EU-REDⅢ最終版におけるバイオエネルギーの取り扱い森林バイオマスも含め引き続き再エネとして認められる

相川 高信 自然エネルギー財団 上級研究員

2023年10月11日

 気候変動、そしてロシアのウクライナ侵攻により引き起こされたエネルギー危機への対応から、EUは自然エネルギーの導入を加速させている。バイオエネルギーはEUにおいても最大の自然エネルギー供給量を占め、特に木質バイオマスはその太宗を占めている。しかし、その取り扱いは近年大きな論争を引き起こしてきた。

 これまでも紹介してきたように、2021年7月の「Fit for 55」の一部として提出された再生可能エネルギー指令(Renewable Energy Directive)の改正案( 通称REDⅢ)の原案では、木質バイオエネルギーの持続可能性強化が提案されていた1。2022年9月に欧州議会で可決されたREDⅢ修正案では、さらに厳しい姿勢が示され、森林から直接取り出されて利用される「一次木質バイオマス(森林バイオマス)」は、原状の比率を維持するとされていた2

 こうしたバイオエネルギー、特に森林バイオマスに対する規制強化の一連の動きを受けて、「EUではバイオエネルギーは再エネとして認められなくなった」といったセンセーショナルな見出しの国内報道が見られたこともあった3

 しかし、その後の欧州委員会と欧州議会に欧州理事会を加えた三者間協議(Trilogue)4で成文化されたREDⅢ最終版では、持続可能性基準を満たすバイオエネルギーは、再エネとしてREDⅢの目標達成に算定できることが決まった(2023年9月14日欧州議会にて可決)。

 2021年原案にあったように、確かに木質バイオマスに適用される持続可能性基準は強化されることになったが、2022年修正案に登場した「一次木質バイオマス」という用語は条文から削除され、木材収穫に伴って発生する残渣を中心に、持続可能性基準を満たした森林バイオマスは引き続き再エネとして計上できる。

 以下、本コラムでは改めてEU-REDⅢの内容を整理することを目的とし、日本にとって重要だと思われる点を中心に解説する。なお、EU-REDは固体・液体・気体全てのバイオエネルギーを対象としており、用途も発電・熱利用だけではなく輸送燃料も含まれている。

カスケード利用の原則(Article3):間伐材や未利用の低質材の使用も認められる

 Article3では、政策支援の対象となるバイオマスの基本的な考え方として、カスケード利用の原則の遵守が明記されている5

 ここでは、カスケード利用の原則に反してバイオマス原材料市場を大きく歪めるような影響や、生物多様性、環境、気候に対する負の影響を最小化する対策を各加盟国が講じることが求められている。あわせて、製材・合板などの産業用途の丸太および切り株と根の利用に対して、直接的な金銭的補助の禁止が明記された。

 この措置はマテリアル用途との原材料の競合を避けるという産業政策的な意味合いが強い。そのため、エネルギー供給のセキュリティを確保する必要がある場合や、エネルギー生産よりも経済的・環境的に価値が高い利用が量的もしくは技術的に出来ない場合についての例外規定が設けられている。具体的には、上記の場合、1)切り捨て間伐、森林火災の抑制など森林管理に必要な施業、2)自然災害時のサルベージロギング6、3)地域の加工施設にとって適切ではない性状を持った木材が利用できる。

持続可能性基準(Article 29):森林バイオマスの基準は厳格に

 Article29では、農業バイオマスおよび森林バイオマスについて、調達ができる条件を示している。農林業残渣も持続可能性基準の対象であるが、加工残渣および廃棄物はGHG削減基準の遵守のみが求められる。なお、対象となるプラントの規模は熱投入量で7.5MW以上となった。 

 農業バイオマス(Article 29: 3・4・5パラ)

 農業バイオマスについては、土壌の質と蓄積された炭素への影響の考慮、モニタリング・管理が必要である。調達(生産)を禁止する土地として、生物多様性の高い土地(原生林(Primary forest)、老齢林(Old-growth forest)、生物多様性の高い草地、ヒースランド)と炭素蓄積の高い土地(湿地、森林)が明記されている。

 森林バイオマス(Article 29: 6・7パラ)

 森林バイオマスについては、調達ができる国や地域の要件として、森林管理のための法律と執行体制が整っていることを求めている。これにより、伐採施業の合法性、伐採地の更新、適切な伐採方法などが確認・確保される必要がある。伐採方法については、持続可能な森林経営の原則に沿って、土壌と生物多様性の質の維持を考慮する。さらに、原生林と老齢林の保護や大面積皆伐の上限の遵守、枯死木の持ち出し量についての閾値に従うことなど、REDⅡに比べて具体的な記述が加わった。

 加えて、調達する国や地域はLULUCF基準7を満たすことが必要である(Article 29: 7パラ)。REDⅡでもパリ協定の締結国であることや、国連にNDC(Nationally Determined Contribution)を提出し、農林業・土地利用セクターからの排出と除去を算定していることが求められている。つまり、バイオマス収穫による炭素ストック変化の算定を行うことで、バイオマス起源CO2の計上漏れを防いでいる。
 EU加盟国については、バイオマス燃料の国内生産をLULUCF目標と整合的であることが求められることになった。2024年6月までに提出する加盟国のエネルギー・気候計画の一部として、森林バイオマスの利用量、自然エネルギー目標との整合性、そのための対策と政策を明らかにする必要がある。

GHG削減基準(Article 3, 29):2030年以降はすべてのプラントで80%削減へ

 GHG削減基準の対象規模は、2021年のREDⅢ原案では5MW 以上とされていたが、最終版では7.5MWに引き上げられ、緩和された。

 その一方で、最終版では、2021年以前に運転を開始したプラントも対象となることになった。運転開始後15年後もしくは2026年度から2029年末の、いずれか早い時期に80%削減を求められることになる。これにより、運転開始時期に関わらず2030年以降は、すべてのプラントが80%以上の削減を求められることになった。

表:EU-REDにおけるGHG削減基準の概要

注)対象規模は投入熱ベースの容量
 

加盟国の状況を配慮

 以上が、2年に渡る議論と交渉の末にまとまったEU-REDのバイオエネルギーに関する規定の大枠である。これに加えて、Trilogueという交渉プロセスを経たことにより、重要な例外規定が設けられていることや、細則は加盟国に決定権がある場合が多いことに注意が必要である。

 例えば、重要と思われるカスケード利用についても、最終版で「各国の具体性に配慮しながら」「支援スキームを設計する」との文言が加わっている。また、前述のとおり「地域の加工施設にとって適切ではない性状を持った木材」は、「エネルギー生産よりも経済的・環境的に価値が高い利用が量的もしくは技術的に出来ない場合」として利用が認められた。

 さらには、老齢林の定義や大規模皆伐の面積上限は、その森林がある国の規定に従うとこととされた。EUレベルでの合意のためには、加盟国によって異なる自然・社会条件を尊重する必要があったのだろう。

 エネルギー政策として重要なのは、熱電併給ではない発電のみのプラントについて、「公正な移行計画に位置づけられた地域のプラント」であれば支援対象とする措置である。EUは2020年1月の欧州グリーン・ディール投資計画において「公正な移行メカニズム」を提案した。気候中立への移行に伴う打撃が大きい地域と産業を特定し、「公正な移行基金(Just Transition Fund)」により圏域レベルでの支援を行う予定である。

 本稿執筆時の2023年10月初旬時点では基金の配分は決まっていないが、各国が提出した希望地域をまとめたレポート8によれば、石炭鉱業および泥炭採掘業があり火力発電所への依存が大きな地域に加えて、鉄、化学、セメント、製紙などの重工業の集積地が挙げられている。地域的には東欧が多いが、ドイツや北欧など、EUにおいてGDPが比較的高い国の条件不利地域も含まれている。

おわりに

 2023年9月26日に発表されたIEAのNet Zero Roadmapの2023年版では、エネルギー部門からのネットゼロ排出のために、バイオエネルギーが不可欠であることを確認している。全世界では一次エネルギー供給の2割弱をバイオエネルギーが占める予測である。

 こうした国際的な議論も踏また上で、EUの政策議論も的確に理解し、日本国内のバイオエネルギーの政策に迅速に反映していくことが重要である。

  • 1自然エネルギー財団  EU Fit for 55:森林バイオエネルギーの持続可能性基準を強化(2021年8月3日)
  • 2自然エネルギー財団  欧州議会REDⅢを可決:再エネとしての森林バイオマスは現状比率を維持へ(2022年9月28日)
  • 3そもそも一連の議論の中で、持続可能性基準を満たすバイオエネルギーが自然エネルギーから外されたことは一度もなかった。
  • 4欧州理事会からは加盟国の担当閣僚(REDはエネルギー関係の大臣)が参加する非公開の交渉。欧州議会の議席数がEU域内の人口分布を反映したものであるのに対して、欧州理事会は27の加盟国それぞれが担当閣僚を出席させる
  • 5カスケード利用の原則は、燃料用途が最も安いという経済的なメカニズムで成立している。詳しくは、自然エネルギー財団(2023)「バイオマス炭素サイクルの気候中立性 森林バイオマスの『炭素負債』論争を理解する」を参照のこと。
  • 6被害を受けた倒木などを森林外に持ち出すこと。
  • 7Land use, land use change and forestryの略。農林業など土地利用セクターにおける温室効果ガスの排出量の削減基準のこと。
  • 8European Commission (2020), Overview of Investment Guidance on the Just Transition Fund 2021-2027 per Member State, 2020 Country Report (Annex D)
  •  

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

当サイトではCookieを使用しています。当サイトを利用することにより、ご利用者はCookieの使用に同意することになります。

同意する