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マサチューセッツ州の新政策「SMART」
さらなる自然エネルギー拡大に向けて

工藤美香 自然エネルギー財団 上級研究員
2019年10月1日
筆者は、2019年夏、米国務省が実施するInternational Visitor Leadership Program(IVLP)に参加し、マサチューセッツ州を訪問する機会を得た。本コラムは同州での見聞結果をもとに情報を収集し執筆したものである。

 米国の自然エネルギーの拡大は風力発電が主力だが、太陽光発電も広がりを見せている。マサチューセッツ州は、太陽光発電の導入に積極的で、2019年3月までに約2.4GWを導入した(全米5位)が、さらに2018年から新しい政策を開始した。また同州は、脱炭素化に向け全米の中でも強いイニシアティブを発揮し続ける州の1つでもある。その背景には「持たざる州の強み」がある。
 

1. マサチューセッツ州の自然エネルギー導入促進策

 マサチューセッツ州は、米北東部ニューイングランド地方にあり、北海道の襟裳岬と同じくらいの緯度に位置する。面積は約27,000km2で、岩手県と秋田県を足したより少し大きい。人口は約700万人である。
 
図1:マサチューセッツ州の位置(赤丸部分)

 マサチューセッツ州の卸電力市場であるISO New England(ISO-NE) は、天然ガスと原子力による発電割合が高い。ISO-NEと域外には連系線があり、過去1年間を見ると、最大で需要の約4分の1以上を域外からの輸入で賄う。州内の発電に限ってみると、天然ガス火力が3分の2を占めており、石炭火力はゼロである。なお、同州は天然ガスを他州から輸入しているが、パイプラインによるほか、ニューイングランド地方唯一のLNG基地も抱える。LNGは主に冬の暖房用に必要で、ニューイングランド地方の天然ガス需要のおよそ1割は液化天然ガス(LNG)に依存している 1

 これまで、同州の自然エネルギー導入促進策の大きな柱は、電力供給事業者に対し供給電力の一定割合を自然エネルギー由来の電力にするよう義務付ける「RPS制度」(Renewable Energy Portfolio Standard)だった。2003年から始まり、年々義務の割合を上げ、2019年は約20% 2となっている。

 RPSの達成には、自然エネルギー電力証書REC(Renewable Electricity Certificates)が大きな力を果たしている。自然エネルギー発電施設所有者(自然エネルギー発電事業者)には、発電量に応じて証書が発行され、発電事業者はそれを市場に売ることで収入を得る。RPSによって自然エネルギー由来電力の供給を義務付けられた電力供給事業者は、RECの重要な買い手であり、RECは、RPSの義務履行とともに、売り手の投資回収を促進し、資金がさらに次の投資に向かうことを展望した制度となっている。

 ネットメータリング制度による太陽光発電導入にも力を入れている。住宅用太陽光発電設備をもつ人は、電力消費量から発電量を差し引いた差分の電気料金を電力供給会社に支払う。発電量の方が上回ったらその超過分を翌月に繰り越せる。

 また、2010年から2018年まではRPS Solar Carve-Outという制度も実施された。これは、新規の太陽光発電導入の目標値を設定した上で(当初650MW超、のちに1,600MW)、一定の条件を満たす太陽光発電に証書(Solar Renewable Electricity Credit)を付与し、電力供給会社にSRECの一定割合の調達を義務付けたものだった。いずれの目標も期限前に達成されている。
 
 しかしながら、この政策には課題があった。まず、SRECの市場は価格の変動があり将来の収入予測が難しく、財務コストが高くなるため、安定した投資を呼び込む工夫が必要だった。また、SRECの価格によってインセンティブの額が決まるため、最終消費者が負担するコストの予測も難しかった。

2.新しい太陽光発電導入拡大政策「SMART」

 そこで、2018年から新しく始まったのが、Solar Massachusetts Renewable Target (SMART)である。SMARTでは、1,600MWの新規設備容量の導入が予定されており、新しく建設された太陽光発電施設所有者に対し、発電電力量(kWh)に応じたインセンティブが上乗せされて支払われる。対象となるのは5MW(AC)以下の発電施設で、25kW以下は10年、それより大きいものは20年間インセンティブが付与される。

 インセンティブ額の計算方法は、発電施設のタイプによって2つに分かれる(図2)。まず、自家消費をせず全量販売を行う発電施設は、インセンティブ受取期間中固定額の収入を受け取る。まず固定収入額が設定され、それと電力価値との差額がインセンティブとして支払われる。一方で、余剰電力を販売する施設は、初年度にインセンティブの額が決められ、期間中その額を固定で受け取る。いわば、前者はプレミアム固定型、後者はプレミアム変動型のFeed-in Premium(FiP)制度をイメージしてよいだろう。制度の詳細は、さまざまな条件の下で細分化されておりかなり複雑だが、ここではSMARTの大きな特徴を2つ紹介したい。現在、日本でもFiT制度の改定が議論されているが、投資や負担の予測可能性確保、また支援すべき設備の差別化というSMARTの考え方は、日本での議論にも参考になるだろう。

図2:SMARTの下で発電者が受け取るインセンティブのイメージ
 左は自家消費をしない発電施設、右はそれ以外の施設。
 青色は発電者が受け取る電力価値分、赤色がインセンティブ額。(ただし実際の価格とは異なる。)
出典:Massachusetts Department of Energy Resources, “Solar Massachusetts Renewable Target (SMART) Final Program Design” (Jan.31, 2017)
 
1)将来予測ができるインセンティブ価格の設定

 1つめは、インセンティブをいくらにするか、その金額の決め方である。おおざっぱにいうと、応募枠をあらかじめいくつかに分け、後になるほどインセンティブの金額が減る仕組みになっている。

 まず、この制度で追加される導入量は1,600MWだ。これを最大8つの応募枠(ブロック)に分け、ブロックごとにインセンティブ価格を減額する。例えば、第1ブロックの応募枠がいっぱいになると、希望者は次のブロックの枠に応募できるが、前のブロックより低いインセンティブ価格を受け取ることになる。低減割合の基本は4%だが、地域の配電事業者の管轄により異なる。
 
 

図3:応募枠(ブロック)とインセンティブ額の関係のイメージ
横軸の数値は累積導入量で、SRECで導入された1,600MWを起点に3,200MWまで増加することを示す。
青色は発電者が受け取る電力価値分、赤色がインセンティブ額。(ただし実際の価格とは異なる。)
発電者が受け取る収入総額は青+赤であり、200MW追加導入されるごとに低減する様子を示している。
出典:図2に同じ
 
 この仕組みは、導入対象量を明確に示すことと、インセンティブの額を減額方向に調整しつつも事前に明示することによって、収入の予測可能性を高めて安定的に投資を呼び込み、インセンティブの負担総額の予測と低減を目指すものである。なお、基準となる第1ブロックのインセンティブ価格は、制度の本格実施に先立って配電事業者の管轄区域ごとに入札を行い、これをもとに決定されている。価格設定に競争の要素を取り込んだ点も興味深い。
 
表1:SMARTで発電者が受け取る基本収入額(第1ブロック)
 収入額は配電事業者の管轄区域により異なる。表の数値は下限と上限を示す。
 低所得者向けの価格は、太陽光由来電力の需要家の所得水準が一定以下の場合に適用される。
出典:Massachusetts Department of Energy Resources, “Solar Massachusetts Renewable Target (SMART) Program Summary” (Oct.31, 2018)を基に自然エネルギー財団作成


 発電者が受け取るインセンティブの総額は、SRECと比べSMARTの方がより低くなりうる。しかしながら、収入額が固定されることで財務コストが下がることになり、この点については発電事業者からも好意的に受けとめる声が聞かれた。

2)規模の限定と設置場所の誘導

 2つめは、規模と設置場所によるインセンティブ価格の差別化である。この制度の適用対象となるのは、5MW以下の比較的小規模なもので、かつ、小規模のものにより高いインセンティブ価格が設定されている。前述した応募枠(ブロック)にも、25kW以下用の枠が一定割合設けられている。また、設置場所や利用方法によってインセンティブ価格が増減される。例えば、屋根置き、水上、埋立地などのカテゴリーに該当すればインセンティブがkWh単位で加算される。逆に未開発地での事業の場合にはインセンティブが減額される。電力の購入者による加算、蓄電施設を併設した場合の加算もある。ここには、決して広いとはいえないマサチューセッツ州で、導入可能な場所を探り、より小規模で地域に利益が還元されるプロジェクトを推進する政策の方向性が表れている。

表2:SMARTにおける加算の例(一部)
 加算額も、基本収入額と同様、応募枠(ブロック)により一定割合で低減する。
 ソーラーキャノピーとは、太陽光発電設備を備えた「ひさし」。
 コミュニティソーラーとは、太陽光発電施設を共有する等して太陽光由来の電力を地域(コミュニティ)で使うシステム。
出典:表1に同じ

 また、設置場所への誘導策の1つとして、営農型太陽光発電が含まれている。Dual-useとも呼ばれ、kWh当たり6セントのインセンティブが加算される。発電施設の規模(2MW以下)、パネルの高さ(地面からパネル下辺まで約2.4m以上)、日陰率、収穫率などの指標があり、条件を満たしているかどうかは、インセンティブ付与期間全体にわたってモニタリングされる。これまでの営農型の取組みは試験的なものが多いようだが、農地利用の効率化や農業自体の活性化の施策の1つとしても、注目されている。

3.持たざる州の強みを活かす州の政策

 マサチューセッツ州は、全米でも脱炭素化・自然エネルギーの拡大に力を入れる州の1つである。2018年12月には、エネルギー全体について需要等の将来予測と脱炭素化目標達成に必要な施策をまとめた包括的プラン(Comprehensive Energy plan)を発表した。

 太陽光発電だけではなく洋上風力にも力を入れている。州の沖合には合計800MWの洋上風力発電所の建設計画がある。また、洋上風力発電を支えるインフラ整備も進めており、州の機関であるMassachusetts Clean Energy Center(MassCEC)が、風車の検査施設や洋上風車の建設等に利用できる全米初の港湾ターミナルをつくって管理している。

 こうした動きの背景には「持たざる者の強み」がある。マサチューセッツ州は天然資源がなく、かつては石炭を、現在は天然ガスを他から輸入している。エネルギーを他に頼らないために取り組んでいるのは、第一にエネルギーを使わないこと(効率化)。電気代が高いため、節電の意義も理解されやすいという。その上で、自給率を高めるために、自前のエネルギーである自然エネルギー(太陽光・風力)を増やしている。州内に化石燃料開発産業を抱えていないので、化石燃料からの脱却を積極的に進めることができるという。そして、エネルギー効率化や自然エネルギーの大量導入に有用な新技術の開発にも力を入れる。MITやハーバードなど州内の大学発スタートアップの活動も活発で、州もMassCECを通じて財政面の支援を展開している。

 マサチューセッツ州は、化石資源がないからこそ、それを強みに、化石資源に頼らない社会に向けて迷いなく進む。「日本も資源輸入国で、LNGの役割も大きく、この州と同じような状況だ」とは、同州を訪問した際、各所で聞いた言葉である。資源がないからこそ迷いなく化石燃料から脱却できるという強みを持つはずの日本が、今、輸入石炭による火力発電を増やしていることは、彼らにはとても信じられないだろう。

[10月10日追記]
2019年9月、同州のエネルギー資源省は、制度発足当初から予定していた400MW導入後の検証を行い、政策の一部改定を検討している。目標導入量をさらに800MW追加するほか、追加インセンティブの額や対象の調整などが含まれている。同省は2020年内に改定を実施する予定である。

(参考資料)
・マサチューセッツ州RPS、REC、Solar Carve-Outなどの自然エネルギー導入促進策
 Program summaries
 Annual Compliance Information for Retail Electric Suppliers
・SMARTについて
 Massachusetts Department of Energy Resources, “Solar Massachusetts Renewable Target (SMART) Final Program Design”
 Massachusetts Department of Energy Resources, “Solar Massachusetts Renewable Target (SMART) Program Summary”
    400MW Review Straw Proposal
Comprehensive Energy Plan
Massachusetts Clean Energy Center
 

 その他、IVLPで訪問したマサチューセッツ州各所でのヒアリング・意見交換の結果に基づく。米国務省、在日米国大使館、訪問先のみなさまに改めて感謝申し上げたい。

 


 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギーで豊かな日本を創ろう!アクション
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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