コロナ危機から燃料価格危機へフランスとドイツの電力供給を比較する

トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団 理事長 / ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団 上級研究員

2022年9月8日

in English

 フランスは、電力部門の大部分の脱炭素化が進められており、原子力技術の軍事利用と民生利用の両方に長期的にコミットしている。ドイツは脱原発政策を打ち出しており、気候政策への高い野心を持ちつつも、ロシア産のエネルギーへの依存度が高く、化石燃料の比率が高い。同時に、ドイツは世界の自然エネルギー先進国のひとつとして知られる。

 欧州がコロナ危機を脱し、プーチンによるウクライナ侵攻危機に突入する中、両国の電力供給体制は、多くの人が予想したものとはやや異なる様相を見せている。
 
図1. 2022年前半のドイツとフランスの電力供給量
出典:ドイツの数値はBDEWFraunhoferより。フランスの数値はRTEのデータを基に総発電量を算出

 ドイツは、依然としてフランスよりも化石燃料による発電が多く、フランスは原子力による発電が大半だ。ドイツの総発電量に占める自然エネルギーの割合は、国内の電力消費量の半分に相当する。そして原子力による発電は、2022年前半には、輸出電力量を下回った。一方、フランスは、原子力による発電が自然エネルギーのほぼ3倍だ。化石燃料による発電が、ドイツの20%以下に留まっているのは、気候政策の観点から重要だと言える。

 プーチンのウクライナ侵攻にともない高騰したガスや石炭価格の影響で、フランスの発電会社は、欧州で競争力を高めるだろうと期待する見方もあるかもしれない。ところが、フランスは2022年上半期に、しばらくぶりに電力輸入国に転じたのだ。1TWh程度ではあるが、輸入量が輸出量を上回り、これまで長い間電力輸出大国だった地位が、逆転したのである。電気ヒーターで電力の需要と供給のバランスが悪くなった第1四半期、フランスはたった1日を除いて毎日ドイツから電力を輸入しなければならなかった。その反面、ドイツはこの10年で欧州の主要な電力輸出国の地位についた。

 フランスが厳しい状況に置かれているのは、パンデミック騒動の前の年、2019年からの電力供給がどのように変化してきたかを見れば明らかである。
 
図2. ドイツとフランスにおける電力供給量の変化(2019年上半期から2022年上半期まで)
出典:RTEBDEWのデータを基に総発電量を算出

 ドイツが計画的に原子力の削減を行ってきたのに対して、フランスは、そのつもりはなかったのに、原子力の削減量がドイツの2倍以上となった。その原因は、定期点検や、腐食や亀裂など不具合の発見による稼働停止、そして猛暑により水温が上昇し、冷却水の利用ができなくなるなど天候による要因によって、原子力発電所の出力低下が重なったためである。また、2012年までに運転開始する予定だったフラマンビル原子力発電所第3機がまだ稼働できていないことも、影響を及ぼしていると考えられる。

 ドイツは、総発電量に占める原子力の割合の減少分を、主に自然エネルギーで補い、化石燃料の割合も減少させた。一方フランスは、原子力の減少分を、輸出から輸入に大きく転じたこと、そして自然エネルギーによる増加分をも上回る化石燃料の増加分によって補った。

 フランスでは、原子力の稼働が計画通りに実施されなかったのにもかかわらず、発電による温室効果ガス排出量は、ドイツより少なく済んだ。

 ドイツは現在、フランスに対して、電力を輸出する重要な国であり、スポット市場価格はフランスの方が高い。それでも、フランスの家庭用電力料金はドイツより低い。これは、ドイツの税金や賦課金の影響だと考えられる。他方で、フランスの電力大手EDF(フランス電力)が経営危機に陥り、その結果完全に国有化され、納税者による多額の救済措置が必要になると見込まれる状況も考慮しなければならない。

 ドイツでは、大手電力会社ユニパーを救済するために、多額の公的資金が投入されたが、その主たる理由は、ロシアからの天然ガスが契約通りに供給されなかったためである。

 以上のような状況は、欧州のエネルギー供給体制が直面しているダイナミックな変化の一部に過ぎない。これから迎える冬には、フランスやドイツ、そして欧州各国の電力市場において、さらに劇的な変化が起こるかもしれない。

 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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