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小水力発電が村民の力で54年ぶりに復活
奈良県・東吉野村で105メートルの落差を生かす

2018年6月21日

小水力発電が村民の力で54年ぶりに復活
奈良県・東吉野村で105メートルの落差を生かす

石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

 美しいスギ林に囲まれた奈良県の東吉野村で、川のほとりにある新しい小水力発電所が県内の利用者に電力を供給している。その隣には大正時代に造られた古い小水力発電所が54年前の1963年まで運転を続けていた。このところの人口減少に悩む東吉野村を活性化させるため、村民が中心になって小水力発電所の復活に挑んだ。

毎秒100リットルの水で82kWの電力を供給

 新生「つくばね発電所」は2017年7月に運転を開始した(写真1)。川の上流から取り込んだ水を約1.4キロメートルにわたって導水路で運び、発電所の上方から105メートルの落差で流して発電する。スギ林の上から発電所まで黒い管が延びていて、その中を毎秒100リットル(0.1立方メートル/秒)の水が流れてくる仕掛けだ。

写真1 「つくばね発電所」の全景。右が発電所の建屋。後方の黒い管を水が流れてくる

 この水量と落差で82kW(キロワット)の電力を生み出すことができる。年間の発電量は62万4000kWh(キロワット時)を想定している。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して173世帯分に相当する。発電所の建屋の内部では、赤い色の水車と発電機が回転して電力を作り続ける(写真2)。小水力発電が盛んなチェコ製の装置だ。少ない水量でも効率よく回転するクロスフロー型の水車を内蔵している。

写真2 赤い装置の左が水車、右が発電機。水車の後ろの黒い管から水を送り込む

 発電した電力は固定価格買取制度で売却して、買取期間の20年間の合計で4億3000万円の収入を見込む。計画どおりに発電を続ければ、17年間で投資を回収できる。今後は発電所の周辺にキャンプ場などを整備して、村を訪れた観光客が山と川の生活を楽しみながら、自然エネルギーについて学べる場を提供する予定だ。

険しい山の斜面を造成する難工事で費用が増大

 つくばね発電所を運営する「東吉野水力発電」は、村民の森田康照氏が生活協同組合の「ならコープグループ」の支援を受けて設立した。森田氏は関西電力に35年間勤務した後に、東吉野村の村会議員を16年間務めて、村が抱える問題に取り組んできた。林業で栄えた東吉野村が人口減少を続ける中で、「村の資源である水を利用して、再び村を活性化させたい」との思いから、小水力発電所の建設を決意した。

 川のほとりにあった昔の小水力発電所の復活を目指して、上流の取水口からスギ林の中を通る導水路、山の上方から発電所に水を送り込む水圧管路や建屋の場所まで、以前とほぼ同じところを選んだ。しかし導水路を設置するスギ林の中は急斜面の連続で、重機を使って工事できない箇所が数多くあった(写真3)。

写真3 導水路の設置工事。急斜面の工事は難航した。出典:東吉野水力発電

 それに加えて、当初計画した開口型の導水路から地下にパイプを埋設する方式に変更しなくてはならず、工期の遅延と工事費の増大を招いた。さらに山林の所有者から最終的な合意を得るのに時間がかかり、9カ月を予定していた工期は2年1カ月に延びてしまった。ようやく完成して運転を開始した後も、秋には台風に見舞われて11日間に及ぶ稼働停止を余儀なくされた。

 それでも資金調達にインターネットを使った新しい手法を導入するなど、プロジェクトを推進するメンバーのアイデアと努力で小水力発電事業は軌道に乗った。万一に備えて加入した損害保険のおかげで、台風による稼働停止期間の売上もカバーできた。山深い村に新たな収入と産業をもたらす小水力発電の開発過程から設備の詳細までをレポートにまとめた。

自然エネルギー活用レポート No.15
小水力発電が村民の力で54年ぶりに復活:奈良県・東吉野村で105メートルの落差を生かす

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