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太陽光で発電しながら日陰でキクラゲ生産
宮城県の農地2カ所をメガソーラーで再生

2018年7月23日

石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

 宮城県の北部にある2カ所の広大な農地を利用して、太陽光発電と農業を同じ土地で実施するソーラーシェアリング(営農型の太陽光発電)が2017年の夏から始まっている。太陽光発電の規模はそれぞれ2MW(メガワット)級で、農地に支柱を立てて2メートル以上の高さで太陽光パネルを設置した。太陽光パネルの下には、キクラゲを栽培する棚が整然と並び、5月から10月にかけて成長・収穫を繰り返す。以前は農作物を作れなかった農地がソーラーシェアリングによって新たな収入を生み出している。

日射を嫌うキクラゲは太陽光発電に適している

 ソーラーシェアリングでキクラゲを栽培している太陽光発電所は、宮城県の登米市(とめし)と加美町(かみまち)にある(写真1)。古くから農業が盛んな地域だが、最近は農作物を生産しない耕作放棄地が増えている。米の需要減少と農家の高齢化が大きな要因だ。地域の農業の活性化を目指して、自然エネルギー分野のベンチャー企業がソーラーシェアリングに取り組んでいる。

写真1 ソーラーシェアリングを実施中の「登米善王寺太陽光発電所」(左)と「加美八幡堂太陽光発電所」(右)の上空から見た全景。出典:サステナジー

 キクラゲは日射を嫌うため、太陽光パネルの下で栽培するのに適している(写真2)。一般的にソーラーシェアリングでは農地にも一定量の太陽光が届くように、細長い太陽光パネルを設置する場合が多い。その点でキクラゲは日射を必要としないため、通常の大きさの太陽光パネルを利用できるメリットがある。むしろ太陽光パネルで日陰を作ることが重要で、パネルの間隔を空けないほうが望ましい。

写真2 太陽光パネルの下の栽培棚に3段で並べたキクラゲの菌床

農地の一時転用許可を取得するまでに6カ月かかる

 現在のところ太陽光発電は順調だが、キクラゲの生産・販売では苦労が続いている。キクラゲは四角いパッケージに菌や栄養体を詰め込んだ「菌床(きんしょう)」で栽培する。菌からキクラゲを成長させるためには、25℃前後の温度と90%以上の湿度を維持する必要がある。生産担当者は菌床の状態を毎日チェックして、必要に応じて棚の前面のカーテンを上げ下げし、散水装置で水を補給しなくてはならない。ハウスで栽培する方法と違って、外気にふれる農地でキクラゲを栽培するのは手間がかかる。

 菌床で成長したキクラゲは、20日程度で収穫できる状態になる(写真3)。現在は2カ所の太陽光発電所を合わせて約1万個の菌床でキクラゲを栽培している。成長した大量のキクラゲをひとつずつ根元から切り取っていく作業にも根気がいる。登米市の発電所では地元の農業法人の若手社員1人が常駐して栽培・収穫にあたり、加美町の発電所では高齢者10人が交代で作業する。営農に必要な人員を確保できることもソーラーシェアリングには欠かせない。

写真3 収穫直前のキクラゲ。出典:サステナジー

 このプロジェクトを推進したのは、ベンチャー企業の新入社員だ。農地で太陽光発電を実施するためには、地域の農業委員会から一時転用の許可を取得しなくてはならない。申請にあたって、太陽光パネルの下で栽培する農作物の生産計画を策定する必要がある。前例のない状況でキクラゲの生産計画を作りながら、6カ月間かけて一時転用の許可を取得して、2カ所の太陽光発電所の建設にこぎつけた。

 キクラゲを生産する国内初のソーラーシェアリングに挑んだ経緯から、発電・栽培設備の詳細、キクラゲの生産・販売の現状までをレポートにまとめた。

自然エネルギー活用レポート No.16
太陽光で発電しながら日陰でキクラゲ生産
宮城県の農地2カ所をメガソーラーで再生

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