小型モジュール炉(SMR)開発の世界的パイオニアであるニュースケール社は最近、最初に完成させるはずだったプロジェクトを、開発を継続するために必要な顧客を確保できないために中止すると発表した1。このプロジェクトの破綻は、日本を含む数カ国のエネルギー政策に大きな影響を与える可能性がある。ニュースケール社は、安全要件を満たし、リーズナブルなコストで電力を生産し、迅速に建設できる小型原子炉の設計開発に成功した企業の例として、しばしば脚光を浴びてきた。
ニュースケール社の原子炉の初期バージョンは、米国当局から設計の承認を得ることができた。しかし、このバージョンの建設費はあまりに高くついたため、もう少し大きな原子炉の方が経済的に有利になると考え、より大きな原子炉の開発が進められてきた2。
同社は、米国エネルギー省から14億ドル(約2000億円)の補助金を受け3、会社を運営してきた。しかし、発電される高コストの電力を購入してくれる顧客が見つからなかったため、このプロジェクトは中止されることになった。
多くの国で、ニュースケール社のプロジェクトは、原子力発電が迅速に建設できることの証明とみなされてきた。最初は2028年、次には2029年に稼働すると言われてきた。こんなに早く建設できるという話は現実的ではなかったし、今では決して建設されないことが現実になっている。
安全で、安価で、短時間で建設できる小型のモジュール式原子炉というビジョンが、信用を取り戻すのは難しいだろう。多くの原子力企業はすでに、本当に小型の原子炉には関心を示さなくなっている。その代わりに注目しているのは、出力 300~500MW4の原子炉である。まだ「SMR」と呼ばれてはいるが、これらは福島第一原子力発電所の1号機と同程度の大きさである5。しかし、このサイズの原子炉でも、近年世界で建設されている1,000~1,700MWの原子炉よりも高価な電力を供給することになる。
問題なのは、大型原子炉の建設には1基数千億円以上も必要で、太陽光発電や風力発電の何倍も高い電気を発電することになることだ。また、これらの大型原子炉は急速に停止することがあり、数週間から数カ月にわたって休止状態になるため、システムコストも大きくなる。
オープンな競争のある電力市場では、これらのコストの一部は原子炉の所有者に直接影響する。技術的な問題で発電能力が失われた場合、他の発電事業者と同じように、他の電源からバランシング電源を購入する必要がある。
しかし、注意すべきより重要な問題は、原子炉には突然、計画外に停止するリスクがあるため、送電網の崩壊につながるような事態を避けるために、送電事業者が予防措置を講じる必要があるということだ。これは最近フィンランドで注目されたことである。オルキルオトの新型原子炉は、運転を許可されるためにバッテリーの設置を余儀なくされ6、それでもフル稼働できることはほとんどない7。
小型で安全かつ安価な原子炉を信じることのリスクは、実際に原子炉が建設され、新設の自然エネルギーと競合してしまうことではない。問題なのは、このような新しい原子炉のビジョンが、産業界や政治家たちによって、自然エネルギーに反対し開発を妨げるために利用されることである。
政治家のプロパガンダはただ恥ずかしいだけだが、原子力会社のそれは違法になりうる。
ニュースケール社がユタ州プロジェクトの中止を発表する前の週の時点で、ある法律事務所が投資家たちと協力し、同社の代表者を詐欺罪で有罪にしようとしていた8。同社の幹部は市場でのこの原子炉の可能性を誇張し、存在しないかもしれない顧客がいると主張したと考えられていた9。株価はここ数カ月で15ドルから3ドルに下落した。今後倒産に追い込まれるかもしれない。ニュースケール社の投資家が失望するのも無理はない。
他の国々では、SMRに積極的な企業はアメリカよりも寛容な法律を享受している。しかし、そこでも投資家が敵対的になることがある。ビジョンが不当に誇張され、経済的競争力を生み出すことができないことが判明したときだ。
すでに1970年に、原子力のパイオニアであるハイマン・リコバーが米国議会で証言し、「机上の原子炉(academic reactors)」は小型でシンプルで柔軟性があり建設が早く安価である、しかし決して建設されることはない、と断言した。現実の原子炉は高価で、大きく、建設に時間がかかり、複雑である。そして彼は、知識のない政治家たちはアカデミックな説明に簡単に誘惑される、なぜなら実際の原子炉は非常に複雑なので問題を理解することも難しいからだ、と皮肉った10。
2022年5月、エイモリー・B・ロビンスは小型モジュール炉が経済的に競争力を持てないことを論証する論文を書いている:小型原子炉は大型原子炉よりも高価な電気を供給する。大型原子炉は自然エネルギーよりも高価な電気を供給する。原子力発電所で電気を作るために使われる部品の殆どはこれまでも使われてきたものだ。大量生産によって小型原子炉自体のコストはゼロにすることができたとしても、太陽光発電や風力発電のコストに太刀打ちできない。これは、太陽光発電や風力発電が、少なくとも原子力発電が提供できる程度に安定的な電力の供給ができるように必要な措置をしたとしても、である11。
米国原子力規制委員会(NRC)の元委員長アリソン・マクファーレンは、廃棄物がより扱いにくくなること12、発電される電気がより高くなることなど、SMRの問題点を示す批判的な論文をいくつか発表している。彼女はいま起きている事態を、初期の投資家が、実際のプロジェクトで企業が失敗する前、期待が膨らんだ時点で株を売却できることを願うという、一種のねずみ講のようなものだと表現している13。
ニュースケール社の破綻にもかかわらず、こんな状況を続けることができるのだろうか?