2011年から自然エネルギーの導入を開始したAppleは、8年目の2018年に、全世界の事業活動で使用する電力を自然エネルギー100%に切り替えることができた。世界43カ国に展開するオフィス、店舗、データセンターの電力使用量を合計すると18億kWh(キロワット時)を超えている。それと同じ規模の電力を自然エネルギーで調達できる体制になった。もし標準的な電力を使い続けていたとしたら、CO2排出量は現在の10倍近い規模に拡大していた可能性がある。
環境負荷が小さい屋上設置型の太陽光発電を拡大
Appleが自然エネルギーを利用している典型的な例は、米国カリフォルニア州にある本社ビルである。広大な敷地に建設したドーナツ型のビルの屋上には、太陽光パネルが全面に設置されている(写真1)。発電規模は17MW(メガワット)に達する。さらにバイオガスを燃料に利用する出力4MWの燃料電池システムを導入した。大型の蓄電池も設置して、ビル内で消費する電力を自然エネルギー100%で供給できる体制になっている。

米国以外の地域でも、太陽光と風力を中心に自然エネルギーの導入量を増やしてきた。特に建物の屋上に設置する太陽光発電は環境負荷が小さい利点があり、世界各国で取り組んでいる。シンガポールでは市街地にある800以上のビルの屋上に太陽光発電設備を展開している(写真2)。日本でも発電事業者の第二電力と提携して、関東・中部・関西の大都市圏にある約300カ所のビルの屋上に太陽光発電設備を導入した。

自然エネルギーを導入する動きは、Appleの取引先にも広がる。Appleは世界各地のサプライヤー(製造パートナー)に対して、Apple向けの生産活動に自然エネルギーの電力を利用するように働きかけている。すでに部品メーカーなど23社が、自然エネルギー100%の電力を使って生産することを約束した。こうした取り組みに向けて、Appleはサプライヤーと共同で2020年までに400万キロワット以上の自然エネルギーの電力を導入する計画だ。
サプライヤーだけではなく、Appleの店舗が入居するテナントビルでも自然エネルギー100%の電力を利用する。日本では東京の都心にある「Apple新宿」や「Apple銀座」の電力が自然エネルギー100%に切り替わった(写真3)。自然エネルギーを推進するAppleの活動が日本の企業にも波及してきた。

Appleは自然エネルギーの調達にあたって明確な基準を設けている。環境負荷が低い発電方法であることに加えて、他社から電力を購入する場合には新しく建設した発電設備であることを重視する。既存の火力発電を自然エネルギーで代替することによって、気候変動の抑制につなげるためである。