衰退する原子力の展望

トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団 理事長 / フレドリック・ルンドベリ 原子力ジャーナリスト

2021年3月10日

in English

 原子力の未来は消えつつある。自然エネルギー電力のコストは下がり続けているが、原子力は違う。経済競争力の低下は、ずっと前から始まっている。世界の原子力発電のピークは2006年。日本ではすでに1998年だった。

 東京電力福島第一原子力発電所の炉心溶融にともなう原子力産業の信頼性の崩壊は、世界の気候政策へ貢献することで原子力産業が回復する、というビジョンを消滅させた。

 2011年以降、世界で51基の原子炉が着工された一方で、74基が閉鎖された。運転開始前に閉鎖されたものもある。赤字は拡大の一途をたどっている。

 2019年には、世界で5基の原子炉の建設工事が開始されたが、13基の原子炉が閉鎖された。2020年には、わずか3基の原子炉が着工され、別の6基が閉鎖された。原子力発電を支援するために設置されたウィーンの国連国際原子力機関(IAEA)は、世界のすべての原子炉のデータベースを保持しているが、このデータは、各国政府から提供される公式情報に依拠しているので、政治的なものとなる。IAEAによると、日本では長期停止中の原子炉は1基もない。33基が「運転中」となっている。より客観的な情報源は、「世界原子力産業現状報告(World Nuclear Industry Status Report)」で確認できる。

 しかし、原子炉の数だけが唯一の指標でははない。導入済みの総発電電力量もまた指標となり得る。1960~70年代の原子力産業は、特にフランスで、同じような原子炉を連続して設置するというアイデアを試みたが、これは予想されたようなコスト削減にはつながらなかった。次のアイデアは、可能な限り大型の原子炉を作り、1kWhあたりのコストを下げることだった。その結果、現在稼働している新しい原子炉は、すでに閉鎖された旧型の原子炉よりも大きい傾向にある。そうして、IAEAによると、世界の原子力の設備容量は、2011年3月の375GWから今日の393GWへと増加しているようだ。

 しかし、大型原子炉を建設するというアイデアは、再び、安価な電力を生み出すことに失敗した。IAEAの数字は運転中の発電設備容量の増加を示している一方で、発電電力量はいまだに2006年当時の水準を下回っている。

 これは、日本の、発電していない原子炉を、数年にわたって「運転中」とリストアップする政治的な措置によるものだと考えれば、簡単に説明できる。

 新たな原子炉建設にかかる費用が、自然エネルギーの2倍、または3から4倍、あるいは5倍になると想定されるにもかかわらず、新しい原子炉プロジェクトに金をつぎ込む国もある。それは、多くの場合、明示的であれ暗黙のうちであれ、発電以外の目的のために、原子力の技術的能力や、設備や核物質を維持または開発したいからである。

 しかし、軍事防衛の観点からは、原子炉や再処理工場は、何かあった時に深刻な放射能の影響をもたらすという軍事的脆弱性があり、結果として、国の防衛能力を弱めてしまう。

 そして、経済的な観点からみると、経済競争力がないのに政治的に電力市場におしつけられた原発は、多大な非効率性と追加コストを生み出す傾向がある。こうして、産業的にも経済的にも国を弱体化させる。

 自然エネルギーは常に原子力よりも多くの電力を供給してきたが、その差は、20年前にはわずかだった。それが今では3倍となっている。水力発電がなくても、太陽光や風力の急速な成長によって、自然エネルギーは世界的に原子力を抜いている。

 気候保護は、原子力容量を拡大していく理由づけにはならない。化石燃料から代替するには、自然エネルギーの方が安価で効率的だからだ。エネルギー部門における原子力の未来は暗い。
 

[特設ページ] 福島第一原子力発電所事故から10年とこれから

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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