2012年、日本の電力供給を巡る状況は「パラダイムシフト」に直面していると指摘された。「地球環境問題への対応の必要性の高まり、世界のエネルギー需給のひっ迫度の増大、東日本大震災がもたらした環境の変化」というパラダイムシフトの中、不十分な競争環境や震災を機に顕在化した課題に対応するため、これまで料金規制と地域独占によって実現しようとしてきた「安定的な電力供給」を、国民に開かれた電力システムの下で、事業者や需要家の「選択」や「競争」を通じた創意工夫によって実現する方策をとることが提言された(電力システム改革専門委員会報告書)。政府はこれを受けて、「安定供給の確保」「電気料金の最大限の抑制」「需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大」を目的とする電力システム改革に着手した。2015年に成立した改正電気事業法は、広域系統運用の拡大、小売・発電の全面自由化、送配電部門の法的分離、規制機関の設立など、新しい電力システムの根幹となる制度を導入した。
改正法は、送配電部門の法的分離から5年以内に電気事業を取り巻く状況について検証することを求めており、政府は現在、検証のための議論を進めている。
電力システム改革は、「パラダイムシフト」に直面した日本が今まさに求められているエネルギー転換を進めるための礎となる。日本に豊富に存在する自然エネルギーのポテンシャルを活かしてその導入を加速することで、大半のエネルギーを海外からの化石燃料に依存する現状から脱却し、温室効果ガスの削減と国産エネルギーの活用によるエネルギーの自立化をもたらす。より競争力のある革新的な電力市場の実現は、経済成長を刺激し、自然エネルギー開発、送電網インフラ、エネルギー効率、技術など、さまざまな分野で産業と雇用を創出できる。こうした電力システム改革の意義と改革への期待は、下記のとおりまとめることができる。
競争と効率性:独占や寡占が解体され効率的な運営が目指される。政府の規制による義務ではなく、市場シグナルに基づいて資源が分配される。最も必要とされる場所や最も収益性の高い場所に投資が向けられる。 |
需要家の参加と選択の多様化:電力メニューの選択や、生産者や取引業者としてエネルギー市場に参加することを可能にする。需要家や消費者は、より多くの情報を得た上で意思決定を行い、持続可能な実践を支援する。 |
送電網の近代化:改革は、送電網近代化の取組みと密接に関連し、送電設備の更新、スマートグリッド技術への投資、自然エネルギーの統合強化などが行われる。送電網の近代化は、電力網の信頼性と回復力(レジリエンス)を高め、停電のリスクを低減し、システム全体の性能を向上させる。 |
リスク軽減:エネルギー源や市場参加者の多様化は、単一のエネルギー源や供給者への過度な依存に伴うリスクを軽減する。エネルギー安全保障を強化し、供給途絶や価格高騰に対する脆弱性を軽減する。 |
新しい技術やビジネスモデル:新しい技術が導入され、電力の信頼性と効率的な価格設定に貢献する。 |
環境の向上:競争と新しい技術導入を促進することで、よりクリーンなエネルギー源への移行を加速し、発電に伴う温室効果ガスの排出やその他の汚染物質の削減に貢献する。 |
当財団は、政府の検証議論に並行し、「エネルギー転換を支える電力システム」改革を実現する観点から、さまざまな視点や論点を提起していきたい。こうした提案が、国の電力システム改革や第7次エネルギー基本計画の策定議論に貢献するものとなれば幸いである。
シリーズ「電力システム改革の検証と論点」
第1回 エネルギー転換を支える電力システム改革に向けて:コラム連載を開始します(2024年8月21日)
第2回 電力小売り自由化の評価(2024年8月21日)