財務省貿易統計によれば、2022年度の日本の貿易収支は21兆円を超える貿易赤字を記録した。この背景には、化石燃料価格高騰に代表される世界的なインフレおよび記録的な円安の二重の影響がある。エネルギーや資源関係の輸入額は突出して大きく、22年度の石油や天然ガスなど鉱物性資源の輸入額は35兆円を超えた。
化石燃料のうち、火力発電用の燃料として主に利用されている液化天然ガス(LNG)および一般炭(石炭)の輸入単価の推移をみると、その価格高騰の影響のすさまじさがわかる(図1)。LNGの平均輸入単価は、2019年度に6万円/トンであったのが、2022年度は12.6万円/トンと約2倍を超えている。石炭の価格上昇はさらにすさまじい。2010年度から2020年度までの10年間ほとんど単価に変動がなく、1万円/トン前後であった。それが22年度には、輸入単価は約5倍の4.9万円/トンに達した。
図1 トン当たりの輸入価格
それでは、この化石燃料価格高騰の中で、2022年度の電力の需要および供給はどのように反応したのか。この点を一般送配電事業者が公表している電力エリア需給統計からみていく。
まず、2022年度の電力需要量の合計は、870TWh(テラワットアワー: 10億kWh)であった(需要端)。これに対して、供給電力量は872TWhである。このうち、火力発電が最大の632TWh(73%)、その次に自然エネルギーが186TWh(21%)、最後に原子力が54TWh(6%)を供給した。このことから、依然として日本は電力供給の大部分を火力発電に依存していることがわかる。これに対して、原子力による供給量はわずかにとどまっている。
特に注目するべきは、2021年度からの需給の変化である。化石燃料の価格高騰は2021年度から22年度にかけて急激に起こっている。こうした変化に対してどのように電力需給が変化したかを見る。図2は2021年度と2022年度の電力需給の差を表している。
図2 2021年度と2022年度の電力需給の変化
ここからいくつかのことが読み取れる。
第一に、需要側(送電端値)を見ると、2022年は前年度に比べて16TWh減少した。低下の要因の一つとしては、気温との関係もありうる。2022年度1~3月は前年同期比で高く1 、これは暖房電力需要を低下させる効果をもたらす。ただし、2022年度7~9月は前年同期に比べて全国的に気温が高く、これは逆に冷房電力需要を高める効果がある。以上から気象の影響はプラスマイナス双方ある。もう1つの可能性は、電力価格高騰の影響である。2022年度後半は電灯料金について前年同月比30%を超える値上げがされている2。価格の高騰は電力消費者に電力消費量を減らすインセンティブをもたらす。その影響もあってか、年度後半にかけてほとんどの月で電力需要量が前年比で減少している。
第二に、供給側で増加しているのは、自然エネルギーである。自然エネルギーは着実に増加しており、2022年度においても前年比で10.4TWh供給量を増加させている。そのうち、太陽光発電の供給量の増加分が7.4TWhともっとも大きい。自然エネルギーの電力供給量の増加は、他の電源からの供給を減らすため、確実に電力価格の高騰を緩和させるのに役立ったはずである。
上記の電力需要量の減少および自然エネルギー電力の供給量の増加を合わせると、火力発電の電力供給量を26.4TWh減らす効果をもたらしたことがわかる。しかしながら、実際の火力発電の供給量の減少は11.6TWhにとどまった。これは、安定供給の点から優れているとされている原子力が、21年度に比べて15.5TWh電力供給量を減らしたためである。
これには2つの要因がある。第一に、原子力は、13カ月に一度運転を停止し定期検査をしなければならない。定期検査は数カ月行われ、その間、電力供給は当然ゼロとなる。2022年度は、関西電力のすべての原発、九州電力の玄海原発で定期検査が行われ、その結果、これらの発電所の設備利用率が低下した。第二に、2023年1月末に高浜原発4号機で運転トラブルが発生し、3月下旬までの冬季の電力需要が高い時期の運転停止していた。これら2つの要因により、電力価格が高騰している中、原子力はかえって供給量を落としてしまったのである。
定期検査は安全性の確保のために必要であり、運転トラブルは原子力に限らずどのような電源でも起こりうる。しかし、原子力はとりわけ安全性確保への厳格な対応が求められる。その点から定期検査は極めて重要であり、電力需要に応じるために、定期検査期間を変更したり、期間を短くすることは適切ではない。さらに、1基ごとの出力が大きいことから、その停止が電力供給全体に与える影響が大きくなる。原子力は安定供給上優れているといわれているが、このような欠点を有していることを認識すべきであろう。少なくとも、2022年度の電力価格高騰に対して有効性を示せなかったのは事実である。
反対に、電力需要側は価格高騰に対応して、省エネ等を通じて電力消費者の応答を引き出し、電力需要量の減少に寄与した可能性がある。また、自然エネルギーは、着実に供給量を増やし、2022年度の化石燃料価格の高騰への対応を示したと言える。とりわけ、設置場所に柔軟性が高く、かつリードタイムが短い太陽光発電は、短期間における供給量の増加に効果を上げやすい。
2022年度の化石燃料価格の高騰による電力価格の高まりは、市場からのシグナルである。それに対して、より短期間にかつ柔軟に対応する能力もまた、エネルギー安全保障上重要である。エネルギー安全保障を確保しつつ、脱炭素を進めるうえでこうした視点からも検討が求められる。