岩手県の北部に広がる高森(たかもり)高原は標高が600~700メートルあり、冬には西から強い風が吹きつける。年間の平均風速が6.7メートル/秒に達する風力発電の適地だ。公営の電気事業を担当する岩手県の企業局が2003年から風力発電所の建設計画に取りかかり、ようやく15年後の2018年1月1日に「高森高原風力発電所」の運転にこぎつけた(写真1)。
蓄電池を使う「出力変動緩和型」で接続許可
この風力発電所の建設計画が難航した理由は、東北電力が長年にわたって送電網に接続できる風力発電の規模を制限してきたことにある。東日本大震災が発生後の2012年になって、国が固定価格買取制度を開始したことに伴い制限が少し緩和された。東北電力は送電網に接続可能な風力発電の枠を拡大し、特に「出力変動緩和型風力発電所」の接続枠として15万kW(キロワット)あまりの発電容量を提示した。岩手県の企業局は以前から準備してきた事業計画をもとに、出力変動緩和型の機能を加えた風力発電所の建設計画を作り直した。1基あたり2300kWの大型風車11基を高原に展開するのと合わせて、約10キロメートル離れた東北電力の送電線まで自営の送電線を敷設する。さらに大量の蓄電池を収容した変電所を建設して、天候による風力発電の出力変動を緩和してから、東北電力の送電線に電力を供給する計画を策定した(図1)。
新たな設備構成で東北電力に接続を申し込んだところ、接続可能との回答を得て、念願の風力発電所の建設計画を進められることになった。出力が2万5300kWに達する風力発電所は、自治体による公営の風力発電所では国内最大の規模である。年間の発電量は岩手県内の電力需要の0.6%にあたり、一般家庭の使用量で約1万5000世帯分に相当する。
総事業費127億円を15年で回収する
風力発電所からの電力を受ける変電所の建屋の内部には、合計で5760個にのぼる鉛蓄電池が並んでいる(写真2)。鉛蓄電池は体積が大きくて重量がある半面、価格が安くて寿命が長い。敷地に余裕があって大容量の蓄電システムを必要とする場合に適している。
5760個の鉛蓄電池で構成する蓄電システムの最大出力は7500kWに達し、高森高原風力発電所の最大出力(2万5300kW)の約3割に相当する出力を調整できる。この蓄電システムを使って、風力発電の出力変動幅を20分間あたり10%(2530kW)以下に抑えることが技術要件として東北電力から求められている。
高森高原風力発電所の総事業費は約127億円にのぼる。発電設備と変電設備に93億円、蓄電システムに14億円、自営の送電線に7億7000万円かかった。一方で固定価格買取制度を通じた売電収入は年間に約11億円を見込める。毎年の運転維持費を加えても、15年で投資を回収できる見込みだ。出力変動緩和型の設備を建設しても採算がとれると判断した。
このほかにも、ドイツ製の大型風車の部材を約100キロメートル離れた太平洋沿岸の港から夜間にトレーラーで毎日のように輸送するなど、いくつかの難問をクリアして大規模な風力発電所を完成させた。環境アセスメントの結果や対策を含めて、公営による日本最大の風力発電所の開発経緯から各種設備の詳細までをレポートにまとめた。