日本の洋上風力発電の現状について

市村 将太 自然エネルギー財団 上級研究員  

2020年7月13日

in English

 日本政府の「エネルギー基本計画」は、総発電電力量に対して2030年度に風力が占める割合を1.7%程度とし、導入設備容量を10GW、なかでも洋上風力は0.8GWとしている1 。一方で、日本風力発電協会(JWPA)は、洋上風力の中長期の導入目標値を、2030年までに10GW、2050年までに37GWと見込み2、2018年の段階で、建設準備中や環境アセスメント手続き中の案件、今後の導入促進を考えれば、2030年の値は充分達成できるとしている。事業者の見通しに比べ、現在の政府の目標値は、市場シグナルを送るのに充分であるとはいえない。

 過去10年、海外諸国が積極的に洋上風力の諸制度を整備し、促進してきたなかで、 日本の取組は遅れている。しかしここにきて、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(「再エネ海域利用法」、2019年)が制定されるなど3 、次第に環境が整いつつある。この「再エネ海域利用法」により、洋上風力発電の事業のさまざまな要件を満たす一般海域の区域を促進区域とし、事業者は最大30年間占用することが可能となる。2019年7月、資源エネルギー庁及び国土交通省港湾局は、既に一定の準備段階に進んでいる区域として11区域を整理し、このうち4区域については、有望な区域として利害関係者の調整等を行う協議会の組織等を開始するとした4  (図1)5 。そして、促進区域に指定された後、公募に基づく事業者選定が行われる。
 

図1.  促進区域の指定に向けた有望な区域等の整理
出典:資源エネルギー庁


 以下、有望な4つの区域について状況をみていきたい。

 まず、「長崎県五島市沖」は、2019年12月27日に他に先駆けて促進区域に指定された地域である6 。当該区域の近傍で戸田建設株式会社が環境省の実証事業を行い、その後、風車の場所を移動して実用化し、2016年4月から運転を開始している(2MW, 1基。なお、この風車は日立製作所製であるが、2019年1月25日に生産の撤退が発表されている)7, 8 。ただし、今回の公募の対象が浮体式洋上風力となったこと、また価格が36円/kWhと固定されたことから9 、事業者の選考課程でのコスト競争はなく、これまでの事業実施経験等が優遇されるため、先行事業者が有利であるとみられている。

 県としても洋上風力導入に熱心な秋田には、2つの有望な区域がある。まず、「秋田県能代市、三種町および男鹿市沖」では、以前から複数の事業者が競合している。その一つの秋田県北部洋上風力合同会社は、代表社員を株式会社大林組として、業務執行社員に関西電力株式会社及び東北電力株式会社の2社を加えて構成されている10。事業の規模は最大出力455MW(最大120基)で、環境影響評価については配慮書(2016年3月)・方法書(2016年6月)・準備書(2019年11月)が公開されている11 。ここでは住友商事株式会社も計画を進める。最大出力540MWで、環境影響評価について、配慮書を2019年7月に公開している12 。なお、住友商事は2020年5月に東電リニューアブルパワー等の7社とコンソーシアムを組成することを発表した13 。さらに、この地域では、2020年6月に、中部電力株式会社と三菱商事パワー株式会社が環境影響評価の配慮書を公開している(最大出力480MW) 14

 もう一つの「秋田由利本荘市沖」では、先行事業者として秋田由利本荘洋上風力合同会社が、株式会社レノバ、コスモエコパワー株式会社、JR東日本エネルギー開発株式会社、東北電力株式会社により構成され事業に取り組んでいる15 。事業の規模は最大出力1,000MW(最大140基)で、環境影響評価については配慮書(2017年5月)・方法書(2017年11月)・準備書(2019年10月)が公開されている16 。ここでは、ドイツ電力大手の日本法人であるRWE Renewables Japan合同会社と九州電力子会社の九電みらいエナジーも共同で事業実施を検討していることが報道されている17 。加えて、株式会社ウェンティ・ジャパン、中部電力株式会社、三菱商事パワー株式会社も、この地域で事業を検討していることが分かった18

 太平洋側では、「千葉県銚子市沖」が有望な区域として挙げられる。東京電力ホールディングス株式会社とオーステッド社は、2019年1月に協働に関する覚書を締結し、2020年3月に銚子洋上ウインドファーム株式会社の設立に合意し、公募へ向けて開発を進めると発表した19 。最大出力370MW(5.2MW, 最大72基~12MW, 最大31基)の事業である20 。なお、東京電力グループは、銚子市沖で新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で実証試験を実施した経験がある21

 さらに、2020年6月16日には、先に促進区域に指定された「長崎県五島市沖」以外の3区域について、促進区域の指定の案の公告及び縦覧がなされた22。また、今年度の促進区域の指定へ向けた候補に関して、2020年7月3日に資源エネルギー庁と国土交通省港湾局は、すでに一定の準備段階に進んでいる区域として10区域を整理し、このうち、「青森県沖日本海(北側)」・「青森県沖日本海(南側)」・「秋田県八峰町及び能代市沖」・「長崎県西海市江島沖」の4区域について、有望な区域として発表した23。事業化を加速するさまざまな動きが活発となってきた。

 今年度は「再エネ海域利用法」により初めての事業者が公募選定される予定で、促進区域についても2ラウンド目が開始された。公募に応募した事業者は、価格および事業実現性に関する要素のそれぞれについて、120点を満点として評価されるが、事業者の選定に際しては、事業者間の公平性が担保されることはもちろん、今後の拡大も考慮した事例の積み上げとなっていくことが望まれる。

 風力発電業界は、豊富な海外の知見を日本に呼び込み、洋上風力の事業拡大を促進するために、「日本洋上風力タスクフォース(Japan Offshore Wind Task Force)」を立ち上げ、業界全体で取り組む姿勢となっている24。さらに、欧州でも実施されてきたような「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」が設立され、洋上風力事業を展開していく上での課題を整理し、必要とされる政策を明らかにしていく、官民協働で産業を拡大する目指す動きも始まった25

 洋上風力は、日本の電力需要に比較しての国内ポテンシャルが非常に高く、日本の脱炭素化のための重要な電源である。また事業規模も大きく関連産業の裾野も広いため、今後、国内外の投資を呼び込んで、日本の新しい主力産業に育てていかなくてはならない。財団でも今回お伝えしたようなさまざまな動きを追いながら、拡大支援のための提言をしていきたいと考えている。



 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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