政府がCCS付き火力とともに推進してる水素およびアンモニア発電は、現実的な脱炭素電源になるのだろうか。
まず水素は、グリーン水素のエネルギー源である自然エネルギー電力や、グレー水素やブルー水素の原料となる天然ガスに比べ、エネルギー変換ロスと製造設備によるコストアップが避けられない。そのため、水素は電化では対応できない一部の産業用や、素材として使わざるを得ない化学合成、船舶や航空機などの長距離輸送用燃料1として、必要最小限の利用とすべきエネルギー媒体である。
また、アンモニアは水素と空気中の窒素を用いて合成されるため、原料となる水素よりも更に高コストになり、熱量あたりのCO2排出量は高いものとなる2。一方、水素より船舶による大量輸送を行いやすく、また水素よりも燃やしやすい3というメリットがあり、燃料として燃焼するという用途が有望とされる。政府は大量輸送のサプライチェーン構築によるコストダウンを目指し、燃料として大量に使用される発電分野を有望視しており、長期脱炭素電源オークションは、その一環と位置付けられる。
この水素や、派生物であるアンモニアを火力発電用に大量に利用することは、電力の高コスト化につながるだけでなく、エネルギー変換としてもロスの大きいものとなってしまう。すでに、2023年と2024年に実施された長期脱炭素電源オークションでは、その懸念が現実のものとなっており、2025年度に実施される第3回のオークションでは、その募集量を確保するために上限価格を引き上げるなどの制度変更が実施されようとしている。ここでは、その現状と課題について述べる。
1. 長期脱炭素電源オークションの現状
オークションは2023年と2024年にそれぞれ1回ずつ計2回行われ、現在第3回に向けた準備が進められている。初回は、脱炭素電源全体では募集量以上の応札があったものの、LNG火力では応札量が募集量に満たず、全量が約定となっている。また、水素とアンモニアを対象とした既設火力の改修でも、応札量が募集量に満たず、全量が約定となった。その落札容量は、100万kWの募集に対し、82.6万kWと未達となった。
第2回でも、第1回と同じく100万kWが募集量とされたが、応札は1件のみで、落札容量は9.5万kWと約10分の1に満たなかった4。またLNG火力についても、224万kWの募集に対し、応札量は131.5万kWと約半分にとどまり、全量が落札された。
これらの結果を受け、第3回オークションに向けた制度の見直しが行われている。特に、応札を増やすには価格面での見直しが必要ということで、上限価格の引き上げに加え、燃料費等の可変費の算入や、インフレや金利変動に応じた補正が可能な制度となる見込みである5(表1)。
表1 既設火力の改修案件(水素およびアンモニア混焼するための改修)の募集条件の変化
2. 水素およびアンモニア発電の課題
オークションでは、応札時に2050年までの脱炭素化ロードマップの提出が求められ、2050年までの脱炭素化への道筋などが確認される。
ただ、このロードマップでは混焼する水素とアンモニアに絞って記載されているため、減らすべきベースとなる化石燃料の使用量が見えにくい。さらに、2050年の脱炭素化が求められているものの、長期脱炭素電源オークションのガイドライン(案)6に示された専焼の条件には、「定格出力で90%以上を水素またはアンモニア燃料で発電できる案件を含む」と記載されており、10%までのLNG燃焼が可能な条件となっている。
これらを考慮し、第1回オークションの落札事業者の脱炭素化ロードマップをもとに、混焼する水素やアンモニアだけでなく、残りの化石燃料を加えて運転開始順に並べたものを図1と図2に示す。これにより、現在使用されている石炭やLNGが、どのようなタイミングで減っていくかが明確になり以下に示す課題も明らかになった。
図1 第1回オークションにおける脱炭素火力(水素、アンモニア混焼)落札者の脱炭素化ロードマップ
脱炭素化ロードマップ(2025/3/26)をもとに自然エネルギー財団作成
図2 第1回オークションにおけるLNG火力落札者の脱炭素化ロードマップ
脱炭素化ロードマップ(2025/3/26)をもとに自然エネルギー財団作成
1) CO2排出量の多い、石炭火力の運転が継続される
水素とアンモニア混焼6件のロードマップでは、5件がアンモニアで、石炭火力既存設備の改修である(図1)。応札では混焼率20%の設備改修を行う案件のため、発電所全体は落札容量の5倍の規模であり、混焼されるアンモニア以外は石炭が燃焼される。20%から混焼を開始し、50%混焼を経て、あるいは直接、2040年代での専焼への転換が計画されている。つまり、2040年代半ばから後半まで、石炭が使用され続けることがわかる。
途中で50%混焼が実現したとしても、現在運転されているLNG火力に比べ、GHG排出量は37%多い7。LNG火力と同程度のGHG排出量にするための混焼率は82%であり、その実現は2035年以降の見込みである8。それまでの今後10年以上は、混焼でもLNG火力発電を上回るGHG排出量を排出し続ける存在になる。
また、ここで注意すべきは、アンモニア専焼に対しては、第7次エネルギー基本計画策定のもととなった発電コスト検証ワーキンググループで 「専焼については、石炭ボイラーの燃焼器の転換ではなく、LNGガスタービンの燃焼器の転換により実現が目指されている9」 として、ガスタービン発電が想定されていることである。つまり専焼発電には混焼発電とは別の技術が必要であり、別の設備が必要になるのである。その結果、20%混焼の実証試験が行われ、混焼率アップと実用運転を目指している石炭へのアンモニア混焼技術は、早ければ2040年代の早期に、遅くても2050年前には不要になるということである。
2050年には不要となる技術に多額の研究開発資源(予算と技術者、時間)を投じ、石炭火力発電所の延命を図るよりも、将来必要となる技術開発に集中し、その実現を前倒しすることこそ、企業の国際競争力を高め、国としての税収増につながる近道ではないか。今の日本には、将来不要となる技術開発に貴重な予算と技術者を投じる余裕はないはずである。
2) 2050年時点でもLNGが使用され続ける
図2は、2023年度に落札されたLNG火力発電10件の脱炭素化ロードマップに、混焼されるLNGを加えたものである。LNG火力は、脱炭素電源である水素・アンモニア混焼のための既設火力の改修案件と比較して10募集量と落札量ともに大きく、混焼運転が開始されるまでの5年から15年間は、LNG専焼火力として天然ガスが燃焼され続ける。しかも、水素混焼が始まってからも、多くの案件では10%から20%という低い混焼率であるため、残りの80%から90%はLNGが使われる。さらに、水素専焼となる2040年半ばから2050年以降も、最大で10%の天然ガスが使われ続けることになってしまう。
LNG火力は高効率で、化石燃料発電の中では、燃料自身からのCO2排出も少ないとはいえ、このまま脱炭素化が進む時代においては、将来のLNG火力が、現在の石炭火力と同じような位置づけ(座礁資産)になってしまうのではないか。排出されるCO2の後処理として政府が期待するCCSは、次のコラム(第4回:CCS付火力は“脱炭素”を名乗れるか)で指摘した通り解決策にならない可能性が高い。
安定した発電能力と、高い柔軟性(調整力)が期待されるLNG火力であるが、燃料自身を海外に依存している限りは、地政学リスクのひとつである海上輸送のリスクが存在する中では、「安定」とはいえないのではないか。また、その柔軟性を発揮するためには、その対象となる変動型電源(太陽光、風力などの自然エネルギー発電)を十分な量に増やしていく必要がある。
3) 水素とアンモニアでもGHG削減効果が不十分
水素とアンモニアについては、混焼から専焼への転換が計画されているが、脱炭素化ロードマップによると、まずはブルー(水素やアンモニア)を使い、将来的にグリーンとする事業がほとんどである11。天然ガスを改質して水素を製造し、その際に発生するCO2を分離改修して貯留するブルー水素は、ブルーアンモニアの原料にもなるが、いずれも天然ガス採掘と輸送時に発生する漏洩メタンによる温暖化影響も大きく、その検知と対策のための世界的な取り組み12も始まっている。
また、日本も含めて世界では、水素の製造に至るまでの原料の製造と輸送工程13(上流工程)を含めた、水素1kg製造時に排出されるCO2排出量(kg)の基準値を設定している。日本では、水素だけでなくアンモニアについても基準値を設け、これに合致するものを、水素社会推進法における燃料差額支援の対象としている14。しかし、このアンモニアの基準値では、石炭火力の燃料を100%代替したとしても、燃料としての発熱量あたりのGHG排出量は62%減にしかならず、38%のGHGが排出されてしまう15。また、専焼時には効率の高いガスタービンになることを考慮しても、元の石炭火力の31%の排出量が残ってしまう。しかも、政府の方針では10%まではLNGの使用が可能となり、その削減効果はさらに小さくなる。
政府の「脱炭素火力」 は、国内の発電所だけが対象範囲となっているが、世界の基準値は、「Well-to-Gate」、つまり上流工程から水素製造工程までを対象範囲としており、この基準でみると、ゼロにはならない。さらに、日本の水素およびアンモニア調達の多くは輸入に頼る計画となっており、海上輸送とそのための変換工程(水素の液化、アンモニア合成、MCHの製造)でもエネルギーが消費され、それに伴うGHGが排出される。現在、世界の基準値では輸送工程を含めることが検討されており、ISOの基準となる見込みである。
4) 高コストな電力となる恐れが高い
先に示したように、水素とアンモニアを対象とした既設火力の改修については、第2回目の落札量が募集量の10分の1以下という結果となり、第3回目の募集に向けて上限価格を2倍以上に設定するなど、応札者に対する経済的な優遇が顕著になっている(表1)。これで応札が増えれば、高い電力が増えることになる一方、応札が低調になった場合はさらなる優遇策となることが懸念される。
いずれにしても、投入される税金に加えて高い電気料金という形で、消費者への負担が増えることになってしまう。政府は、第6次エネルギー基本計画で掲げた「2030年度の電源構成において、水素・アンモニアで1%程度を賄う」 という目標を満たす152万kW16を実現するため、残り約60万kWの落札を目指していると思われるが、応札量の確保が困難となっている今、4年前に策定した計画の前提条件を見直し、現状に即した計画にアップデートするべきではないだろうか。
3. まとめ
水素とアンモニア発電の切り口でオークションの結果と現状を振り返った結果、「2050年の脱炭素火力」 という名のもとに、今後20年近くも石炭をはじめとする化石燃料を用いた火力発電が主流となり、2050年時点でも十分な脱炭素電源が期待できないことがわかった。しかも、オークションの上限価格の変更によって想定される落札価格の上昇は、将来の水素とアンモニアの発電コストが国の想定を更に上回る恐れが高い。
第7次エネルギー基本計画の策定と並行して行われた国の発電コスト検証でも、水素専焼、石炭アンモニア混焼などの脱炭素火力の2040年時点の発電コストは、自然エネルギー電源より高くなると推計された。しかし、この検証では、2040年時点でのコストとして、電力価格算出のもととなる発電所の資本費と運転維持費について、アンモニア混焼では石炭火力、アンモニア専焼と水素(混焼および専焼)ではLNG火力と同額と想定されていた。一方、オークションにおける上限価格の推移を踏まえると、その前提条件の実現可能性は低いといわざるを得ない。これを踏まえれば、脱炭素火力の発電コストは国の想定以上になると見込まれる。
このままでは、高コストでGHG排出量の高い電力が、個々人の生活を圧迫するだけでなく、企業の国際競争力の足を引っ張り、輸入の原資すら十分に確保できなくなることが懸念される。
今こそ、電力部門における真の脱炭素を目指し、輸入依存率が高く、高コストでGHG削減効果も不十分な水素とアンモニア発電の推進よりも、太陽光、風力、水力等の再生可能エネルギーの拡充に予算を投じ、需給調整力のための揚水、蓄電池の導入を優先することにより、国産の自然エネルギーによる自給率の改善とGHG排出量低減、それらに伴う国内産業の活性化を目指すべきではないだろうか。
- 液体で体積あたりのエネルギー密度の高い、合成燃料やメタノール、アンモニアが有望とされている。
- 水素と窒素がアンモニアとなる化学式(3H2+N2→2NH3)において、H2とNH3それぞれのエネルギーは10.7MJ_LHV/Nm3と14.1MJ_LHV/Nm3のため、使われる水素のエネルギー(32.1MJ)に対し、製造されるアンモニアのエネルギーは28.2MJと、理論上88%に減少する。しかも、この合成プロセスには高温高圧を要し、大量のエネルギーが使用される。
- 水素は可燃範囲が広く、燃焼速度も高いため、燃焼器の開発では逆火を起こさない安定燃焼が課題となっている。
- 電力広域的運営推進機関_長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2024年度)2025年4月28日
- 経済産業省_電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会_第二十二次中間とりまとめ案
- 経済産業省_電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会_長期脱炭素電源オークションガイドライン(案)
- 自然エネルギー財団 「エネルギー基本計画の論点」(2024年9月19日)
- 経済産業省‗2025年度第1回 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 工場等判断基準ワーキンググループ 資料5「脱炭素社会実現に向けたJERAの取組み」(2025年4月3日)
- 経済産業省_総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 発電コスト検証ワーキンググループ 「発電コスト検証に関するとりまとめ」 資料1(2025年2月6日)
- ただし、改修案件の容量は、混焼部分のため、発電所の規模としては5倍(アンモニア混焼20%の場合)または10倍(水素混焼10%)である。
- 「ブルーからグリーン」 は、既設火力の改修6件中4件、LNG火力10件中5件で、「ブルーまたはグリーン」 が、既設火力6件中1件、LNG火力10件中1件であり、最初から「グリーン」 は、既設火力の改修で1件、LNG火力で3件(この3件はCCSを含めた複数シナリオのひとつ)となっている。
- IEA, The Global Methane Pledge
- 化石燃料由来の水素であれば、石炭や天然ガスの採掘および輸送工程。また水の電気分解によって製造される水素であれば、使用する電力の発電および送電工程。
- 経済産業省_脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律(水素社会推進法)
- 自然エネルギー財団 「日本の「ゼロエミッション火力」からの排出を考える」(2024年7月26日)
- 経済産業省_総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会_第十一次中間とりまとめ 「第6 次エネルギー基本計画では、2030 年度の電源構成において、水素・アンモニアで1%程度(93.4 億kWh 程度)を賄うことを想定しており、この電力量を仮に設備利用率70%で発電するためには水素・アンモニアが152 万kW 程度必要である」
シリーズ「長期脱炭素電源オークションの課題」
第1回 総論:長期脱炭素電源オークションの有効性を問う(2025年7月16日)
第2回 「脱炭素」を名乗る火力維持支援:フェーズアウト無き9割削減の行方(2025年7月18日)
第3回 水素・アンモニア火力は現実的な脱炭素電源になりうるのか(2025年7月23日)




