中国における電力部門の低炭素化の動向遂に自然エネルギー発電が火力発電を超えた

王嘉陽 愛知学院大学 経済学部 講師 / 自然エネルギー財団 特任研究員

2023年11月6日

 2022年は中国電力産業の低炭素化にとって非常に重要な一年である。コロナ感染拡大の中で、中国の自然エネルギー発電は依然として高速で発展し、発電設備の総容量は1,200GWを突破した。自然エネルギーの発電量は全体の3割以上に占め、多くの地域の主要電源となった。さらに、2023年1-9月に太陽光発電設備の新規増加量は記録的な129GWとなり、新規設備総量の57%を占める。自然エネルギー発電設備の総容量は1,300GWを突破し、遂に、中国の主要電源である火力発電を超えた。

自然エネルギー発電の設備容量が初めて火力発電を上回る

 2022年にコロナ感染拡大の影響で中国各地の工業生産と経済発展は大きな打撃を受けたが、自然エネルギー発電は依然として高速に発展した。2022年末時点で、中国の自然エネルギー発電設備の容量は前年比約14.1%増の1,213GWとなり、全体の47.3%を占めている。同時期の石炭火力発電の設備総容量は1,120GWであり、はじめて自然エネルギー発電が石炭火力発電を超えた。表1に示すように、石炭火力発電の設備容量の割合は2012年の66%から2022年の44%まで減少した。一方、風力発電と太陽光発電の割合は2012年の6%未満から2022年の約30%までの5倍も増加した。設備容量で見ると、風力発電と太陽光発電の合計値は2012年の64GWから2022年の760GWまでの10倍以上に増加した。

表1 石炭火力発電と自然エネルギー発電の設備容量の比較(2012-2022)

出典:中国電力企業連合会(2013,2023a)に基づき自然エネルギー財団作成

 自然エネルギー電源別で見ると、水力発電は414GW(うち、揚水発電は約46GW)、風力発電は365GW(うち、洋上風力発電は約31GW)、太陽光発電は393GW、バイオマス発電は41GWである。また、図2に示すように、2022年に新規増加した発電設備は約186GWである。その中心となるのは自然エネルギー発電設備であり、全体の約80%を占める。石炭火力発電の新規増加量は僅か7%しか占めていない。

出典:中国電力企業連合会(2023a)と国家能源局(2023b)に基づき自然エネルギー財団作成

 さらに、最新統計データ(中国電力企業連合会(2023b))により、2023年1-9月に太陽光発電設備の新規増加量は記録的な129GWとなり、新規設備総量の57%を占める。発電技術別の設備総容量を見ると、太陽光発電が521GW、風力発電が400 GW、水力発電が420GWとなり、自然エネルギー発電の設備総容量は1,300GWを突破し、遂に火力発電(石炭、石油、天然ガス)の設備総容量を超えた。中国電力企業連合会は、2023年全年の自然エネルギー発電の設備総容量は1,500GWに達すると予測している。そのうち、太陽光発電と風力発電はそれぞれ530 GWと430GWとなり、発電設備総容量(予測値:2,900GW)の三分の一を占めるらしい。

自然エネルギー電力が中心となる地域が増加

 2022年の自然エネルギーの総発電電力量は2,722TWhで、発電総量の31%を占める。そのうち、水力発電量は1,350TWh(15%)、風力発電は763TWh(9%)、太陽光発電は427TWh(5%)、バイオマス発電は182TWh(2%)である。風力発電と太陽光発電の合計発電量は初めて1,000 TWhを超えた。石炭火力発電の発電量は全体の74%(2012)から58%まで減少した。

 表2では、自然エネルギー電力の消費量および電量総消費量に占める割合を省別でまとめた。自然エネルギー電力の消費量は全体の40%を超えた省は9つであり、20~40%の省は19つである。チベットや雲南の割合はすでに80%を超えた。青海、四川、湖南、甘粛などの自然エネルギー資源が豊富な地域の割合も50%を超え、自然エネルギー電力は電量消費の中心となった。

表2 中国の省別の自然エネルギー電力消費量と割合(2022)

出典:国家能源局(2023b)に基づき自然エネルギー財団作成

今後の自然エネルギー発展計画と促進政策

 2022年6月に、国家発展改革委員会は「再生可能エネルギーの十四次五ヶ年発展計画(以下:再エネ計画)」(計画期間:2021~2025)を発表した。「再エネ計画」の中に、自然エネルギーの開発利用に関する主要目標を表3にまとめた。2025年の自然エネルギーの発電総量を2020年より50%増の3,300 TWh、自然エネルギー電力の消費割合を33%と設定された。また、太陽熱、地熱やバイオエタノールなどの自然エネルギーの非電力利用目標も初めて設定された。

表3「再生可能エネルギーの十四次五ヶ年発展計画」の主要目標

注:()内は2020年の実績値。
出典:国家発展改革委員会(2022)に基づいて自然エネルギー財団作成

 自然エネルギーの発電量目標の実現に向けて、中国政府は自然エネルギー資源が豊富な地域で大規模な「自然エネルギー発電基地」の建設を実施している。

 西北地域と西南地域で、陸上風力、太陽光発電と水力発電を中心とする基地開発を行っている。2021年に第一期目の97GWのプロジェクト、2022年2月に第二期目の455GWのプロジェクトを発表した(Energy Foundation(2022))。東部沿岸地域では、洋上風力発電を中心とする開発計画であり、2025年までにいくつのグリッドパリティプロジェクト2の運転開始を目指している。中国の洋上風力発電の新規設備の導入量は2017年以来ずっと世界一である。2022年の年末まで、中国各省に許認可されたプロジェクトは202件あり、そのうち建設済みのプロジェクトは約31GWとなり、建設中または建設準備段階に入ったプロジェクトは約80GWである。今後より離岸距離が遠く、水深が深い地域(中国語で「深遠海」)で浮体式洋上風力発電を開発するために、国家能源局は「深遠海洋上風力発電管理方法」を制定している。この法案は今年中に発表される予定である。

 再生可能エネルギーによる電力の大量導入に応じて,送電網の調整力と安定性の向上が求められる.そのために、中国政府は電力の調整と蓄電の設備の導入に目標を設定した。まず、2030年に揚水発電の総設備容量を120GWまで拡大する目標を設定した。そして、2025年までに30GWの蓄電設備の導入を目指している。国家能源局(2023a)の発表によると、2022年年末までに商業運転中の蓄電設備容量は8.7GWになり、2021年と比べて110%以上増加した。そのうち、リチウムイオン電池設備は全体の94.5%を占める。それ以外に、圧縮空気や流体電池などの技術開発も実用段階に達し、商業化運転を開始した。

 また、2020年に、中国は世界初のグリーン水素 認証制度を発表した。「再エネ計画」では、グリーン水素の大規模な製造プロジェクトの開発、および化学産業、重工業、交通部門を重点にグリーン水素による利用代替を促進することを目標とした。グリーン水素は自然エネルギー発電の貯蓄手段でありながら、自然エネルギー発電の非電力利用手段でもあるから、非常に注目されている。

 新たな設備と技術の導入はもちろん重要だが、自然エネルギーを中心となる電力システムの特性に適する電力市場の整備も不可欠である。中国では、大規模な風力と太陽光の発電コストはすでに石炭火力発電と競争できるレベルに到達した。よって、自然エネルギー発電電力の固定価格買取制度(Feed-in Tariff, FIT)は存在意義を失い、2021年までに中国のすべてのFITは終了した。FITの終了後の導入促進政策の重点は、量的な拡大から質的な充実に移った。例えば、2021年から電力取引市場に「グリーン電力」という商品を新設し、グリーン電力には一定の環境価値が付加されることになった。また、風力発電と太陽光発電は天候による出力変動が導入のハードルになっているが、これに対して中国政府は蓄電設備や揚水発電等の電力調整手段を取引する「電力需給調整補助サービス市場」を設立した。これから、中国政府は自然エネルギー発電を特別扱いするのではなく、火力発電と共通の土俵で競争させようとしているのである。

  • 1tce(tone of standard coal equivalent):標準石炭換算トン。中国のエネルギーの単位で、1トンの標準石炭を燃焼させたときに得られる約29GJのエネルギーを1単位としたもの。(1 tce = 0.7 toe)
  • 2グリッドパリティとは、再生可能エネルギーの発電コストが既存の電力のコストと同程度に下がり、両者が同じ競争条件になることを指す。

 

■参考文献
・中国電力企業連合会(2013)「2012年電力統計基本データ一覧表」
・中国電力企業連合会(2023a)「2023年度全国電力需給情勢分析予測報告」
・中国電力企業連合会(2023b)「2023年第三四半期全国電力需給情勢分析予測報告」
・国家発展改革委員会(2022)「再生可能エネルギーの十四次五ヶ年発展計画」
・国家発展改革委員会(2023)「2022年わが国の再生可能エネルギー発展状況」
・国家能源局(2023a)「2023年第一四半期記者会見」
・国家能源局(2023b)「2022年度全国再生可能エネルギー電力発展評価報告」
・Energy Foundation(2022)「China's Electrification Pathways Findings from the China Energy Outlook 2022」


 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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