公益財団法人 自然エネルギー財団は本日、「脱炭素へのエネルギー転換シナリオ:2035年自然エネルギー電力80%を軸に」を公表しました。
新しいエネルギー基本計画の検討が来年早々の策定を目標に行われています。財団の提案するシナリオは、日本国内に鉄鋼などの製造業を維持し、また、データセンターや半導体工場などの新しい産業を誘致しながら、IPCCが求める1.5℃シナリオ、すなわち2019年比2035年までにCO2排出を65%以上削減するための方策を示したものです。
脱炭素とエネルギー安全保障の両立には、原子力発電やCCS付き火力発電などが必要だという議論がありますが、財団のシナリオは、太陽光発電、風力発電、蓄電池を大量に導入し、送電網整備を増強・前倒しすることによって、原発などに依存することなく、大幅なCO2排出削減を電力コストを抑えつつ実現する可能性を示しています。
このシナリオが、エネルギー基本計画の議論、更には2035年までの新たなNDC策定の議論に貢献できることを期待しています。
脱炭素へのエネルギー転換シナリオ
2035年自然エネルギー電力80%を軸に
【詳細版】はこちら[2024年6月28日 追加]
主な内容
- 電力脱炭素化+鉄鋼生産などの戦略的電化+積極的効率化で、国内の産業基盤を維持しながら、2035年にCO2の66%削減(2019年比)が可能であることを示した。自然エネルギーの大量供給で、
1) 鉄鋼生産も含め製造業を脱炭素化し、国際競争力を維持する。
2) GAFAMなどが要件とする自然エネルギーを利用可能にし、データセンター・半導体工場などの国内への立地を促進。
3) 洋上風力発電、送電網整備の加速で、鉄鋼を含む新たな需要を創出。
- 自然エネルギー80%で、原子力発電と石炭火力なしでも、電力の安定供給が可能であることを示した。 太陽光発電と風力発電が50%を供給し、他の自然エネ電源+蓄電池・揚水発電で、24時間365日、電力の安定供給が可能であることをシミュレーションで示した(需給シミュレーションは、電力広域的運営推進機関がマスタープラン策定に用いたPROMODで実施)。
- 自然エネルギー80%でも、2035年の発電コストは11.2円/kWhでウクライナ侵攻前と同レベルの水準となる。太陽光発電、風力発電、蓄電池の大幅導入を前提とする2035年の発電コストは11.2円/kWhと推計。ウクライナ侵攻前の11.9円/kWhよりも若干低い水準との推計となった。送電線増強コストを加えても同額程度。
- 海外からの化石燃料輸入への依存を大幅に低減し、エネルギー安全保障を向上。2050年に向けて、国内でのグリーン水素製造の可能性も示した。 ウクライナ侵攻後のような化石燃料高騰があっても、発電コストの上昇は限定的(kWhあたりの発電コスト上昇が、2023年度の電力供給構造であれば4.6~6.5円の上昇をもたらしたが、自然エネルギー80%では1.2~2.5円の上昇へ縮小する)。
- 脱炭素+低コスト+安定供給実現のカギは、太陽光発電、風力発電、蓄電池の大量導入と送電網増強。現時点からの取組み加速が必要であることを示した。 自然エネルギー発電設備は、現在の3.3倍化、蓄電設備は72GW/184GWh導入する。北海道・東北・東京間の連系線の整備を現在の広域系統整備計画よりも前倒しし、8GW-12GWへ増強。
<目次>
はじめに
要約
1. 世界で広がる電力イノベーション
自然エネルギーは安くて頼れる存在に
鍵は「蓄電池」「系統」「IT」
2. 2035年度CO265%減・自然エネ電力80%シミュレーション
2-1. エネルギー分析:どうしたら2035年CO265%減は達成できる?
コラム:AI普及によって電力需要は増えるが同時に効率化、データセンター/半導体工場誘致には自然エネルギーが必須
コラム:国産エネルギーは最大のエネルギー安全保障
2-2. 日本の豊かな自然エネルギーポテンシャル
2-3. 2035年自然エネルギー80%電力システムの姿
必要な設備増強:自然エネルギー関連設備3.3倍、連系線
シミュレーション結果:80%自然エネルギー電力システムの姿
コラム:蓄電池がゲームを変えつつある
コストは増加せず化石燃料価格に影響されにくい
調整力も蓄電池を中心に提供
余剰率は約7-9%:あふれる自然エネルギーで安価な国産水素を活用
風力の活用には連系線、太陽光の活用には蓄電池、太陽光配分はピーク需要
曇天無風は「非常時対応」:80%を超えた時のために議論を始めよう
コラム:持続可能なバイオエネルギーの活用に向けて
3. 提言:日本企業が世界で選ばれ、日本が脱炭素技術で儲かる国になるためには何が必要か?
自然エネルギー導入の加速のために
蓄電池・連系線増強の加速
系統接続・利用の公平性のために
企業が脱炭素で儲かる環境を
誰も取り残さないために:管理的石炭火力フェーズアウト
エネルギー基本計画は最新動向を踏まえた国民的議論で決めよう
4. どんな世界になっているのだろうか?ある女性の日常
<関連イベント>
[シンポジウム] 脱炭素へのエネルギー転換シナリオを考える:エネルギー基本計画は何をめざすべきか(2024年6月21日開催)