環境省REPOS市町村別の木質バイオマス賦存量を初公開

相川 高信 自然エネルギー財団 上級研究員

2023年5月22日

はじめに

 我が国の再生可能エネルギーの導入促進にあたって、環境省は国と地方の協働・共創を重視し、市町村向けに様々な情報提供を行っている。その中の一つに、REPOS(Renewable Energy Potential System:再生可能エネルギー情報提供システム)がある。REPOSは、自然エネルギーの発電および熱利用のポテンシャルを、地理情報システム(GIS)を使って解析し、地図上のグリッド単位もしくは市町村単位で表示するものである。自治体が策定する地球温暖化対策計画はもちろん、様々な地域脱炭素化の計画策定に活用されることが想定されている。

 自然エネルギーを用いた発電については太陽光、風力、中小水力、地熱が、熱利用については地熱、太陽熱がポテンシャル推計の対象となり、毎年、改良とアップデートが行われている。地域の脱炭素化の手段として重要なバイオマスについては、長らく推計の対象外となっていなかったが、2021年度にようやく木質バイオマスについての検討が始まり、2023年の4月に賦存量データが公開された。ただし、今のところトップページから見ることはできず、自治体情報カルテでのみ閲覧できる仕様になっている。筆者は、この検討会に委員として参加しており、データの存在を広く知らせるとともに、いくつかの留意点などについて解説したい。

推計手法についての注意

 今回公表された結果について、合わせて公開されている「木質バイオマスの推計について」という資料1に基づいて解説しよう。

 まず、今回の推計対象は、民有林と国有林を含む人工林のみであり、かつて薪炭林としてエネルギー利用されたまま放置されているような天然性の二次林は含まれていない。

 このうち賦存量として計上されているのは、現状ですでに伐採されている木材のうち、マテリアル利用されているもの(素材として製材・合板・チップとして販売されているもの)以外の未利用資源(切り株・端材、未利用間伐材、枝条)が計上されているものである。加えて、現状では伐採されていないが、樹木の成長により森林バイオマスを増加させるかたちで蓄積されているものが、伐採された場合に発生するバイオマス(未利用資源)が含まれている。

 この推計方法で注意が必要なのは、第一に、今回の推計で示されているのは、規制や事業性が考慮されていない賦存量であるという点である。第二に、すでにエネルギー利用されているバイオマス量が考慮されていない。そのため、FIT発電所が多数稼働している地域では注意が必要である。第三に、この手法では成長量の増加分が100%伐採されるという想定になっているが、伐採が盛んなヨーロッパにおいても80%程度に留めるのが普通であり、成長量推計の精度や不確実性(災害リスクの発生など)を考えると極端な割合になっていることに留意いただきたい。

 なお、自治体の温暖化対策計画には、森林吸収量を計上してよいことになっている。もし伐採量を増やせば、蓄積増加量の減少、つまり吸収量の低下を心配する方もいるかもしれない。ただし、今回のREPOSでエネルギー利用の対象としているのは、林地残材などのあくまでも副産物であり、エネルギー目的の伐採は想定されていない。伐採量を増やすためには、主産物の素材丸太の生産とセットで行われる想定になっている。そのため、エネルギー利用による化石燃料の代替に加えて、建築用材などのマテリアル利用を通じて、鉄やセメントを代替する効果を期待することができるが、これは地域におけるCO2の削減効果としては計上できないことに、注意が必要である。

 加えて、森林面積が広く、重工業が立地していないなどの中山間地域において、森林吸収量を地域計画に含めてしまうと、民生部門などの排出がこの地域単位でオフセットされてしまう恐れがあり、少なくとも国レベルでのネットゼロを考えた時に不適切であることを付け加えておきたい2

賦存量推計の結果概要

 さて、REPOSでは、一般家庭を含む民生部門の主要業種についての熱需要量のデータも格納されており、木質バイオマス賦存量と地域の熱需要との比較ができる。加えて、太陽熱や地中熱も導入ポテンシャル(事業性考慮前)が公表されている。

 これらのデータを用いて、まず都道府県レベルで分析をしてみると、熱需要のかなりの部分を再エネ熱でカバーできる可能性がある事がわかる。

熱需要に対する再エネ熱供給ポテンシャルの比率

(注)太陽熱と地中熱は導入ポテンシャルの数字であり、木質バイオマスは賦存量の数字である。 
(出典)環境省再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)データより作成

 次に市町村レベルで分析をすると、バイオマス熱の賦存量が、熱供給量の50%を上回る市町村が255市町村(全市町村の14.6%)あることが分かった。

 このようなことから、規制や事業性が考慮されていない賦存量データであるとは言え、地域レベルでの脱炭素化、特に熱利用部門を考えたときの、木質バイオマスの重要性が理解できる。また、事業性を考慮したポテンシャルについても検討を急ぎ、早期の公開が望まれるところである。

具体的な地域プランニングのアプローチとの組み合わせ

 一方で、今回公表されたREPOSの木質バイオマス賦存量は森林資源量に基づく理論的な最大ポテンシャルであることから、自治体単位での分析や計画立案を補完するべく、具体的な施設を想定したプランニングアプローチも提唱されている

 日本木質バイオマスエネルギー協会は、林野庁の補助事業で作成した「木質バイオマス熱利用導入構想作成の手引き」を2023年3月末に公表した3。手引きでは、大気汚染防止法により定められているボイラーの設置届(ばい煙発生施設設置届)の情報などを活用し、バイオマスボイラーへの転換が可能な施設を洗い出し、段階的なアプローチで広げていくことを推奨している。

 また、今回の推計は木質バイオマスのうち、森林から直接取り出されるバイオマス(森林バイオマス、もしくは一次木質バイオマス)のみを対象としており、製材工場の端材などの二次木質バイオマスが含まれていない。さらには、剪定枝や農業系の残渣、下水汚泥や家畜糞尿、有機系廃棄物など、地域にはエネルギー利用可能なバイオマス資源が他にも存在しており、こうしたデータについても、早期にREPOSに搭載されることが期待される。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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