経済産業省がウェブサイトで原子力発電の必要性を積極的に訴えているが、その中に記載されている欧州の原子力発電に関しては正確でない情報を含んでいる1。原子力発電に有利な情報を選んでいて、必然的にバイアスがかかった内容になっている。本来は日本国民に対して、欧州の最新の状況をバランスよく伝えるべきである。
第1に、フランスが最も優先して取り組んでいるのは、既設の老朽化した原子炉に生じている問題点を解決すること、そして1基だけ建設中の原子炉Flamanville-3を稼働させることである。第2に、ドイツは3カ月半という短い期間の遅れを伴ったものの、2023年4月15日に原子力発電のフェーズアウト(段階的廃止)を実現させる。第3に、EU(欧州連合)が環境面で持続可能な経済活動を分類したタクソノミーにおいて、原子力発電を対象に加えた。ただし放射性廃棄物の処分に関する厳しい条件が課せられている、という重要な点を認識する必要がある。
フランスの最重要事項は原子力発電の問題解決
フランスでは2022年に、原子力の発電電力量が279TWh(テラワット:10億キロワット時)にとどまり、1988年以降で最低の水準に落ち込んだ2。2005年に過去最高の430TWhを記録した時と比べて35%も減少した(図1)。
2023年に入るとさらに悪化して、1月1日から3月26日までの第1四半期において、前年の88TWhから81TWhへ8%減少している3。
このような発電電力量の低下は、既設の原子力発電所に悪影響を及ぼす3つの要因によるものだ。
第1の要因は、安全性の強化と運転期間の延長を目的に2014年から2025年までに実施する“Grand Carénage”(大改修)である。フランスにある56基の原子炉すべてを対象にしており、設備容量を合計すると61.4GW(ギガワット:100万キロワット)にのぼる。それぞれの原子炉は運転開始から平均して約38年を経過している。この大規模なプログラムによって、一定期間の稼働率が低下する4。第2に、2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大によって、原子炉のメンテナンスを計画どおりに実行できなかった。さらに第3の要因として、2021年末から緊急冷却システムの応力腐食割れが複数の原子炉で相次いで見つかり、検査と修復のために一時的に停止する事態が発生した。
原子炉の運転期間を延長するためには、国の原子力安全機関であるAutorité de Sûreté Nucléaireから、運転開始後10年ごとに認可を受ける必要がある。運転を停止した期間も含めて10年である。IAEA(国際原子力機関)の長年にわたる見解に沿ったもので、運転を停止しているあいだでも原子炉の老朽化は進む、という考え方による5。ところが日本政府が2023年に入って新たに決めた方針では、原子炉の運転開始から30年を経過して以降10年ごとに延長を認めるにあたって、運転停止期間を除外する。これはIAEAの見解とは異なり、安全性の観点から適切な方針ではない。
フランスでは2007年12月から建設中のFlamanville-3(設備容量1.6GW)が、何度にもわたる遅延(11年以上)と莫大なコスト超過(110億ユーロ以上)に見舞われている。当初は2012年6月に運転を開始して、コストも46億ユーロを想定していた6。このプロジェクトを実施しているÉlectricité de Franceが2022年12月に公表した最新の情報では、運転開始は早くても2024年の第1四半期で、コストは総額161億ユーロに増加する7。
以上の要因により、フランスは1980年以降では初めて、2022年に電力の輸入国になった。国全体の年間電力消費量の約4%にあたる17TWhを輸入した8。その大半はドイツからの輸入である。
フランスの国会では、原子力発電を再生させるために、既設の原子炉の運転延長と新設の原子炉の建設に必要な手続きを簡素化する法案を審議中だ9。既設の原子炉すべてを運転延長できるように、40年に近づいている原子炉の定期レビューの手続きを簡素化する。新設については、6~14基の大規模な原子炉と数基の小型モジュラー炉の建設を目指す。既設の原子炉の近隣に建設する場合には、建設に必要な認可を免除する。いずれの施策も効果的だが、脆弱になったサプライチェーンの強化と莫大な投資の確保が重要な課題として残る。
フランスは2050年までにカーボンニュートラルを達成するために、原子力とともに自然エネルギーを推進する。国会では自然エネルギーの導入を加速させる法案を2023年3月に採択した10。この法律は4つの柱で構成する。(1)自然エネルギーの導入を加速する地域(ゾーン)を指定する、(2)プロジェクトの期間を短縮するために環境面の手続きを簡素化する、(3)土地の活用を促進する(造成済みの土地に太陽光パネルを設置する、など)、(4)自然エネルギーの便益を地域のコミュニティと共有するための再分配メカニズムを導入する。これらの施策は適切で、2050年に向けた自然エネルギーの意欲的な目標を確実にするために必要だ。2050年の目標は太陽光を100GW以上に(2022年の時点では15.7GW)、陸上風力と洋上風力をそれぞれ40GW(2022年の時点では20.6GWと0.5GW)に拡大することである11。
新しい法案を検討する以前には、フランスは2035年までに原子力発電の比率を50%に低減(2022年に63%)する一方、2030年までに自然エネルギーの比率を40%(2022年に25%)に高める目標を掲げていた12。しかし原子力の削減目標はとりやめた。自然エネルギーの目標達成は、新しい法律によって導入を加速できるかどうかにかかっている。
ドイツは短期間の遅れで原子力発電をフェーズアウト
ロシアのウクライナ侵攻により、2022年に欧州全域でエネルギー供給に関する懸念が広がった。ドイツでは2022年11月11日に、原子力発電をフェーズアウトする計画を少しだけ修正した。国内に残っている3基の原子炉、Emsland (1.3GW)、Isar-2 (1.4GW)、Neckarwestheim-2 (1.3GW)を2022年12月31日に廃止する計画だったが、2023年4月15日まで延期することを決定した13。わずか3カ月半の遅れである。
2022年のドイツの発電電力量に占める原子力の比率は6%だった。これに対して自然エネルギーは7倍以上の44%に達した(図2)。
図2:ドイツの電源構成2022年の発電電力量ベース、%)
注目すべきは、ドイツでは原子力発電のフェーズアウトに成功しただけではなく、火力発電も大幅に削減した。特に石炭火力を2010年から2022年のあいだに80TWh(30%)削減している。その代わりに陸上・洋上風力と太陽光を拡大した(図3)。
図3:ドイツの電力供給量の変化(2010年~2022年)
さらに興味深いことに、ドイツの電力輸出量は2010年から2022年のあいだに増加した。2022年には27TWhにのぼる大量の電力を輸出し、特に原子力発電の問題で国内の電力が不足していたフランスにとっては貴重な供給源になった。ドイツはフランスに21TWhを輸出して、フランスから5TWhだけ輸入した14。
EUのタクソノミーでは放射性廃棄物の処分を厳格に規定
2022年7月15日にEUの官報で公表された気候委任法(Complementary Climate Delegated Act)において、タクソノミー(持続可能な行動を分類)が対象とする経済活動のリストに原子力が加えられた。2023年1月1日から適用が始まった15。
EUのタクソノミーに原子力を追加することに対しては、激しい議論が繰り広げられ、複数の加盟国が問題点を提起した。話題の中心は放射性廃棄物の処分である。最終的に妥結するために、厳格な条件が設けられた。原子力発電の開発を進める加盟国は、2050年までに高レベル放射性廃棄物の処分施設を稼働させる詳細な計画を整備する必要がある16。
気候委任法では、高レベル放射性廃棄物と使用済み核燃料に対して、地層処分施設が“最先端の解決策”であると規定している。このように解決策として地層処分施設が求められている。現時点で地層処分施設を稼働させた例は世界のどこにもなく、極めてむずかしい課題である。
その中ではフィンランドが先行していて、地層処分施設のONKALOを2020年代の半ばに稼働させる計画を進めている17。続いてフランスとスウェーデンが用地を選定済みで、地層処分施設の建設に向けて具体的に進展中である。その他の国は日本と米国を含めて遅れている。