転機を迎える「非化石証書」国際的な基準に合わせた改正を

石田 雅也 自然エネルギー財団 研究局長

2026年6月24日

 電力の環境価値(二酸化炭素=CO2=を排出しないなどの価値)を証明して取引する「非化石証書」の制度が始まったのは2017年度のことで(実際の取引開始は2018年5月)、いよいよ10年目を迎える。この間に企業が自然エネルギーの電力の利用拡大を進めるうえで重要な役割を果たしてきた。しかし非化石証書の制度は当初から、いくつかの問題点を含んでいて、その多くを解消できていない。さらに新たな問題として、企業がCO2排出量を算定するために適用する国際的な基準「GHGプロトコル」の改定案によると、非化石証書を排出削減に利用できなくなる可能性が出てきた。世界の産業界全体が脱炭素に向かう中で、国内の電力調達に影響を与える非化石証書の制度を根本的に見直す時期が迫っている。

課題1:「FIT非化石証書」の売れ残りが続く

 非化石証書には「FIT非化石証書」と「非FIT非化石証書」の2種類がある。このうち最初に取引が始まったのは「FIT非化石証書」である。固定価格買取制度(FIT)のもとで買い取った電力の環境価値を国が販売する制度として2017年度に開始した。当初は取引の最低価格が1.3円/kWh(キロワット時)と高めだったことに加えて、証書を利用する方法が広く認識されていなかったために、取引量(市場における約定量)は少なかった。2021年度に最低価格を0.3円/kWhに引き下げたことで、取引量が増え始めた。その後は急速に拡大して、2025年度には年間で731億kWhにのぼるFIT非化石証書が取引されるまでになった(図1)。とはいえ証書の発行量に対する取引量の比率は53%にとどまり、依然として半分近い証書が売れ残っている。非化石証書の制度では、売れ残った証書を翌年度に取引することはできない(売れ残った証書のCO2排出削減量を小売電気事業者に分配して処理)。

図1 「FIT非化石証書」の発行量と取引量の推移
出典:日本卸電力取引所の公表データをもとに作成

 FIT非化石証書の取引量は2021年度からほぼ倍増のペースで伸びてきた。このペースで増え続けると、早ければ2027年度にも需要が発行量を上回る可能性があった。しかし2025年度は前年度から21%の増加にとどまり、当面は証書が不足する心配はなくなった。FIT非化石証書の取引量がさほど伸びなくなった要因は、いくつか考えられる。1つは証書を利用した自然エネルギーの電力調達方法に対する懸念だ。FIT非化石証書は火力発電を主体にした通常の電力と組み合わせて使うことが多く、国全体のCO2排出量を削減する効果は小さい。最近は太陽光を中心に自然エネルギーの発電設備の電力を固定価格で長期に購入するコーポレートPPA(電力購入契約)を締結する企業が増えてきた。自然エネルギーの電力を増やしてCO2排出削減に貢献できることに加えて、化石燃料の価格変動の影響を受けにくいメリットがある。これまでFIT非化石証書を購入していた企業がコーポレートPPAへ移行を進めている。

 もう1つの理由は、証書の取引方法に自由度がなく、自然エネルギーの電力を調達する企業にとって利便性が低いことである。FIT非化石証書は日本卸電力取引所が年に4回開催する入札で購入しなくてはならない。海外の主要な証書がオンラインシステムなどで日常的に購入できるのと比べると、融通がきかない制度になっている。このほかにも、証書の信頼性に欠かせないトラッキング(追跡)の機能が十分ではない点がある。電力の環境価値を証明する証書では、二重発行・二重使用を防止するために、発電時に属性情報(発電設備の所在地などに関する情報)を含む形で発行して、取引から償却(使用済み処理)までを追跡できることが基本的な要件になっている。海外の証書は発行時の属性情報をもとに、証書の価格を決めて取引できる。非化石証書は発電時に属性情報を含まない状態で発行・取引する。トラッキングに必要な属性情報は取引完了後に付与する仕組みだ。取引の時点で属性情報を確認できないため、企業が電力の調達で重視する条件(発電方法など)によって証書の価格を決めて購入することはできない。

課題2:「非FIT非化石証書」の市場取引が低迷

 もう一方の「非FIT非化石証書」の問題も根深い。FIT非化石証書と違って、入札による市場取引のほかに、事業者間の相対取引が可能になっている。実際の取引は相対が多く、市場経由は全体の1割以下にとどまる。非FIT非化石証書の大半は大型の水力発電と原子力発電の電力による。主な発電事業者は電力会社(旧一般電気事業者)と電源開発(J-POWER)であり、各社の事情によって市場に出てくる証書の量が変動する。大型水力を主体にした「再エネ指定」、原子力を主体にした「再エネ指定なし」に分けて取引するが、いずれも毎年度の取引量が安定していない(図2)。2025年度の市場を通じた取引量は、FIT非化石証書の1割にも満たない低い水準だ。

図2 「非FIT非化石証書」の取引量の推移(市場取引分)
出典:日本卸電力取引所の公表データをもとに作成

 非化石証書が抱える問題の原点は、制度を開始した当初の目的にある。海外の証書のように電力の環境価値を証明・取引する目的で始まったものではない。大手の小売電気事業者に対してCO2を排出しない非化石の電力の販売比率を高めるように定めた「エネルギー供給構造高度化法(略称:高度化法)」のための制度として導入した経緯がある。非化石の電力の販売比率が低い事業者が目標を達成できるように、不足分を証書で補充できるようにすることが目的だった。特定の事業者間で証書を取引することから、トラッキングの機能を組み込む必要性が低かった。現在でも取引を完了した後でなければトラッキングできない仕組みになっている。加えて高度化法の観点から、非FIT非化石証書は小売電気事業者しか購入できない制限がある(需要家が発電事業者と環境価値だけを相対取引するバーチャルPPAは例外扱い)。企業や事業者にとって自由度の高い証書に改善できるように、高度化法にとらわれることなく、国際的な基準に合わせて非化石証書の制度を再構築することが求められる。 

課題3:GHGプロトコルの改定が非化石証書に影響も

 CO2の排出量を算定する国際的な基準であるGHGプロトコルの大幅な改定の検討が進んでいる。改定案の中には、国の補助金を受けて発電した電力を国全体の共有として扱う規定が入っている。日本ではFITで買い取った電力が該当する可能性がある。この改定が盛り込まれると、FIT非化石証書を購入しても、GHGプロトコルに基づくCO2排出量の算定に利用できなくなる。企業の気候変動対策を評価する「CDP」、排出削減目標を設定する「SBT」をはじめ、CO2排出量の報告を求めるさまざまな制度に影響が及ぶ。

 GHGプロトコルの改定案は2027年末に確定して、2030年以降の排出量の算定に適用することが想定されている。改定の内容によって、FIT非化石証書を見直す必要が出てくる。海外でFITを導入している国では、FITの環境価値だけを別の証書として取り扱っていない。非化石証書もFITと非FITに分けて発行・取引する必然性はない。高度化法と関連づけなければ、証書の中の属性情報の1つとして、FITの認定を受けた電力かどうかを示せば判別できる。証書を購入する企業や事業者が、属性情報をもとにFITか非FITかを選択できるようにするほうが効率的だ。

2030年代に向けて抜本的な改正が不可欠

 さまざまな課題を抱える非化石証書の制度の見直しが急がれる。GHGプロトコルの改定が見込まれる2030年度までに新しい制度へ移行できるように、早めに検討を開始する必要がある。改正のポイントは主に3つある。第1に、海外の証書と同様にトラッキングを前提にした制度に改める。第2に、オンラインシステムを通じて日常的に取引できる仕組みを整備する。FIT非化石証書と非FIT非化石証書を統合したうえで、一般の企業が購入できるようにする。合わせて取引価格の制限も撤廃する。第3に、証書の有効期間が年度単位に限られている点を修正する。現在の制度では、非化石証書の対象になる電力の発電期間(年単位)と証書の有効期間(年度単位)に3カ月のずれがあるために、発電期間と証書を利用する期間を合わせることがむずかしい。証書の有効期間を合計15カ月(発電した年の1月~翌年3月)に変更すれば、期ずれの問題を解消できる。以上の3つの点に関して、非化石証書は海外の主要な証書と比べて違いがある(表1)。特に海外から日本に参入している企業から見ると、使いにくい点が多い。

表1 海外の主要な証書と非化石証書の概要
TWh:テラワット時(=10億キロワット時) Green-e:証書の情報をもとに自然エネルギーの電力を認定する民間のプログラム

 今後は発電と電力の使用時間を一致させる「アワリーマッチング(Hourly Matching)」の必要性が高まってくる。化石燃料による電力の使用を時間単位で制限して、国や地域全体でCO2排出量を削減することが目的だ。GHGプロトコルの改定案で重要な論点になっているほか、SBTの新基準(2027年2月1日に適用開始)では年間の電力使用量が1000万kWh以上の企業に対して時間単位の電力の使用状況の算定・報告を求める。アワリーマッチングを証書で確認するためには、発電した時間の情報を証書に加える必要がある。現在のところ、海外の主要な証書は発電した日の情報を含んでいるが、時間の情報までは扱うことができない。非化石証書の見直しにあたって、発電時間の情報を加えた形に改善すれば、将来に向けてアワリーマッチングにも対応できる先進的な証書に生まれ変わる。企業が化石燃料による電力を可能な限り排除して、日本全体のCO2排出削減を促進する有効な施策になる。
 

<関連資料>
電力証書が自然エネルギーを増やす:日本と海外で隔たる制度(2022年4月)
電力調達ガイドブック第9版(2026年版):自然エネルギーの電力を増やす企業・自治体向け(2026年1月)
コーポレートPPA:日本の最新動向 2026年版(2026年3月)

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织