日本の重大なエネルギー選択

エイモリー・B・ロビンス ロッキーマウンテン研究所共同創立者・名誉会長/スタンフォード大学土木・環境工学非常勤教授/自然エネルギー財団理事

2021年3月10日

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 今から6年前、朝日新聞(2014年1月18日付)への寄稿で、私は「日本は化石燃料資源には乏しいが、自然エネルギーの資源は主要工業国のなかで最も豊富だ」と述べた。では、なぜ「ドイツの9倍もの自然エネルギー資源を有している日本がドイツの9分の1(大型水力発電を除く)の量しか自然エネルギーで発電していない」のだろうか。それは「日本の電力会社による寡占体制が競争を阻んできた」からだ。日本とドイツの正反対のエネルギー政策が「福島原発事故後の明暗を分けた」。あれから10年が過ぎ、日本は自ら招いた痛手から回復したのだろうか。

 2011年3月11日の東京電力福島第一原子力発電所の事故の直後、ドイツ政府は、原子力発電所容量の41%を閉鎖したが、その年のうちにほぼ自然エネルギーに置きかえた。そして、2010年に17%だったものを、2019年には41%、2020年には48%を自然エネルギーで賄った。電力会社を保護するために自然エネルギーの導入を遅くしようとする政府の努力をよそに、自然エネルギーは、ドイツの経済競争力を高め、より信頼性と災害に対する復旧力が高い電力源となった。

 ドイツでは、20年前に合意した原子力の段階的廃止期限が2022年に近づくにつれ、化石燃料による発電も減少しつつある。ドイツの温室効果ガス排出量は2019年に53%減少した。2020年には、風力発電の発電電力量は、石炭と褐炭を合わせた発電電力量を上回った。電力部門は、2020年の気候目標を5%の余裕を残して1年前倒しで達成した。今年ドイツは、2015年に運転開始したばかりの複数の石炭火力発電所の閉鎖を開始するが、これは、火力発電所の運転には、新しい自然エネルギーやエネルギー効率化よりもコストがかかるからだ。

 ドイツは日本と比べて、国土が若干狭く、人口は少なく、GDPは低く、太陽や風といった資源にも恵まれていない。2010年から19年の間に、日本はドイツより88%多く太陽光発電を導入した(増加したルーフトップ型の太陽光発電は、2014年以降小売電力価格よりも安くなっている)。一方で、ドイツは日本より1,685%も多い風力発電を導入した。ドイツは、完全かつ公平な送電網へのアクセスと完全な競争を実現し、市場独占を排し、主に地域社会の所有により作られた強力な国内市場を基盤に、世界屈指の自然エネルギー産業を築いてきた。日本はその逆を行った。ドイツは新しいエネルギーシステムを実現した。日本は古い体制を保護した。

 日本はドイツと同様に、3.11以前は電力の30%近くを原子力で発電していたが、その後全てを失った。原子力の発電量は、2010年と比較して2019年では224TWh減少しており、ドイツが減らした発電量66TWhの3倍となっている(最近の日本での原発再稼働は、小規模かつ不安定で、明らかに経済的ではなく、おそらく一時的なものであろう)。そして、増減した発電量では、ドイツ(177TWh/年)が日本(233TWh/年)を24%下回ったにすぎない。しかし、正反対の政策は、電力シフトによる両国の電源構成を真逆にすることとなった。

 日本は、失った原発による発電量を、主として、コストがかかり場合によっては不足することもある化石燃料を輸入することで置き換えたため、化石燃料による発電量が、9TWh/年しか減少しなかったが、ドイツでは、94TWh/年減少した(2020年までに131TWh)。古い火力発電所を競争から守るために、政府が風力発電の伸びを巧妙に抑制したにもかかわらず、日本の電力のうち自然エネルギーによる発電が占める割合は、2010年の11%から2019年には18%に増加した。ただし、自然エネルギーによる発電量の比較では、日本が75TWh/年増加したのに対し、ドイツは139TWh/年増加している。このため、日本では、発電部門における卸電力価格の高騰と二酸化炭素排出量の増加が見られる一方、ドイツでは低下・減少している。

 日本の、規律ある節電に寛容な社会は、電力消費量を142TWh(12%)削減し、ドイツの41TWh(7%)を上回った。しかし、ドイツのGDPは日本の8%に対して17%と倍以上の成長を遂げているため、ドイツの電力生産性は日本よりも高くなっている。

 両国とも、エネルギーの効率化は遅れていたが、遅れは日本の方が大きい。最新のエネルギー効率についての国際評価(2018年)によると、日本は商業用ビルでは25カ国中16位、居住用ビルは6位、産業部門は2位だが、産業用コージェネレーション(熱電併給)は20位、自動車は16位、貨物は19位で、総合ではドイツとインドネシアに並ぶものの、台湾、中国、イタリアよりも低い。日本のエネルギー効率政策は改善されてきているとはいえ、いまだ不十分である。竹中工務店は自社の典型的な東関東のオフィスの大規模な改修工事を行い(入居中に実施)、環境配慮型建物に改修した結果、エネルギー使用量を72%削減し、創エネルギー量がエネルギー消費量を上回るようになった。しかし、5年経った今も、この取り組みは取りざたされないまま、国のモデルとはなっていない。

 自動車産業の統率力にも失望する。1990年代後半のトヨタとホンダの見事なハイブリッドカーの進歩は、バッテリー電気自動車に追い越され、(経済産業省によれば)日本はこの分野で欧米諸国に大きく後れを取っているという。ドイツのフォルクスワーゲンは今後5年間で600億ドルを投じて100種類の電気自動車を展開、ゼネラルモーターズは2035年までに、販売する全モデルを電動化する予定だ。菅総理の巻き返し戦略では、今後ガソリン車を段階的に廃止しつつ、ハイブリッド車を主力から外し、電気自動車を支援していく計画だ。だが、不可解なことに、トヨタは抵抗している。トヨタの水素自動車は優れた技術だが、コストがかかる。2007年のカーボンファイバー製コンセプトカーよりも鉄製のプラットフォームの重量が4.6倍重いため、燃料電池が2~3倍も大きくなり、燃料補給も複雑になるためだ。日本がカーボンファイバーの世界的リーダーであることに変わりはないが、カーボンファイバーを使用することでバッテリーを減らし、製造工程を大幅に簡素化して採算性を高めた電気自動車を初めて商品化したのは誰だったろう? ドイツのBMWだ。同社はこのタイプの自動車を2013年に発売した。

 2012年に導入された発電設備容量の、米国は49%、欧州は69%が、自然エネルギーであった。2020年、国際エネルギー機関(IEA)は世界全体では90%になると予測した。しかし、それから2カ月のうちに、中国は予測の3倍もの風力発電を導入し、わずか一年間で133GWもの自然エネルギーを導入した−2020年一年間で中国が導入した風力と太陽光の発電設備容量は、2019年の日本の風力と太陽光の総容量を82%上回った。IEAは2020~25年の自然エネルギーの市場シェアを95%と予測している。これは自然エネルギーが、世界の85%の国や地域で最も安価な基幹電源であるためである。自然エネルギーは、すでに欧州では化石燃料を、世界全体では原発を凌駕している(中国では2倍)。自然エネルギーは、原子力発電が世界全体で一年間に追加するのと同じくらいの発電設備容量を、二日ごとに追加しているのだ。

 では、なぜ日本はいまだに自然エネルギーよりも原発を好むのだろうか? それは、日本の巨大な原子力産業が国のエネルギー政策を支配しているからだ。九州電力が費用のかからない太陽光発電を出力抑制し、よりコストの高い原発を優遇しているために、中央政府は、自然エネルギーはコストが高く、送電網に統合するには不安定だ、という神話を広めている(欧州の機関が公表した日本に関する最新分析の内容に反している)。

 しかし、日本のエネルギー政策が原子力へ偏っていなかったとしたらどうだろうか? 海に囲まれた、より小さな国 ― 結束力と高い能力を誇り、歴史的に見て化石燃料に乏しく(近年、海底石油・ガス探査を中止した)、高度な技術・産業と並んで力強い農業の伝統があり、原子力発電を導入したことがない。この国はどうしただろうか?

 この小国:デンマークは、最もエネルギー効率が高い国の一つであるにもかかわらず、毎年2%以上のエネルギー減退を削減している。卸電力価格は欧州で最も安く、停電は最も少ない。2019年の電力消費の79%が自然エネルギーによるもので、現時点では90%に迫っている。2020年の発電電力量は風力と太陽光が全体の61%を占めている。デンマークは、2030年までの100%自然エネルギー電力の達成に向けて順調に進んでいるが、日本は2019年の時点で18%(水力発電を除くと10%)にとどまり、2030年までに22~24%とする目標を議論している。デンマークでは、半分を風力が発電しているが、農業バイオエネルギーはさらに多くの熱と電気を生産している。

 デンマークの輸出品全体の8分の1はエネルギー技術(その半分以上が風力関連)で、民間雇用の6%がグリーンテクノロジー産業である。また、デンマークは中国をはじめとする16カ国に対してエネルギー転換についての貴重な助言を行っている。デンマークの戦略は、強力かつ永続的な合意に基づいており、2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で70%削減することを義務付けた国家気候法は議会で95%以上の賛成票を獲得して可決された。また、各セクターの気候行動計画は、閣僚レベルのグリーン・トランジション委員会により調整されている。デンマークは2050年までに、あらゆる種類の、同等かそれ以下のコストの自然エネルギーを100%とし、優れた安全性と競争力を持つことを目指している。

 日本は、政治・経済が自国の産業能力と市民の希望を受け入れれば、これと同等かそれ以上のことができるだろう。しかし、支配的な原子力や化石燃料の利権者は、自然エネルギーの送電網へのアクセスを恣意的に阻むことで、確実な競争を巧みに回避している。これはコストを膨らませて投資を阻害し、日本の豊かな自然エネルギー資源は生かされず、自然エネルギー設備の輸出を大きく後れたままにしている。

 河野太郎規制改革担当大臣や、小泉進次郎環境大臣を中心とした新しいリーダーシップは、旧態依然とした硬直状況の改善に着手している。日本の産業が、現代の顧客が求める気候パフォーマンス基準を満たせずに世界のサプライチェーンから締め出される前に、古い閉塞感は払拭されるのだろうか。日本のビジネスと金融界のリーダーたち、そして日本の市民がそれを選ぶだろう。時間は限られている。

 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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