公益財団法人 自然エネルギー財団は、この度、「Renewable Pathways:脱炭素の日本への自然エネルギー100%戦略」を公表しました。(2021年6月28日改訂)
Renewable Pathways
脱炭素の日本への自然エネルギー100%戦略(改訂版)
本レポートは、ドイツのシンクタンク、アゴラ・エナギーヴェンデ、およびフィンランドのラッペンランタ工科大学と行った共同研究 "Renewable Pathways to Climate-neutral Japan: Reaching Zero Emissions by 2050 in the Japanese Energy System" を土台にしており、本日、同時に公表しています。
2050年まであと30年。脱炭素社会へのエネルギー転換は、「可能かどうか」の議論をする段階はとうに過ぎており、どう実現するか、明確な戦略を選択し、行動に移すことが求められています。本レポートが、日本が脱炭素社会を実現するための議論を活性化する一助となることを期待しています。
主な内容
① 太陽光発電についても風力発電についても、国内には大きな開発ポテンシャルが存在することが既存調査によって明らかになっており、コスト低下にともない大量の供給が可能になる。共同研究の結果では、2050年には太陽光発電が524GW、風力発電が陸上・洋上の合計で151GW導入され、他の自然エネルギー電源とあわせ、電力は100%自然エネルギーにより供給される。
北海道や東北の豊かな自然エネルギー資源を活用するため、北海道から本州への直流の連系線を17GW新設するなど、送電網の増強が必要になる。② エネルギー需要は、人口減少(2050までに2017年比20%減)の影響を考慮するとともに、需要側の省エネルギー化により2020年~2050年で35%削減すると想定した。共同研究におけるモデル計算の結果では、この上にヒートポンプやEVなど、電力をベースとしたエネルギー効率の高い技術が導入され、サービスレベルを落とさずにさらにエネルギー効率が上がる。電力システム全体の効率化効果も加わり、総一次エネルギー需要は2020年比で54%削減される。
③ 高温の熱利用など、電化が困難な需要については、グリーン水素やグリーン合成燃料が活用されていく。これらのグリーン燃料は、製造過程でも二酸化炭素を排出しない、自然エネルギー電力によって製造され、供給される。全量を国内で製造することは可能だが、コスト的には一定量の輸入にメリットがある。共同研究のシナリオでは、グリーン水素の約50%を海外から輸入するケースが経済性も高いことが明らかになり、このケースを財団の戦略としている。
④ グリーン水素やグリーン合成燃料は、大量の自然エネルギー電力をもとに製造するため、輸入する場合も含め、コストは電力より高くなる。従って、電化の可能性を最大限に追求することや、サーキュラー・エコノミーへの移行を進めることで、鉄鋼などの素材需要を削減し、限定的な使用にとどめることが重要である。
⑤ 火力発電、原子力発電は、2035年以降、コスト効果からみて積極的に使用していく経済的合理性に乏しくなる。CCSを用いる火力発電は更にコストの高い電源になることに加え、回収されたCO2の貯留地の確保は極めて困難である。また2060年に原子力発電が供給できるのは、全原子炉の再稼働と60年への運転延長、高い設備利用率の維持などを想定しても、必要な電力量のせいぜい4~5%にしかならない。日本の脱炭素化をこれらの技術に依存して実現する戦略は非現実的なものと言わざるを得ない。
⑥ 以上のように、日本では、自然エネルギー電力、電化、エネルギー効率化、グリーン水素、グリーン合成燃料の活用で、脱炭素社会へのエネルギー転換を実現することができる。この場合の2050年の総エネルギーコストは、化石燃料輸入費の削減、エネルギー効率化の進展、自然エネルギーコストの低下などにより、2020年より29%低下する。またエネルギー自給率は、現在の12%から68%へと大きく改善される。
エネルギー起源CO2排出は実質ゼロとなり、エネルギー起源以外の排出量を吸収量以下に抑えればGHG排出のネットゼロが実現できる。
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