自然と調和するエネルギー利用:日本でも地熱の活用を

ステファン・ラウルス・ステファンソン 元駐日アイスランド大使

2021年3月8日

in English

3月11日14時46分、東京 高輪・アイスランド大使館にて

 私はあの日、アイスランド大使館1階にある執務室のデスクで、夕食は品川駅向かいにあるとびきりうまいラーメン屋に行こうとぼんやりと考えていた。家族はアイスランドで休暇中だったため、食事は簡単に済ませていたのだ。

 3月11日の14時46分。冷たい突風が執務室を静かに吹き抜け、続いてかすかに揺れた。商務官のハセガワ・アキコさんがアイスランド語で叫んだ。「jarðskjálfti(地震です)!」と。

 ああ、またか、と思った。その週の水曜日にもM 7.0の地震があり、日本の東海岸沖で地震活動が活発化する中、それの大きいやつだろうと思っていた。

 何という誤りだったことか。

 大きな地震が襲ったのはその後だ。突然、M 9.0という大地震が起きた。観測史上4番目、これまでに日本を襲った中でも最大級の地震だった。地震は6分間続き、本州の22万5000平方キロメートルという範囲を2.4メートル東に移動させた。アイスランドの国土面積は10万3000平方キロメートルである。

 初めて、ここで死ぬのだと思った。

 私はデスクから離れなかったが、日本の大使館職員たちはそれぞれに受けてきた訓練通り、机の下や出入口そばでうずくまった。

 だが、私はそうしなかった。

 3階建ての大使館の建物が頭上で崩壊するのであれば、机の下で虫けらのようにつぶされた状態で救急隊員に発見されたくなかった。人間らしくデスクに座った状態で見つけて欲しかった。

 辺りが静まり、まるで時間が止まったかのようだったが、さっきからじんじんと耳鳴りが続く。そう思っていると、再びアキコさんが声を上げた。津波が仙台と東日本を襲ってきていて、その範囲には東京から約238キロ北東に位置する福島第一原子力発電所も含まれると言うのだ。わずか238キロ! 性能の高い三菱自動車なら2時間の距離だ。

 テレビは、恐ろしい状況を生中継していた。東日本沿岸で人々が亡くなるさまをリアルタイムで伝えていたのだ。福島第一では原子炉を冷却する発電機が津波により機能が喪失されていた。

 福島からのライブ映像をは、素人目にはハルマゲドン、若しくはチェルノブイリの再来のように思えた。

 三菱重工の友人たちは、もはや瓦礫と化したねじれた金属の山からの放射性物質の拡散に関する最新情報を伝えてくれた。

 東京が放射性の雲に覆われる可能性があるとの報道を受けて、数十万人もの人が東京を脱出した。23の大使館がその門を閉じ、外交官らは国内の最も遠く離れた地域または海外に避難した。フィンランド大使館とノルウエー大使館の閉鎖によって、北欧諸国の一体感すら消えた。

 しかし、私はアイスランド大使館を閉鎖しなかった。自らのポストから離れないことを選択したのだ。

 私はここで死ぬのだという思いが脳裏をよぎったのはこれが2度目だった。

 運命というのは何と皮肉なものだろう。私は自らのキャリアの大部分、日本を含めた国々に対して、クリーンで安価で、環境を汚染しない地熱エネルギーを推奨してきたというのに、日本で放射線被ばくによって死ぬことになろうとは。

日本における地熱利用

 ここまでは当時の話。あれから月日が流れた。

 私が思うに放射能は新型コロナウィルス感染症と類似している。コロナウィルスも放射能も透明で目に見えるものではなく、大量に浴びると致命的となる可能性がある。

 私は駐日大使として、日本の人々がいかに恵まれているか驚いたものだった。インドネシアは地球の地熱エネルギー源のおよそ40%を保有しており、アメリカは地熱利用総計世界第1位であるが、日本は地熱エネルギー源に恵まれた国の中でもトップクラスである。例えば、雪深い北海道地域から本州西岸に至るまでアイスランドで行われているような地熱による地域熱供給暖房システムの設置が可能である。アイスランドでは90%以上の住居が地熱による温水暖房が導入されており、そして日本の地熱技術を使って発電も行っている。アイスランドの地熱タービン全体の95%が日本製であり、三菱重工業や富士電機など2社が挙げられる。

 2019年3月9日付のジャパンタイムズ紙の記事、「日本の地熱エネルギーの可能性を解き放つ」(Unlocking Japan‘s geothermal energy potential)を読むと、まるで2008年当時の同紙記事を読んでいるような錯覚に陥る。日本はここ10年進歩してこなかったのか。日本が利用している地熱エネルギーは約500MWに過ぎず、約750MWのアイスランドより遥かに低水準である。地熱資源保有国として第8位のアイスランドに対し、第3位であるにも関わらずである。

 ジャパンタイムズには従来通りの反対意見が掲載されている。「温泉事業者らは、地熱エネルギーが温泉に悪影響を及ぼすとしており」、「地熱エネルギー開発は温泉の枯渇、または温泉の質を変えてしまう」という主旨のものだ。

 日本の皆さんはアイスランドのブルーラグーンについてお聞きになったことがあるだろうか。

 ブルーラグーン(アイスランド語名Bláa lónið「ブラォア・ロニズ」)は、アイスランド南西部にある、地熱エネルギーを利用した露天温泉施設である。レイキャネース半島の溶岩源という、地熱エネルギー利用に最適な場所に位置し、スヴァルスエインギ地熱発電所から汲み上げた地下熱水の排水を利用している。ケフラヴィーク国際空港から約20キロと近いブルーラグーンはアイスランドで最も人気のある観光地の一つである。今や「絶対に外せない」観光スポットとなり、来訪者数は1994年の約5万人から今年は130万人に伸びた。

 現在、アイスランドの電力は、地熱が20%を占め、他は水力で、ほぼ100%が自然エネルギー由来のものである。地熱エネルギー源の66%を直接利用し、一般家庭の暖房の約90%は地熱エネルギーで賄われている。

 2011年の東日本大震災後に行われた試算では、日本がアイスランドと同レベルの地熱活用をした場合、原子炉25基分に相当するとされた。

貯水地管理

 私は地熱エネルギー、そして地熱貯水地管理に関するアイスランドの経験について日本で何百回も講演してきた。

 「アイスランドにおける地熱貯水池管理」(Geothermal reservoir management in Iceland)という科学論文で、国立エネルギー局(National Energy Authority of Iceland) および Vatnaskil Consulting Engineersは次のように述べている:

アイスランドでは商業利用されている地熱貯水池が40カ所ほどあり、その多くが30年以上にわたり利用されてきた。このような資源利用は1930年に始まった。その後65年間の地熱貯水池管理は、その活用のための中核的な役割を担っている。

 アイスランドの地熱貯水池が貯水池の枯渇によって利用中止となったことは一度もない。

 その根拠は、注意深い貯水池モニタリング、そして将来的な状況予測である。

 2012年2月17日、アイスランドにおいて、ある覚書が締結された。
アイスランド外務省と日本の超党派の国会議員でつくる地熱発電普及推進議員連盟の間で署名された「地熱エネルギー分野での協力に係る覚書」である。

 国会で始まった地熱エネルギー協力の覚書は現在も有効だ。

アイスランドにおける最近の二つの動き

 ThinkGeoEnergyのアレクサンダー・リクター氏より:
「リソースパーク」は、アイスランド南西部、首都レイキャビク近くのレイキャネース半島に位置するエネルギー企業HSオルカ社の地熱発電施設近郊で開発された。その独自モデルを通じ、地熱エネルギー活用に係る新しい考え方を紹介し、地熱資源を最大限に開発・利用するよう促進している。HSオルカが運営するリソースパークは、同社に委託された貴重な資源に関する認識を高めたいとしており、その責務は施設を今後何世代にもわたり存在させることである。「資源の多目的利用が責任ある資源利用を支援し、社会の持続的な発展に寄与する」とHSオルカのリソースパーク・ディレクター、Kristín Vala Matthíasdóttir氏は述べている。
 

Photo: レイキャビク・アートミュージアム使用許可により掲載。
Photo: Ragnar Th. Sigurðsson
 

 ウイキペディアより:
アイスランド語で「平和の塔」という意味の(Friðarsúlan)イマジン・ピース・タワーはレイキャビク近くのヴィーズエイ島にある。ジョン・レノン未亡人であるヨーコ・オノが記念碑として亡き夫に捧げたものだ。24カ国語で「Imagine Peace」(平和を想像しよう)と彫り込まれた純白の石版モニュメントから光の塔が浮かび上がり、文言や塔の名称はジョン・レノンの平和キャンペーン、そして楽曲「イマジン」に基づく。

 タワーは反射鏡としてプリズムの働きをする15のサーチライトで構成され、幅10メートルの「願いの井戸(ウィッシング・ウェル)」から複合した光束が空に向けて垂直に光の塔を形作る。雲まで届くことが多く、雲を突き破る様を見ることができる。晴れた夜には高度4,000メートルをも超えるかのようだ。光源はアイスランド独自の地熱エネルギーグリッドによるもので、消費電力は約75kW 。アイスランドの美しさ、そして環境に優しい地熱エネルギー利用がその建設地選定理由となった。

[特設ページ] 福島第一原子力発電所事故から10年とこれから

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

当サイトではCookieを使用しています。当サイトを利用することにより、ご利用者はCookieの使用に同意することになります。

同意する