新たなエネルギー基本計画の策定、そして新たな日本の温室効果ガス削減目標(NDC)の決定に向けた議論が始まっている。経済産業省が事務局を務める基本政策分科会では、5月中旬以降、2週間に1回のハイピッチで日本のエネルギー政策の今後に大きな影響を与える議論が進んでいる。
今回の議論で注目されるのは、脱炭素エネルギー確保の成否が日本の未来を左右する、という強烈な問題意識が政府から発信されていることである。齋藤経済産業大臣は5月15日の分科会の冒頭あいさつで、「脱炭素エネルギーを安定的に供給できるかが国力を大きく左右すると言っても過言ではない」と述べている。事務局資料の中でも、自動車、半導体製造装置などの高付加価値品で稼いだ外貨の大半が化石燃料の輸入で失われている現状を明確に指摘している。
脱炭素エネルギーへの転換の成否が、日本の経済・社会の今後を左右するという問題認識は全く正しい。自然エネルギーと原子力発電を脱炭素電源とすれば、全発電量に占める割合はG7メンバー国の中で日本が最も低い。自然エネルギーだけを比べても日本より低いのは米国だけだ。その米国も2023年には太陽光発電の年間導入量が約40GWへ急増している。これは日本の6倍以上の速度である。日本以外のG7メンバー国は2035年までの全電源の脱炭素化という目標の達成を、相当程度、射程に入れている。
RE100、気候変動イニシアティブ(JCI)、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)のメンバー企業が、最近、相次いで日本政府の自然エネルギー導入の加速を提言したのは、このままでは日本でのビジネスを続けることができない、国際市場で戦えないという切実な危機感に基づくものだ。
日本の政策に問われているのは、どのような方策で脱炭素へのエネルギー転換を進めるかであり、それが気候危機回避に必要な速度で排出削減を実現するものなのか、また、日本の産業と社会を支えるために必要なエネルギーを安価に、安定的に確保するものなのかである。
6月17日の分科会では、今後の論点として下記の9点が示されている。各回の分科会に関連の資料が事務局と有識者・企業などから提出され議論が行われている。
(1) DXやGXの進展等による電力需要増加の可能性 |
これまでの基本政策分科会に提出された資料には、世界各国や日本のエネルギー状況、施策の動向を的確に紹介したものも多いが、その妥当性に疑問を持たざるを得ないものもある。
AIによる電力需要増加の議論、温室効果ガス排出量がピークにあった2013年度を基準にした「削減オントラック」という説明、原子力発電の高コスト化・建設の遅延など各国で生じている問題には触れない一方で特長(メリット)を強調する資料の妥当性、などはその一例である。
自然エネルギー財団は6月19日に「脱炭素へのエネルギー転換シナリオ:2035年自然エネルギー電力80%を軸に」を公表し、日本国内に製造業を維持し新しい産業を誘致しながら、IPCCが求める1.5℃シナリオに合致した排出削減を実現する方策を示した。
この2035年シナリオは、エネルギー基本計画、NDC策定への提案として公表したものであるが、これに加え、今回、基本政策分科会で議論される論点に関するデータ、事例を紹介し、必要な問題提起を行うコラムを連続的に掲載していくことにした。
自然エネルギー財団は、こうしたコラムでの情報発信、企業・自治体・NGO、政策形成に携わる方々との議論、公開イベントの開催など、様々な方法で、エネルギー基本計画とNDC策定に向けた建設的な議論の促進に貢献していく所存である。