群馬県の東吾妻町(ひがしあがつままち)に、1910年(明治43年)に造られたロックフィル式のダムが残っている(写真1)。ダムのすぐ上の山中から、1日に3万トン(毎秒0.3立方メートル)にのぼる大量の水が年間を通じて湧き出る。古くから名水で知られる「箱島(はこしま)湧水」だ。以前は水力発電に利用していたが、1956年(昭和31年)に発電所が廃止になった。それから61年が経過した2017年6月に、同じ湧水を利用して「箱島湧水発電所」が復活した。
箱島湧水を利用した小水力発電のPFIでは、群馬県内の建設会社であるヤマトが公募で選ばれた。ヤマトが新たに設立したSPC(特別目的会社)が事業者になって、小水力発電事業を請け負う。東吾妻町は発電所の土地と湧水の水利使用権を群馬県から賃借する一方、SPCから発電事業の収益の一部を納付金として受け取るスキームである(図1)。群馬県に支払う年間61万円の賃貸料に対して、得られる納付金は年間で1200万円になり、町の収入増加に大きく貢献している。
ただし地域の住民から支持されることが、町役場が手がけるプロジェクトとしては重要な条件になる。山中にある取水口の周辺と違って、発電所は県道のすぐ近くにあり、周囲には数多くの民家が建っている。発電所の内部では水車発電機の回転する騒音が大きく、防音対策が欠かせない。
このため事業者の公募時に、騒音や景観を含めて環境に配慮して建設・運営することを要件に加えた。事業者は要件に従って発電所の建屋の内壁を防音材でカバーして騒音を抑え、さらに建屋の外壁をベージュ色に塗って景観になじむようにした(写真2)。運転を開始して1年以上が経過したが、周辺の住民からは発電所に対する苦情は出ていない。
東吾妻町が地域の貴重な自然エネルギーを活用した水力発電所を復活させ、長期に安定した収入を得られる事業を作り上げる過程をレポートにまとめた。
東吾妻町に年間1200万円の納付金が入る発電事業
このプロジェクトは地域の活性化を目指す東吾妻町役場が、民間企業の資金やノウハウを活用できるPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)で実現した。PFIでは自治体が公募を通じて選定した民間の事業者に、資金調達から設備の設計・建設・運営・維持管理までを全面的に委託する。自治体は初期投資の必要がなく、事業のリスクを負わずに収入を得ることができる。箱島湧水を利用した小水力発電のPFIでは、群馬県内の建設会社であるヤマトが公募で選ばれた。ヤマトが新たに設立したSPC(特別目的会社)が事業者になって、小水力発電事業を請け負う。東吾妻町は発電所の土地と湧水の水利使用権を群馬県から賃借する一方、SPCから発電事業の収益の一部を納付金として受け取るスキームである(図1)。群馬県に支払う年間61万円の賃貸料に対して、得られる納付金は年間で1200万円になり、町の収入増加に大きく貢献している。
発電所の周囲に民家が多く騒音・景観対策が不可欠
新たに建設した箱島湧水発電所は1日あたり3万トンの水量を生かして、最大出力170kW(キロワット)で発電できる設計になっている。年間の発電量は146万kWh(キロワット時)を見込み、一般家庭の400世帯分に相当する電力を供給できる。事業者のSPCは発電した電力を20年間にわたって固定価格買取制度で売電することにより、東吾妻町に納付金を支払ったうえで利益を確保できる計画だ。20年間の買取期間が終了した後も、東吾妻町は発電設備を所有して事業を続けることが可能で、再び民間の事業者に委託して運転を継続する方針である。ただし地域の住民から支持されることが、町役場が手がけるプロジェクトとしては重要な条件になる。山中にある取水口の周辺と違って、発電所は県道のすぐ近くにあり、周囲には数多くの民家が建っている。発電所の内部では水車発電機の回転する騒音が大きく、防音対策が欠かせない。
このため事業者の公募時に、騒音や景観を含めて環境に配慮して建設・運営することを要件に加えた。事業者は要件に従って発電所の建屋の内壁を防音材でカバーして騒音を抑え、さらに建屋の外壁をベージュ色に塗って景観になじむようにした(写真2)。運転を開始して1年以上が経過したが、周辺の住民からは発電所に対する苦情は出ていない。
東吾妻町が地域の貴重な自然エネルギーを活用した水力発電所を復活させ、長期に安定した収入を得られる事業を作り上げる過程をレポートにまとめた。