取引所のデータに基づくiv)、限界費用がゼロに近い電力が豊富にあったにもかかわらず、原子力の出力は抑制されず、数百MWの太陽光と風力が出力抑制されたのである。  

 九州で市場価格が0.01円/kWhまで落ち込んだ時に九州地方と中国地方の間で価格が収れんしなかったことは、もし両地域間に追加の送電容量があれば、より多くの自然エネルギーを導入でき、中国地方でも価格が低下し、比較的連系が良好な西日本の他の地域(例えば関西)にもその低価格が波及する可能性があったことを示唆している。

 まだ自然エネルギーの導入が大量に進んでいない現時点で、自然エネルギーの出力抑制が始まっている別の理由としては、発電所の運営の自動化が不足していること(九州では最近改善が進められている)や、地域間の需給バランスの調整不足なども指摘できる(広域的な需給調整市場は2021年度に導入される予定)。自動化と送電網の拡充には投資が必要だが、給電ルールの修正と地域間協力の改善は、ルールを変更することで対応可能だ。

 社会全体の福祉のために、自然エネルギーの出力抑制問題に直ちに対処すべきである。例えば、現行の優先給電ルールを変えて、特定の技術を優遇せずに、経済的配分の基本概念を最終的に優先する、公正でシンプルな市場を導入すれば、迅速に解決できる。   

 すでに欧州諸国や多くの国々で行われているように、政策やルールを変えていくことで、太陽光の出力抑制が劇的に減り、原子力と火力の弾力性を高めるインセンティブが生まれ、貯蔵や需要対応などの革新的な技術(原子力や火力による対応より本質的に弾力性のある技術)の開発が促進されるだろう。

 そして、日本では、この新しいシステムへの移行によって電気料金が下がり、温室効果ガスが減り、国全体のエネルギー自立性が強まり、経済と社会の効率化、持続可能性および回復力が高まるのである。
 

  • i    九州電力:エリア需給実績(2019年4月8日にアクセス、日本語)。
  • ii    FiT制度下で取引されている電気は、1キロワット時当たり約6~7円の「回避可能価格」に区分され、市場ではこの価格で買い取りがなされてきた。経済的配分の観点から太陽光の経済的根拠が弱められていたことになる。現在この状況は改善されてきており、今後は、太陽光はようやく経済的な優位性を獲得し、経済的な抑制が減るはずだと期待したい。
  • iii   フランス電力(EDF):自然エネルギーの開発を促進するための弾力的な原子力発電(2015年11月)。
  • iv   日本卸電力取引所:取引情報―スポット市場取引結果(2018年度)(2019年4月8日にアクセス)。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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