開催中のCOP28において、「2030年までに世界の自然エネルギー設備容量を3倍にし、エネルギー効率の改善率を2倍にする」という誓約に120か国以上が賛同した。日本も岸田総理が現地でのスピーチの中でこの目標への賛同を表明している。誓約への大きな賛同は、1.5℃目標の実現に自然エネルギー拡大とエネルギー効率化が決定的に重要だという世界の共通認識を示している。
これに対し、自然エネルギー拡大に関して、日本の政府関係者の反応として報道されているのは、「誓約は世界の目標であって日本の目標ではない」というものばかりである。この誓約への賛同が直ちに各国での3倍化をコミットしたものではないことは事実だ。しかし、日本の自然エネルギーの現状を直視すれば、誓約への賛同を機にいま強調すべきなのは、1.5℃目標の実現に向け、自然エネルギー導入を加速する抜本的な対策強化の必要性ではないか。
2035年60%削減へ自然エネルギー80%以上が必要
日本が議長を務めた5月のG7サミットでは、IPCCの第6次報告書が提起した2035年までのGHG60%削減の緊急性を受け止め、1.5℃目標の実現をめざし「2035年までに電力部門を完全にまたは大部分を脱炭素化する」という合意を再確認している。自然エネルギー財団は、4月の提言で日本において60%削減を実現するためには、2035年に電力の80%以上を自然エネルギー電源に変える必要があることを明らかにした1。そのために必要な設備容量は太陽光発電、風力発電など全ての自然エネルギー電源を合計して375GW以上であり、これは2021年度比で3倍を上回る。
すなわち、1.5℃目標の実現のため、自然エネルギー設備容量を3倍にすることは、2030年までではないとしても、2035年よりも前に日本でも一刻も早く実現が必要な目標なのである。
世界に遅れる日本の太陽光発電と風力発電拡大のテンポ
岸田総理はCOP28でのスピーチの中で「我々には、太陽光の導入量が世界第3位となる実績がある」と誇っている。2022年末で第3位であることは事実だが、2022年中の増加量は日本では6.5GWであったのに対し、1位の中国は106GWという桁違いの大きさである。2位の米国も18.6GWと日本の3倍近い。4位のインドも18.1GWであり日本に変わって早晩第3位になる可能性が高い。これに続く、ドイツ、スペイン、ブラジルも年間増加量は日本を上回っている2。
太陽光発電とともに世界の自然エネルギー拡大をけん引している風力発電については、2022年末の時点で、中国の365GW、米国144GW、ドイツ67GWのトップ3に続き、インド、英国、スペイン、ブラジル、フランスなどの国々が20GW以上を導入している。日本は5GWにも達していない3。
ポテンシャルは十分に存在する
自然エネルギー3倍化誓約が公表された後のテレビ番組で、伊藤信太郎環境大臣は「(日本では)必ずしも3倍にできる容量があるとは考えていない」と発言したと報じられている。しかし、環境省が公表しているポテンシャル調査では、導入ポテンシャルは4174GWに達している。現時点での事業性を考慮しても347~1046GW4としており、これだけでも現在の導入量の3~10倍である。ポテンシャルは十分に存在する。
アンモニア混焼も含め石炭火力への固執をやめるべき
いま、日本以外のG7各国など先進国がめざしているのは、2035年には全電源を脱炭素化することである。COP28で米国も石炭火力発電の廃絶をめざす脱石炭連盟(PPCA)への参加を表明した。岸田総理はスピーチの中で、「排出削減対策の講じられていない新規の国内石炭火力発電所の建設を終了していく」ことを表明した。しかし2011年の東日本大震災後、発表された多くの石炭火力新設プロジェクトは、全てが建設完了・建設中か、あるいは計画中止になっている。今の時点での新規石炭火力の建設終了方針に、何らかの実践的な意味を見出すことは難しい。今、問われているのは既存の石炭火力も含めたフェーズアウトであるのに、岸田総理のスピーチはこの点に何も触れていない。
岸田政権は石炭アンモニア混焼発電を推進している。IPCCの第6次報告書では「排出削減対策が講じられている」と認められるのは90%以上の削減を行う場合とされており5、石炭火力にアンモニアを20%、あるいは50%混焼しても、対策のされていない(unabated)石炭火力としてフェーズアウトの対象であることに変わりはない6。G7でPPCAに参加していないのは、日本だけになった。現在のエネルギー基本計画は2030年でも電力の 19%程度を石炭火力で供給するとしている。アンモニア混焼も含め早急に石炭火力への固執を改め、自然エネルギー電源の拡大を加速するべきである。
日本でもアジアでも自然エネルギー拡大に全力投球を
日本にも、そして岸田総理が推進するアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想の対象とする東南アジアにも、政府の主張とは異なり、豊富な自然エネルギーポテンシャルがある7。いま政府に求められるのは、国内においては、太陽光発電、風力発電をはじめ自然エネルギー電源の早期3倍化実現のため、必要な規制改革を行い支援策を強化することであり、送電網の増強を加速することである。東南アジアに対しては、石炭アンモニア混焼、CCS付き火力発電などの偽りの脱炭素技術の売り込みを中止し、自然エネルギー拡大への支援を強化することである。
これこそが岸田総理がCOPでのスピーチの最後に語った「共に脱炭素と経済成長を実現」する道だ。