小売店舗やクレジットカードなどを手がける丸井グループは、自然エネルギーの電力を増やしながら、環境負荷の低い事業の開発を進めている。地球環境と共存する「グリーンビジネス」を主体に、モノを売らない事業を拡大してCO2排出量を削減し、同時に収益性を高めていく計画だ。インターネットの普及によって世界中の小売業が構造転換を迫られる中で、将来を見越した循環型の経済(サーキュラーエコノミー)を先取りする戦略である。
2020年度には自然エネルギーの電力を50%に
丸井グループは2018年に、環境負荷の低減を目指す取り組みを相次いで開始した。温室効果ガスの削減目標を設定する「SBT」(Science-Based Targets、企業版2℃目標)の認定を受け、自然エネルギー100%を推進する国際イニシアチブ「RE100」にも加盟した。さらに100億円のグリーンボンド(環境債)を発行して、調達した資金で今後5年間のうちに自然エネルギーの電力を大幅に増やす。
グループ全体で使用する電力量は2016年度に2億kWh(キロワット時)にのぼったが、100%の目標を達成する2030年度までに省エネ対策を実施して15%削減する(図1)。その間に購入する電力を自然エネルギーに切り替えていく。2020年度までに全国26店舗のうち13店舗で自然エネルギーの電力を導入して、2030年度には全店舗で切り替えを完了する予定だ。グループ各社のオフィスや物流センターなども含めて、自然エネルギーの電力使用率100%を目指す。
最初に自然エネルギーの電力に切り替えたのは、東京・新宿にある旗艦店の「新宿マルイ 本館」である。地上8階・地下1階の店舗で使用する電力を2018年9月から、3つの県に分散する5カ所の発電所から調達する体制に変更した。青森県にある3カ所の風力発電所のほか、新潟県の小水力発電所と神奈川県のバイオマス発電所から電力の供給を受けている(図2)。
このうちバイオマス発電所は固定価格買取制度(FIT)の対象になっているため、購入した電力は自然エネルギーとして認められない。グリーン電力証書や非化石証書(再エネ指定)などを組み合わせれば自然エネルギーの電力とみなせるが、可能な限り証書を使わずにFITの対象外(非FIT)の電力を増やしていく方針だ。
新宿マルイ 本館では30分ごとの電力使用量に対して、各発電所からの供給量を最適に配分する仕組みになっている。インターネット上の仮想通貨で使われているブロックチェーンの技術を応用したもので、多数の発電所と利用者を結びつけて電力を取引できる。今後このシステムに参加する発電所が増えていくと、他の店舗でも同様の仕組みを使って自然エネルギーの電力を導入しやすくなる。
丸井グループは将来に向けてグリーンビジネスを推進するために2つの指標を設定した。1つ目の指標はCO2排出量あたりの営業利益(環境効率)、もう1つは循環型のサービスによる売上高(サーキュラーレベニュー)の比率である(図3)。2020年度にCO2排出量あたりの営業利益を2017年度比で1.5倍に向上させることが当面の目標だ。
この目標を達成できれば、グリーンビジネスの効果が明確になって、環境負荷の低い事業の拡大に弾みがつく。と同時にグループ全体のCO2排出量を大幅に削減できる。丸井グループは2050年に向けた長期ビジョンの中で、経営方針の柱に持続可能性(サステナビリティ)を掲げた。自然エネルギーの利用拡大を急ぐのも、持続可能性を重視する経営方針の表れである。