世界各国でICT(情報通信技術)の大手企業が自然エネルギーの導入を積極的に推進する中で、日本を代表する富士通も2050年までに自然エネルギー100%に転換する目標を宣言した。すでに欧州を中心に海外の工場やオフィスで使用する電力のうち約30%が自然エネルギーに切り替わっている。今後は米国や中国・インドでも自然エネルギーの利用拡大を進める一方、エネルギーの消費量が最も多い日本国内ではICTを活用した省エネと合わせて自然エネルギーの利用率100%の達成を目指す。
データセンターの空調にAI(人工知能)を生かす
富士通は自然エネルギー100%を推進する国際イニシアチブ「RE100」に2018年7月に加盟した。その約1年前に中長期環境ビジョンの「Climate and Energy Vision」を発表している。パリ協定をふまえて、2050年までにグループのCO2排出量をゼロに削減する目標をビジョンの中で掲げた。この目標を達成するためには、CO2を排出しない自然エネルギーを100%使用することが前提になる。
2050年までを3つのフェーズに分けて、省エネを先行させながら、地域ごとの状況に合わせて再エネ(自然エネルギー)を拡大していくことが基本方針だ(図1)。富士通グループで使用するエネルギーの8割以上は電力である。工場の電力消費量が最も多く、次いでオフィス、さらに最近ではデータセンターの電力消費量が増えている。
データセンターでは大量のICT機器で構成する顧客の情報システムを運用している。インターネットの普及に伴ってデータセンターの事業が拡大し、ICT機器から出る熱によってデータセンターの空調に必要な電力量は増加傾向にある。今後も事業の拡大が期待されることから、CO2排出量の削減にはデータセンターの省エネ対策が重要になる。
富士通はデータセンターの中核機器であるサーバの冷却方法を従来の空冷から水冷に変えて消費電力を削減し、さらにデータセンター内部の温度を予測して空調を最適に制御できる仕組みを開発した。サーバや空調機などにセンサーを設置して、計測したデータをAI(人工知能)を使って分析する(図2)。本業のICTを駆使して空調の電力消費量を抑える試みである。
世界各地の事業で省エネを推進して電力消費量を抑制しながら、自然エネルギーの電力の利用量を増やして100%を達成させる計画だ。先行する海外の拠点では、欧州のイギリス・ドイツ・フィンランドでほぼ100%自然エネルギーに転換した。自然エネルギーの電力を調達しにくい地域では、自然エネルギー由来の証書を購入する方法も使って比率を引き上げていく。
残る課題は日本国内である。工場の屋上に太陽光発電システムを導入して電力の自家消費を増やす一方、全国各地にある小規模なオフィスを手始めに、小売電気事業者が販売する自然エネルギー100%のメニューに切り替えることを検討中だ。2030年代には自然エネルギーの調達コストが国内でも低下することを見込んで、2050年までに国内の全拠点に自然エネルギーの電力を導入してグループ全体の目標を達成させる。